Morning
現代日本、郊外の閑静な住宅街に暮らすアラサーのレズビアンの日常を描きました。
マイノリティでも、幸せな日常が確かにある。
ドラマティックなことをしなくても、平穏な日常に幸せを見出し、支えあって暮らして行くことができる。
そんな現実と非現実の間をたゆたうような物語が書きたくて、ペンを走らせています。
鳩の鳴き声が聞こえて、わたしは目を覚ました。遮光カーテンの隙間から除く陽光が目にまぶしい。
5月の午前は涼しくて、肌に触れるシーツの乾いた感触が心地よかった。部屋の中は静かで、空気清浄器が気流を生み出す音がかすかに聞こえるだけだ。
しばらくそうしてうとうとと目を開けたり閉じたりしていると、カチッというちいさな音のあとで、甘い匂いが鼻をくすぐった。
そこでわたしは、隣にいたはずの彼女の姿がないことに気が付いた。半身をおこしてみると、ベッドの横の床に腰を下ろして、彼女が煙草を吸っていた。
甘い匂いのもとはこれだった。アークロイヤルのアップルミント。職場の喫煙所から漂う匂いにはいつも顔をしかめてしまうが、彼女の好む銘柄のこの香りは、わたしは好きだった。
「……ああ、起きた?」
衣擦れの音で気が付いたのか、彼女はわたしの方を向いた。わたしはまた枕に頭を乗せて、すこしの肌寒さに上掛けをひきよせた。
「おはよ、瑛」
「おはよう、鍵子」
朝のあいさつは声が気だるくなる。サイドボードの時計をみると、短針はもう十時を回っていた。今日は日曜日だ。
「おなかすいたな……」
わたしがつぶやくと、彼女はうん、と答えた。
「あ、パンがもうないんだっけ」
彼女は言いながら頭をかいた。何かを思い出すときの彼女のくせだ。
「そうだった? ご飯も炊いてないよね」
「そうだね。今からでも炊く?」
「うーん……」
からだを起こして、床に落っことしていたカーディガンを羽織る。ひとつふたつボタンを留めるうちに、寝起きのはっきりしない頭で考えをめぐらせた。
「じゃあ、食べにいこうよ。ブランチしよう」
床に座っていた彼女は立ち上がって、ベッドのふちに腰かけた。
「いいね。シャワーしてくる?」
「うん。行きたいお店ある?」
「シャワーしてる間に調べておくよ」
彼女にわしわしとやや乱暴に頭をなでられてから、わたしは立ち上がった。彼女はipadを立ち上げた。




