神の間(後編)
ただいま、ミカエル様…ミカエル師匠と手合わせなう。
彼が腰の左側に差してた剣は、鞘から抜くと大剣に変わるというもの。
初めて見た時は驚いた。
柄も含めてミカエル師匠と同じ大きさ、刃は彼の肩まで。
刃には純白の、翼のような模様が彫られている。
ミカエル師匠が大剣を振り下ろしてくる。
それを魔法で創造したナイフで防ぎ、腹に向かって蹴りを放つ。
けどすぐに大剣を持っていない方の手で防がれ、代わりに蹴りを放たれた。
転移魔法を使って後ろへと転移し、無詠唱で火属性の中級魔法のファイアアローを放つ。
即座にミカエル師匠は無詠唱で水属性の初級魔法のアクアウォールで防いだ。
水蒸気が現れ、視界を白く染める。
それを利用し、無音効果を持つ弓を創造して先にアクアアローを放ってから矢を放つ。
バシャッという水の音が聞こえた後。
「なっ」
トッ、という微かな音が聞こえる。
思わずニヤリと笑った。
「勝った」
「蓮様…」
呆れるようなミカエル師匠の声。
風が吹いて水蒸気が晴れる。
そこにあった姿に、ウチの腹筋は崩壊した。
「あっははははははは!!」
「笑わないでください」
ミカエル師匠の鎧の胸に貼り付く、一本の矢。
本来ならば木で出来ていて、矢じりがある物。
その矢は材料がプラスチックで、刃ではなく吸盤。
そんなのがミカエル師匠の鎧にくっつき、びよんびよんと動いている。
これで笑うなという方が無理!
笑っているウチを軽く睨んでから、ミカエル師匠は破壊属性の魔力で矢を破壊する。
「そろそろ帰りますか。修行も終わりましたし」
「あ、はーい」
屋敷の掃除も終わってるし、後は帰るだけ。
でもちょっと寂しいなとは思う。
ケーキを入れた箱を持つ。
あの白い空間に続く襖を開け、修行空間から出る。
修行空間内では普通に時間が流れていたけど、こっちでは一瞬みたいだね。
さすが、ご都合主義空間。
「あ、おかえ……蓮ちゃん、覚醒しちゃったかぁ」
こっちを見て苦笑する神。
そう、ウチは炎龍の血が覚醒したのだ。
茶色だった髪は真紅になり、琥珀だった瞳は金色に変わった。
じい様と同じ色である。
しかも髪の長さは足首まで。
ちなみに着ているのは袖が無く、紅い蓮が描かれた白い着流し。
「だから種族がいきなり人間から神になったんだね~」
ウチのプロフィールを見て納得する神。
マジで人外になっちゃった。
「人間の姿になっても、あり得ないくらいの魔力量が漏れちゃうんですよね」
ちなみに修行したのは一万年。
最初の百年はシェルリナの歴史や学校で習うこと。
次に魔力コントロールと、体力作りを兼ねて武術を学ぶことに九百年。
シェルリナの人間が認識して、基本として使える属性の火、水、風、雷、地、光、闇を神級まで無詠唱で使えるようになるまでそれぞれ千年だから七千年。
時や空間などの特殊な属性も無詠唱まで使えるようになるまで千年だったが、こちらは簡単だった。
いきなり炎龍の血が覚醒したので、神通力のコントロールで予期せぬ千年。
こう考えると濃いな。
しかも全部、武術とか学びながらだし。
ミカエル師匠以外の天使と手合わせとかしたし。
「一応、シェルリナに着いたら瞳の色は隠すように言いました」
「その方がいいね、力を欲する奴らに狙われるし」
シェルリナでは瞳が金色の者は種族問わず稀少だ。
理由は金の瞳を持つ者は、その魔力の強さは神と同じだからだ。
故に力を欲する者には喉から手が出そうなほど、彼らを求める。
まぁ、ウチはホントに神になったからだけど。
「大丈夫ですよ、普通より少し強い程度の魔力しか感知させませんから」
実はミカエル師匠が寝てる時に出来たもの。
神とミカエル師匠の視線がこっちに集まったので、それを取り出す。
「これでーす」
見せたのは眼帯。
シンプルな白い眼帯。
それを左目につける。
すると目線が低くなる。
身長は140くらいまで縮み、Eはあった胸はAくらいになる。
手足も縮み、おそらく顔立ちも幼くなってる。
髪は茶色に戻り、左目に魔力と霊力、神通力のほとんどが集約される。
普通より少し強いくらいの魔力しか発してないウチを見て、神とミカエル師匠が驚く。
「それ、魔力抑制具!?てか何でロリ!?」
「本来の姿だと人間には強すぎる魔力を発しちゃうので」
じゃなかったら元のままだよ。
左目に力が集約してるのだって、楽だからだし。
眼帯には透視能力があるので、片目だけで見てることにはならない。
きちんと両目で見えるよ。
「まぁ、能力も勝手に追加されたしね…」
疲れたような神。
お疲れ様ー。
追加された能力は龍化に龍化武装。
龍化は読んで字の如く、龍に姿を変えること。
龍化武装はまだわからない。
龍化は覚醒と同時になったからなぁ~。
「そろそろシェルリナに送るけど……勇者達が召喚される一週間前にしとくね」
「異世界での人生を、楽しんでください」
二人の言葉に微笑んで頷く。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
神が低く何かを唱えると、ウチの意識が薄れる。
完全に消えそうな時に。
「っくしゅん……あ」
すごい不吉なのが聞こえたが。