神の間(前編)
いつもより長いです。
※オマケの能力を足しました。(11/19)
※文章を足しました。
※アミスト王国→クンタイト王国へ名前変更。(12/20)
目覚めたら、ゆらゆら動く蒼の中にいた。
ぼんやりとそれに見惚れていると、背中と膝裏に手のようなものを感じる。
蒼の向こうに何かが見え、それに近づく。
蒼から出る時にザバリッ、と水のような音がして見知らぬ美形がいた。
何故か体が動かないから大人しくするしかない。
めんどくさいなぁ、はぁ。
ソファーらしきものに座らされ、美形は少し離れた場所でお茶を入れてる。
その近くでは違う美形が皿にクッキーを盛ってる。
さて、ここはどこなのか?
目だけを動かして自分の体を見下ろすと、見慣れない服を着ていた。
紅い布を胸上から太もも半ばまで巻きつけたような、変わったデザインのワンピースのようなものだ。
二の腕の半ばには袖らしきものがある。
今度は周りを見る。
果ての無い、白い空間。
ウチが今まで入っていただろう、蒼い物体。
蒼い物体は楕円形で、大きかった。
「それ気に入ったの?」
お茶を入れてた美形が声をかけてきて、そちらに視線を向ける。
なんというか、ホントに美形だ。
銀色にも金色にも見える髪は長く、膝まである。
瞳は右が白で左が黒。
肌も白磁と言えるくらいに白く、その顔立ちは見たことないくらい美しい。
ぶっちゃけ、傾国の美女も霞むような色気もある。
身長も190くらいで細身だ。
着ているのはギリシャ神話の神のような白くて薄い衣装。
定番で言うなら神だよねー、と思いながらも不審者を見る目で見る。
そしたら神らしき人物が動揺する。
「ちょっ、その目やめて!不審者じゃないから!」
「十分に不審者ですよ」
突っ込みを入れるのはクッキーを盛っていた美形。
すごい冷めた目で神らしき人物を見ている。
こちらは薄い金色の髪を肩先まで伸ばし、内側に緩くカールしてる。
瞳は青みの強い水色。
綺麗だがどこか冷たい顔立ち。
身長は185くらいかな?
白い軽鎧に白いロングブーツ。
白に金色で縁取りされた外套。
腰の左側に剣がある。
こっちは誰だ?
テンプレなら美少女、もしくは美女ミカエル様がいるはずだが。
そう思っていたら、美形がウチの方を向く。
「はじめまして、紅蓮様。私は天使長でこの神の補佐をしてるミカエルと申します。以後、お見知りおきを」
今、すごい漢字の読み方が聞こえたぞ。
そして美少女or美女じゃないのか。
「あ、まだ動けませんか?」
「……あまり」
あ、喋れた。
良かったと安心してたら。
「おい、神。いつになったら金縛りを解くんだよ」
「痛い痛いっ、蹴らないで」
ウチは何も見ていない。
ミカエルと名乗った美形が神を足蹴にしてるなんてさ。
……ミカエル様×神様か、美味しいな。
「(今、悪寒が……)」
何か二人とも青ざめたな。
ま、いいや。
「で、何でウチはあの蒼いのの中にいたんですか?ウチは死んだのですか?ウチの制服は?星宮葵……あの、黒髪少年は?」
「一気に言うんですね」
めんどくさいんです。
「順を追って説明するね」
そう言いながら指をパチンと鳴らす神様。
動けるようになったのが分かった。
「まず星宮葵だけど、彼は既に異世界に行ったよ。一回死んだけど、彼のDNAを使って本物とは寿命も変わらない体を作ってからね。次に紅蓮、君は死んでない。死ぬ寸前に僕がここに連れてきて、死にそうだったから傷だらけになった体を治すためにあの蒼いのに入れたんだ」
まさかの一人称が僕だった。
てか、ウチはまだ生きてたのか……巻き込まれの巻き込まれというジャンルでは、珍しいよね。
「それで、その服だけど…」
「神があなたの制服をそれに変えたんですよ、魔法で」
「……魔法で?」
「魔法で、です。着せたままでしたが、勝手にそれにしたんですよ」
顔面殴らせろ、そこの神。
ウチが殺気を放つとともに睨むと、神は真っ青になる。
あ、土下座してきた。
「すみませんでした!!でも、これには深い理由があるんです!」
「じゃなかったら私はこいつを止めてます」
理由?
理由、ねぇ……。
心当たりは一つだけだよ?
もしかすると増えるけど。
「まずはあなたの祖父ですが……神、しかもあなたの世界にしか存在しない七龍という自然を操る龍神です」
「知っていますよ。ウチが育った場所が場所なので…」
ウチの家は紅神社という、七龍のうちの炎龍という龍神を祭る神社だ。
お守りは「無病息災」・「恋愛成就」・「交通安全」など様々。
その歴史は古くて、平安時代中期からある。
紅一族の人間の名前は、植物(あるいは果物)の名を持つ者が多い。
現当主はウチと双子の兄の父・紅 柘榴。
平安時代中期から大正時代まではひっそりと活動していたけど、昭和時代から表に出るようになった。
その紅神社の祭神である炎龍様……もとい、じい様は何回か紅一族の娘と結婚して子孫を残している。
理由は不明。
ばあ様と結婚したのは「心が綺麗で惚れたから」って言ってたし。
ノロケも大概にしてほしかった。
父さんもじい様の血を受け継いでるけど、何故か薄いらしい。
本人は「色以外はそっくりなのにびっくりだよねー」と笑ってたが。
ホントに色以外はホントにそっくりだったけど。
……もしや、そのことか?
………いや、さすがに違うでしょ。
「その炎龍の孫だからか、それとも元々なのか…君はここに来た瞬間、僕達レベルの魔力を発現しちゃったんだ。だからあの蒼いのに入れる前に、制服を即席の魔力抑制具にして、その服に変わったんだ」
正座して言う神の言葉に目眩がしそうになる。
つまり、ウチは人外レベルの魔力保持者ってか!?
若干、落ち込んでいたら。
「神、そのことなんですが紅蓮様の魔力量を調べた結果が先ほど出まして、無限でした」
「本気で人外になっちゃった」
オワタ。
真面目にこんな気分だよ…。
神はポカンとしてる。
「うわぁ…」
「紅蓮様、これだとあなたを地球に帰すことが不可能になったのですが…」
申し訳なさそうに言うミカエル様。
まぁ、仕方ないか。
というか普通だね。
さすがにじい様も無理だろうし。
「大丈夫ですよ。こんなに魔力があるなら仕方ないので」
地球に帰ってもこれは危ないしね。
「……ごめんね、紅蓮…ううん、蓮ちゃん」
土下座をやめた神はウチに近づき、頭を撫でてきた。
あ、気持ちいい。
「それで…さらに申し訳ないんだけど…」
なにやら苦い表情をする二人。
何だ何だ?
「……星宮葵はまだいいよね。問題はあのクソ屑勇者(笑)な御堂輝なんだけど。星宮葵とあの屑がいる世界に行くことになったんだよね」
御堂、お前めちゃめちゃ神に嫌われてるぞ。
てか、あいつがいる世界とか嫌だ。
「嫌でしょうが、我慢していただけませんか?欲しい能力をお渡ししますので。私達もあんな世界神がいる世界に、あなたを送りたくないですが」
…………最後、マジなトーンだったな。
でもそう言うってことは……。
「わかりました。なら、今からウチが言う能力をください」
ウチが要求したのは以下のもの。
一つ目は属性を全部。
二つ目は身体能力の強化。
三つ目は地球とその世界の常識。
四つ目は神やミカエル様と会話が出来るもの。
言い終わると二人が微妙な表情を浮かべてる。
「あなたの血筋を考えて属性と身体能力は元からそうするつもりだったので、いいんですが……」
「常識だけでいいの?魔法とかの知識は?それに僕達と会話出来るものって…」
「ミカエル様が「あんな世界神」って言ったのに引っかかったんですよ。なら、この能力にしてあなた達がウチを送るのを嫌がる世界について聞きたいので」
にっこり笑えば、失敗したと言いたげな表情のミカエル様。
それに、とウチは続ける。
「魔法については勉強すればいいので」
「そうですか…」
「その世界について今から説明する?」
「お願いします」
神が入れてくれた、すっかり冷めた紅茶を飲む。
あ、これ、セイロンティーのキャンディだ。
黙々と飲みながら神からの説明を聞く。
世界の名前はシェルリナで、テンプレな剣と魔法の世界。
国は大きく分けて五つ。
東にガネット王国、南にベリル王国、西にアイオリト王国、北にクンタイト王国。
日本に位置する極東には清悠国。
後は小国がいくつもある。
御堂を召喚したのはガネット王国らしい。
「他に聞きたいのは?」
「魔王率いる魔族や魔物、シェルリナの世界神についてお願いします」
世界神と言ったら二人が嫌そう……というより、憎悪を目に滲ませた。
何やったの世界神。
「あのクソビッチか…」
シェルリナの世界神は女か。
ならよく分かったよ。
「魔王が統治してる魔族や魔物達だね。魔物はほとんどが理性が無い者ばかりで、魔族はほぼ人間みたいな姿の者が多いかな?吸血鬼とか淫魔とか」
「魔王の姿は完全に人間ですが、世界が出来た時から生きてますね。人間で言う国王です」
「だから殺されたりするのは困るんだよね、魔王は完全な穏健派だし。そもそもあの子が必要以上に魔族が人間に被害を出さないようにしてるのに」
へー、普通そうな性格の魔王だなぁ。
「ちなみに、人間が魔界に迷ったら忙しくても送り返すような方です」
めっちゃいい人だった。
「魔王、女?」
「男」
異世界で女友達が欲しいよー。
「次に世界神。女、ビッチ、イケメン好き、好き勝手してる」
「魔王や魔族のふりして人間に被害を出し、地球で見つけて気に入った御堂輝を勇者に召喚したクソビッチですよ」
「…………星宮が可哀想」
本気で呟いたら二人が頷いた。
てか、ミカエル様ってば吐き捨てるように言ったね。
やっぱり欲しい能力に会話が出来るものを入れて良かったかも。
ところで、神よ。
さっきから何をカリカリと書いてるんです?
あ、描写してなかったけどミカエル様はウチの隣に、神はテーブルを挟んだ向かい側のソファーに座ってるよ。
「蓮ちゃん、蓮ちゃんの能力にオマケとかつけていい?」
「オマケ?」
「相手のステータスを見る能力と検索能力。パソコンみたいな奴だよ、情報って必要でしょ?属性と身体能力は言われる前からするつもりだったから、実質的に君の欲しい能力って二つだからさ。だから、いい?」
なるほど。
くれるならもらおう。
「大丈夫ですよ」
頷いたら楽しそうにまた書き始めた神。
何を書いてるんだろう?
「あれはあなたのプロフィールです。所属世界が変更されるので、追加したり削減したりしてるんです」
「なるほど」
「これを集め、本にした物を「プロフィール帳」と呼びます。ステータスも載ってるので、「ステータスブック」とも呼ばれますね。ちなみに人間も記入とか出来ます」
そんな危ないのをウチの前で書いて大丈夫なのか。
そう思ったが平然と紅茶を飲むミカエル様と、書き終わったのか見直してる神を見て大丈夫かと思い直した。
「あ、ミカエル様。修行したいんですがいいですか?」
「修行を?」
不思議そうなミカエル様に頷く。
魔力量が無限って言われても、ウチって魔法とかアニメとかの二次元、つまりは実在しない地球の出身だし。
魔力の使い方とか分からないのよ。
霊力なら分かるけどー…。
「分かりました。修行用の空間を神に作ってもらいましょうか」
「はーい」
どれだけ強くなれるかなぁ。
「神」
「ん?どうしたの?」
ウチのプロフィールにある検索能力を、どの範囲までにしようか悩んでた神が顔を上げる。
ステータスを見る能力を見ると、その名前は「閲覧能力」と書かれてる。
ステータスを見るからこの名前なのか?
「蓮様が修行しますので、修行用の空間が欲しいのですが」
「ん、分かったー」
そう言って神はペンを持ってない方の手を、横に向かって振るう。
そこには襖が現れる。
何で襖なのさ。
お前、洋風なのに。
「蓮ちゃんの中で僕の扱いが酷くなってる…」
「元からでしょう」
ミカエル様、確かに敬称もつけなくなったし、ほぼ呼び捨てのようなもんで殺気も放ったりしたから正解ですが正直に言わんでください。
ほら、神が落ち込んでますから。
「蓮様、行きましょうか。どうやら、よく見かけるご都合主義な空間のようでもありますし」
「……神、帰ってくる時に何か作るね」
ケーキ!とリクエストする神。
苺をふんだんに使うか。
そしてご都合主義な空間って、あれか?
中で一日経ってたと思ったら、外では一分とかっていう空間?
まぁ、別にいいけど。
ミカエル様が襖を開けて中に入る。
ウチも彼に続いた。