試合
「なら、あそこに行くの?」
ため息を吐き出し、問いかける全帝。
知らないので黙っておく。
美人だなぁ、全帝……。
これで、これで目が金色だったら良かったのに…。
ウチの好みは黒髪に金色の目な美人さんだ。
美人じゃなくても色彩がそれなら、ある程度は好感がある。
……あれ?
強い、美人、ギルドマスターの息子……好条件だね…。
女がほっとかないぞ。
オネエ口調だけど。
「何か言った?」
「イイエ、ナニモ」
一瞬、すごい笑顔でこっちを見られたので片言で答える。
あれは怒ったミカエル師匠に少し似てた。
つまり、少し黒かった。
黒は一人で十分だよ……。
「二人とも、そろそろ行くみたいだぞ」
声をかけてきたユーリ。
タイミング良かった。
クロムさんが言うには、異空間に行くらしく、試合用に魔法で作ったという。
基本的に舞台は草原にしてるらしい。
つまらないな、それは。
全帝を相手に実力、本気を見せるのならば普通かもしれない……多分。
まぁ、基本的だから舞台は人によって変わるらしいが。
ウチは変えないでおこう。
ユーリに一応上着を預けるとクロムさんが無詠唱で集団転移を使い、試合用の異空間に移動する。
……うん、草原だ。
とても普通の草原だ。
離れた場所には結界の中に入ったクロムさんとユーリがいて、ウチから二メートルほど離れた場所で対峙する全帝。
神としての姿のままだから、クロムさんの許可を得て眼帯をつけて人間の姿になる。
「準備はいい?……始め!」
クロムさんの合図と同時、全帝が無詠唱で魔法を放ってくる。
水属性の神級魔法、氷水竜だ。
氷水竜は氷の結晶がところどころに浮かび、冷気を纏いながらも凍らない水で出来たドラゴンだ。
触れたもの全てを凍りつかせる。
氷水竜がウチに向かう。
それを神級並の魔力を込め、無属性魔法で結界を張ることで防ぐ。
結界が凍りつき、蹴ることで砕く。冷気で僅かに白く曇ってるが、視界に影響はほとんど無いので放置。
すぐ背後に全帝が現れ、殴りかかってくる。
振り向くと同時に右手で防ぎ、左手で腹を狙って拳を打ち込もうとするが後退して避けられる。
すかさずウィンドアロー、アクアアロー、フレイムアローを二十本ずつ放つ。
相殺されるがすぐに距離を詰めて、創造したナイフで斬りかかる。
全帝も創造した剣で防がれ、そのまま斬りかかられる。
バク転で避け、そのまま顎を蹴りあげる。
後方へとたたらを踏む全帝に足払いをして仰向けに倒し、すぐに腹に跨がって――――ナイフを振り下ろした。
「そこまで。レンちゃんの勝ちだね」
「……心臓に悪いわね…」
顔を青ざめさせる全帝の首筋すれすれには、地面に刺さったナイフ。
消失属性でナイフを消し、彼から降りる。
と、ユーリが結界から出て近づいてくる。
「お疲れさま、蓮」
「ありがとー」
そう言いながら上着を受け取る。
今は着ないのでボックスに仕舞うと、集団転移で異空間から部屋へといきなり戻された。