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楽園の兵士達  作者: 0
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01

一番万人受けしそうな作品です。何か、降りてきた・・・(笑)

感想いただけるとありがたいです。

 地平線が遠く続いている。



 視界には黒い大地が広がり、空は皮肉なことに、清々しいほど蒼い。

 なぜ大地が黒いかというと、地面は死体で埋め尽くされているからだ。

 果てしなく続く死体の大地。雲一つ無い青空。

 それは大量虐殺(ジェノサイド)の爪痕だ。


 と、遠くの方で大地がモコリと蠢いた。


 その波はどんどん大きくなりこちらに迫ってくる。

 驚く間もなく足元の死体が口を開いた。

「おまえのせいだ」

 それを発端にすべての死体が口々に叫びだす。

「おまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだ――」

 ぼくは迫りくる波に飲み込まれ、思わず目を閉じる。


 再び目を開けると、そこには暗闇の中に一人の友人が立っていた。

 ぼくが、いや、ぼく達が一人で逝かせてしまった、大事な友人が。

「これが、君の選択だろう」

 友人――レイはそう言った。

「これが君が導いた終末なんだ」

 突如、視界は暗闇に包まれ、ぼくは気を失った。


「――トウマ、投下地点(リリースポイント)まで30分だ。起きろ」

 再び目を開いたとき、視界を同僚のユーリイが占拠していたので、小さく呻き声を上げてしまう。

 ユーリイ・アンドローポフは生粋のロシア人だ。ぼくと同じ27歳なのだが、無精ひげで2メートル近くの巨漢なため、ぼくより老けて見られる。

 もっとも、ロシアという国はもうない。


 75年前、アメリカの研究所から謎のウイルスが発生した。感染力は高く、感染すると体の色々な部分で血管が詰まり、膨張、破裂する。破裂するとウイルスは血や肉片と一緒にばらまかれる。ワクチンは効かず、どんな動物にも感染するそのウイルスは瞬く間に世界中に拡散した。そのワクチンの正体は、アメリカ国防総省が密かに開発していたナノマシンウイルス、「THE・DEAD」だった。ナノマシンウイルスだということが分かり、ナノマシンウイルス機能停止用プログラムの入ったナノマシン、「THE・ALIVE」がある技術者によって開発され、危機は去った。

 それ以降、個々の国が力を持つのは危険だとされ、すべての国を一つに統合する計画が始まった。国という組織ではなく、あくまで一つの大きな楽園の一部としたのだ。楽園計画(パラダイスプロジェクト)と名付けられたそれは、「THE・ALIVE」に搭載された健康管理システム「Protection」によってヒトを脅かすあらゆる病魔からヒトを守る、という計画だ。大規模なAI、「ADAM」と「EVE」。そのAIに管理された「THE・ALIVE」を体に入れた人は楽園(パラダイス)の民(サブジェクト)として、楽園の恩恵を得て暮らすことができる。

 さらに楽園計画では、もう「THE・DEAD」のような恐ろしい物が開発されないよう、徹底した情報規制と徹底した博愛教育によって、これからを担う子供の想像力が凶悪なものに向かないように、子供を温室に閉じ込めた。

 こうして、自由と博愛、平等を掲げた楽園社会が出来上がった。


 ぼく達の仕事は、その楽園を守護(プロテクション)することだ。

 「THE・ALIVE」には思想計測機能というものがある。危険思想計測で基準値を大きく逸脱した人物は危険人物(デンジャーズ・パーソン)として社会から隔離されるのだ。

 だが、隔離を逃れる危険人物もいる。そういった危険人物は楽園を脅かす者として扱われるのだ。


 それらの楽園を脅かす危険人物から楽園を守るのがぼく達の仕事だ。

 危険人物だからといって自由を完全に奪うような博愛主義の楽園社会ではない。

 危険人物として指定された人物は基本的にセラピーを受け、更生して社会に貢献する生活に戻る。

 しかし、更生することができないぼくのような人物もいる。そうした人物は「楽園(パラダイス)の兵士達(ソルジャーズ)」と呼ばれ、楽園の守護に務めるのだ。

 目には目を、歯には歯を。

 つまりはそういうことだ。相手が危険人物なら、危険人物を使えばいい。


 そうしてぼくは、戦地に赴く。

 楽園の兵士として。


「これからブリーフィングを開始する」

 大型ヘリのブリーフィングルームに置かれた机の上座に腰かけ、ノースロップ大佐が話し始めた。

「ターゲットは元陸軍士官、ライアン・ダグラス。驚いたことに100歳を超える老人だ。まだ政府が存在していた世代の人物だな」

 ノースロップ大佐は50歳で、危険人物ではない。むしろ、楽園人民の手本とも呼べる人物だ。しかし、危険人物であるぼく達の指揮官に喜んで名乗りを上げたという変わり者だ。

「奴はサイボーグ技術によって、全身を人工筋肉と強化外骨格に置き換えている。どのようにしてサイボーグになったかは不明だが、厄介なことに変わりはない。奴はルワンダで、レジスタンスの指導をしている」

 レジスタンス。この楽園社会を脅かす存在の一つでもある。

 アフリカの国々の蒸し暑い気候は、「THE・DEAD」の機能を弱らせた。なので、アフリカには「THE・ALIVE」を入れていない人が多いのだ。

 レジスタンスは気候が特殊な所に多い。彼らはその土地が自分たちだけのものだ、と叫び、武器をとる。公共意識の楽園社会なんてまっぴらごめんだ、と。

「今回、君たち02部隊にはルワンダに潜入、ライアンを…始末してほしい」

「始末…。何故です。いまどき珍しい」

 同じ部隊のリパブリックが尋ねる。

 楽園社会からの作戦において人殺しは最も避けて選択される手段だ。よほどのことが無い限り、殺人という手段は選択されない。

「奴は危険思想計測で、計測値559を記録した」

 全員に緊張が走る。

 計測値とは、危険思想度を数値に表したものだ。100を超えると隔離される。そして、500を超えると人格破綻者とされ、始末される。

「いいか、計測値は絶対だ。遺憾だが…奴を殺せ」

「久しぶりに殺しですかい。レジスタンスは殺しても良いんですか」

 そう嬉々として尋ねるのはサンダースだ。4人編成の02部隊の中で最も計測値が高い。

「駄目だ。だが撃たれたら撃ち返しても良い」

「結局はOKなんでしょう」

「止せ」

 ユーリイが肩を小突いて止めさせる。

 ノースロップ大佐が腕時計を見る。

「降下まで10分だ。しっかり装備を整えろ」

 ブリーフィングが終わった。


 ぼくは武器の点検を済ませ、降下用ポッドに乗り込む。


 丸い棺桶のような黒いポッドに乗り込んで間もなく、パイロットから投下(リリース)の合図が聞こえた。

「投下します。どうかご無事で」


 バシュッ、という音とともに、ポッドが切り離される。


 そしてポッドを重力が支配した。

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