仲間
背筋を伸ばし、ぐ、と弓を引く。
世界から音がなくなるあの瞬間がとてつもなく好きだ。
ゆっくりと矢が飛んでいく。
「よし!!」
元気のよい掛け声が響く。
ふと思う、自分にもこんなに初々しい時があったのだと。
今はもう弓を引くことは出来なくなってしまったから。
そんなことを、考えながら学校のフェンスの外側にいた。
つ、とフェンスから離れ歩きだす。
自分にはもうあそこは相応しくないから。
あの大会で失敗して、部活を引退してから数週間がたつ。
友人は皆、お前の責任ではないと毎日言い続けてくれる。
だけど感じたんだ。
あの瞬間に…自分にはもう出来ないと。
どうしたって今までのようには矢を射ることが出来ないと。
今まで弓道だけに集中してきた。
ちょうどいいから勉強でもして過ごすよ。
そんな風に笑いながら友人には説明した。
「まだ2年生なんだから」
とか
「お前ならまたできるようになるって」
とか、そんな言葉を押し退け部長に退部届けを渡した。
初めての大前で、緊張していた。
そんなの言い訳にしかならない…結局は自分の責任だ。
坂道を登り、家に到着した。
そのまま家のなかに入ろうとしたが、それは叶わなかった。
弓道部の先輩、同期が俺を引っ張り近くの公園まで連れていったからである。
「なんなんですか!!」
かなりの音量でそう言ったが、誰も応えなかった。
静寂が辺りを包む。
皆が目配せをしあっているのを見ていらっときた俺が
「帰りますから!!」
と叫ぶといっせいに慌てるみんながおもしろかった。
が、ついに決心がついたらしい部長が
「戻ってこい」
と、カッコつけた声でいった。
今さら無駄だと思うのだが…。
だがそのひとことで勇気をもらえたらしい皆は一斉に畳み掛けてくる。
「戻ってこいよー!!」
「お前いなきゃつまんないじゃん」
「カッコつけてんなよ」
一言言わせてもらいたい
「カッコつけてんのはお前らだ!!
なんだよ!!人が責任とって、やめるって…いってるのに、なに
引き留めてんだよ…」
ほんと、なんなんだよ自分がかわいそうで涙出てきたぞおい。
あー、もう、こんなときにおどおどして、慌ててるお前らが大好きだよ。
悔しいから絶対言わないけどな。
それから数日後に弓道部に戻ることになった俺は案外ちょろいんだと思う。