フェンリル再び、使い魔契約
転移したら目の前にさっきのフェンリルがいました。
ので、一瞬で浮遊を使って空中に軽く浮かび、その横っ面を蹴った。
横に吹っ飛ぶフェンリル。
携帯のことを忘れ、ミカエル師匠に念話をするウチ。
『フェンリルいたんですが…』
『あれ?彼から聞いてないんですか?だから転移させたんじゃ?』
『何をです』
聞いたって何をよ。
そしてこのフェンリル、雄か。
『そのフェンリルはあなたの使い魔ですよ』
は?
何それ、聞いてない。
怪訝な表情なのが分かったのだろう。
向こうが何故だと言いたげな雰囲気だ。
『ちゃんと茶髪に眼帯の少女だと伝えたんですが…』
『ウチ、神の状態なんですが。血の臭いして強い魔力があって神化して、検索したらガネットの全帝を襲ってて転移させたのがこのフェンリルです』
沈黙が走る。
いつの間にか起き上がり、お座りしてるフェンリル。
首を傾げるウチ。
念話越しに黒いものを出すミカエル師匠。
なにやらいきなり師匠からの魔力が弱まり、音量が一気に三分の一ほどに下がる。
『この駄犬がっ』
叫ぶように言う師匠。
ウチには普通の大きさだけど……フェンリルにも念話を繋いだのか、ビクッとしてる。
多分、音量はすごいだろう。
『何を考えてんだ、しかもガネットの全帝を襲ってたってよぉ…。…………あ?言い訳なんか聞きたくねぇよ。そっちに送った理由、忘れたのか?なぁ?』
口が悪くなったミカエル師匠。
これ、怒ってる状態。
エルレイラ相手でも出てたもの。
この時のミカエル師匠は笑顔。
黒い、がつくけど。
「く~ん…」
フェンリル、涙目。
仕方ないので助ける。
『ミカエル師匠ー、フェンリルが可哀想なんでやめてくださいー。あれは全帝やウチ、フェンリルとか全員の間が悪かったんですしー』
思わず間延びした口調なのはホントにそうだったから。
検索から知った全帝がルベリドの森にいた理由は、ランクSSSの魔物が出たからそれを討伐しに来たのだ。
たまに現れる、その場所の上限を超えた魔物。
並のギルド員ではなく、帝専門の依頼として出される依頼。
全帝はそれを受けたからいた。
終わったらエルレイラが送ったフェンリルが現れ、フェンリルは全帝が自分の主ではないと知って攻撃。
避けれなかったがギリギリ急所はやられなかった全帝は、フェンリルとバトル。
一旦止まったところにウチが登場し、あの流れ……ということ。
『………………蓮様、あなたも危ない真似はやめましょうね』
あ、フェンリルが不満そう。
ウチは戦ってないの。
『ミカエル、本当にこの娘が我の主になるのか?』
まだ涙目のフェンリルの声が聞こえる。
師匠が繋げたのかな?
魔力が戻ったから音量も普通になったし。
『そうですよ、それに蓮様は神ですよ。人間でしたが』
『それは分かるが…』
んー、疑ってるなぁ。
創造属性で剣を千本作り、浮遊で浮かせてそれでフェンリルを囲む。
剣にはぎざきざの返しがあり、簡単には抜けなくしてる。
フェンリルは驚き、ウチを見る。
「ウチ、ミカエル師匠に修行を一万年くらいつけてもらったんだよ♪」
「娘、汝を主と認めよう」
おい、いきなり態度が変わったぞ。
同じことを思ったのか、呆れた声が聞こえた。
『フェンリル…』
『言っておくがミカエル。我がこの娘を主と認めたのはお前が修行をつけたと聞いたのもあるが、この剣を見て認めたのだ。娘、剣を属性強化しただろう?』
「あ、分かったんだ」
実はうっすらと見えない程度に魔力を纏わせ、属性強化してある剣。
自然属性で二百本ずつ。
ちなみに自然属性とは火、水、風、大地、雷のこと。
特殊属性は光と闇、無。
ここまでが人間が必ず持ってる属性だね。
最後に必ず持ってるとは言えず、持ってる人が少ないが故にこう呼ばれる稀少属性。
これは創造や破壊、時、空間などだ。
ウチは人間が忘れ去った属性も持ってるけどね。
無属性は特殊属性だけどどんな人間でも必ず持ってるから、属性を調べる時にはカウントされないというもの。
ドンマイ、無属性。
フェンリルは象サイズから普通の狼サイズになるとウチに近づき、お座りする。
契約方法は検索で知ったので、フェンリルの頭を撫でながら魔力を流す。
ジュ…ッという、焼けるような感覚が右太ももの内側にする。
契約が出来たようだ。
フェンリルは耳と尻尾をピンとさせる。
『無事に契約完了ですね』
念話を繋げたまま、何故かミカエル師匠が現れた。
あ、繋がってた魔力が消えた。
「蓮様の魔力で人型になれるみたいなので、服を持ってきました。着なさい」
「人型になったら裸なのか、着ろ」
再び「く~ん」と鳴いた後、服が入った袋を咥えるフェンリル。
とりあえず空間属性で異空間を作り、そこに放り込む。
きゃいんって聞こえたが、無視だ無視。
着るまでは出れないようにして、と。
ミカエル師匠へと向き直る。
「師匠、フェンリルの毛は銀色って習ったんですが」
ウチと契約したフェンリルは黒。
違うことに気を取られて考えてなかったし、忘れてたよ。
「彼はフェンリルの中で唯一の亜種でして……月属性を持っています」
「…それでウチの使い魔にして保護、ですね」
「ええ……事後承諾になりますが」
それなら別にいいんだけどね。
月属性ってたしか光と闇、幻の複合属性にして原点の属性だったな。
光と闇、幻という属性を全て操ることが出来る。
フェンリルは光と闇しか持っていない。
それなのに月属性、しかも黒いフェンリル。
迫害されただろうね。
「彼は私が拾って育てたフェンリルなので、他のフェンリルとは比にならないほどに強いですよ。一応の護衛として差し上げます、他のあなたの使い魔になろうとするのから守らせるために」
「……ありがとうございます」
……ミカエル師匠、有無を言わせない笑顔です。
ウチはこの笑顔に勝てません。
「着まし……何だこの状況」
空間から出てきたフェンリルを見る。
イケメンがいました。
青みがかった黒髪は全体的に短いが、襟足が胸下まで長い。
ワイルド系な顔立ちで、瞳は綺麗な紫苑。
着崩した黒いシャツに、肩の付け根から袖が無くて膝丈の上着は薄い緑色でボタンは無い。
濃い緑の細長い布を腰に巻き、紅い宝石を使った留め具で留めている。
ズボンも黒でジーンズに似ている。
膝までのロングブーツ。
身長は179くらいでシャツは胸元まで開いていて、鍛えられた胸板が見えて細マッチョだ。
……腹筋、割れてるかな。
「……主から嫌な気配が」
「諦めなさい、彼女の趣味が趣味なので」
そういえば、ミカエル師匠にはウチが腐女子だってバレたっけ。
ウリエルさん×ミカエル師匠とか、サリエルさん×カイリエルさんとか、アナフィエルさん×カイリエルさんとか。
めっちゃ妄想したし書いたし。
ウチ、絵は描けないから小説で書いてたなぁ。
腐仲間になった天使さん達に、ネタを提供したり。
楽しかったな。
「……ミカエル、主が…」
「気にしたら大変ですよ」
苦笑するミカエル師匠が、不安げなフェンリルの頭を撫でる。
美人×ワイルドイケメン、美味しいです。
「………主」
「ん?」
妄想しようとしたらフェンリルに呼ばれる。
ああ、使い魔イベントでの名付けかな。
でも確認はしないとね。
「何、フェンリル?」
「名前が欲しいのと……主の名は?」
あ、自己紹介とかしてない…。
うん、しよう。
「フェンリルの名前はガランサス、ウチがいた世界にある花……スノードロップっていう花の別名で、花言葉は「希望」なんだ」
きぼう、と動くフェンリル――ガランサスの唇。
「ウチは紅蓮。いや、シェルリナではレン・クレナイか。よろしくね、ガランサス」
「はい、主」
「……主じゃなくて、名前で呼んでほしいなー」
「………レン様」
………………。
発音が違うから、違う時に直すか。
あと、敬語とかはやめさせよう。
さて、完全に忘れてたけどここはどこかな。
空気化してたけど気にせず小説を読むミカエル師匠を見る。
あ、パイプ椅子に座ってた。
「ここはガネット王国にある平原です。幻魔法で見えなくしてるし、音魔法で私達の話し声は聞こえませんので安全です」
そうですか。
さすがミカエル師匠、抜け目がない。
「では、そろそろ帰りますね。神が書類に埋もれてるでしょうから」
「はい。ありがとうございました、師匠」
「またな、ミカエル」
転移で帰ったミカエル師匠を見送る。
同時に彼が施してた魔法が消える。
とりあえずは。
「街でも行こうかな」
ギルドに入ってー、お金とか貯めて宿泊先とか決めてー。
「レン様、街よりも重大なものが来てますよ」
重大なもの?
ガランサスが指差す方向を見ると。
宝石龍がこちらに猛スピードに向かっていた。
オマケ
「そういえばガランサス」
「何ですか?」
「何で目が金色じゃないの?」
「ああ……我は神と同じ強さの魔力保持者ではなく、神の分類に入るんです。天使や悪魔も金ではないです」
「なるほどね。たしか、神は必ず金色の目とは限らないからね」
「それに、シェルリナの者はそのことは一応知ってるので」
「そっかー」
異世界シェルリナでは種族問わず、金の瞳の者は神と匹敵するレベルの強い魔力保持者とされてます。
けれど神は必ず瞳が金ではないので、神=金の瞳という固定概念はありません。
天使と悪魔も同じく。