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幼女の作戦

 VMAPのタイヤが路面のギャップに溜まった雨滴を左右に弾き飛ばす。俺たちはサイレンを鳴らし、雨の中を西へと向かっている。メットのシールドを叩く雨滴には辟易するが、スピードを緩めるつもりはない。

 俺たちCNSTが本部の拠点を構えるのは首都圏にほど近い郊外の一画だ。我が国に襲来する能腆鬼は、例外なく本部を中心とした三十キロ圏内で暴れ回ってきた。

 今回もその例に漏れず、俺たち第二班は西に出現した敵を目指している。その距離、約三十キロ。同時にもう一体、本部の東、約二十キロ地点にも能腆鬼が出現している。そちらはアキラたち第一班の担当だ。

「PPレーダーが予想した通りじゃ。予め出動しておけばもっと早く現場にたどり着けたものを」

 メット内蔵のイヤホンから幼女の声が聞こえてくる。昨日の訓練の結果、部下たちはクソガキ連れだと実力が発揮できない——特に、被弾率が三倍に跳ね上がってしまう——ことがわかっている。従って、こいつは今回も俺のタンデムに取り付けたチャイルドシートにしがみついているのだ。

「万が一ってこともある。見込みで出動した結果、本部を襲撃されて帰る場所がなくなりました、では洒落にならんからな」

「じゃが、ハルカ……隊長は信じておるのじゃろ?」

 拗ねたような声は、数少ない功績を軽んじられていることに対する不満の表れか。

「敵が強すぎるから慎重になってるだけだ。少なくとも、予想できていたおかげで周辺住民の避難誘導はえらくスムーズだったらしい。誰もクソガキの——」

 功績を疑っちゃいない。そう言いかけたものの口を閉じる。

「リュージ?」

 はっ、ガラじゃねえっての。こいつはただの……、いや、出来の悪いPMに過ぎない。

「んなことより、昨日あれだけ訓練したんだ。今日こそ耐えてみせろよ。でなきゃお前の異能がなんのためにあるのか分からねえ」

「うん? まあ、我の異能は九割方、人間と会話出来ることじゃ。人間に紛れて生活するにはジャミングの異能が不可欠でな、後天的な努力で獲得した。正直、そっちはあまり得意では——」

 ああわかってた、そんなことだと思ってたぜ。こいつはやっぱりお荷物だ。

「のう、リュージ」

「なんだクソガキ、現場はすぐそこだ。用があるなら手短かに話せ」

「お主らの武器、超小型反応弾はどんな仕組みで爆発を起こすのだ?」

 何を聞くかと思えば……。

「さあな。俺は科学者じゃないんで仕組みを聞かれても詳しいことは答えられん」

 即答したものの、記憶を辿ってみた。

「なんでも、お前らPMから提供してもらったPPのうち、エネルギーユニットとして使えないものを起爆剤として利用しているらしい」

 不安定なPPと安定状態のPP。いずれもごく微量に封入してある。起爆スイッチを押すと、それらが爆弾の内部で接触するのだ。

「対消滅じゃな」

「そこまで大袈裟なもんじゃねーよ。だが、強烈な爆発を引き起こすのは確かだがな」

 イヤホンを通して、うーむと唸る声が聞こえた。次の瞬間——。

「ハルカ隊長。こちらニャルル。超小型反応弾の使用許可を申請する」

「ちょ、おま! 何を勝手なことほざいてやがんだ」

『こちら本部、ハルカだ。よろしい、許可する』

「隊長っ!」

 即答する隊長に抗議の声を上げた。チーフである俺でなく、なんでPMに申請権限を与えてるんだよ。

 思わずタンデムへと振り向きそうになった。それに対し、クソガキは冷静な声で告げる。

「無理にとは言わん。じゃができれば、今回も接近戦に持ち込んで欲しいのじゃ」

 お前にゃそんな態度似合わねえっての。だが間違ったことを言ってるわけじゃねえ。舌打ちし、冷静さを取り戻す。

「まあ、今回の奴も斥力場を使うのなら、嫌でも接近戦になるだろうがな」

「うむ。それで、じゃ。荷電粒子砲でトドメを刺す前に、反応弾をぶつけてみてはくれぬか。狙うのは敵の頭上じゃ」

 前回の戦闘パターンそのままじゃねえか。

「斥力場の外に弾き出されて終わりだと思うぜ」

「それでもじゃ。……我に考えがある。今日こそリュージの役に立って見せるぞ」

 どんな考えなんだか。まあ、期待しなけりゃがっかりせずに済むか。

「戦闘は成り行きだ、予定通りには進まない。お前の考えを実行に移すチャンスがあるとしても、それはほんの一瞬だ」

「わかっておる」

 どうだかな。

「だったらせめて気絶すんなよ。……到着だ」

 一旦VMAPを停めた。俺の左右にマキとハジメが並ぶ。

 能腆鬼が視認できる。今回の敵は全高四メートルのカタツムリだ。上下逆さま、突起だらけの殻で移動していやがる。そして、少し移動しては破裂音が響き、奴の後方でいくつかの煙が燻っている。

 PPレーダーを完全に信用していなかったとは言っても、実のところ能腆鬼が活動する前には本部を飛び出してきたのだ。それでも物的被害が皆無というわけにはいかなかった。

「マキ、ハジメ。前回同様のフォーメーションだ。ただし、距離は半分まで詰める」

 頷く部下たちを見てからタンデムに振り向いた。

「空間の揺らぎは?」

「見える。斥力場じゃ」

 やはり接近戦か。一つ息を吸い込み、告げる。

「ニャルル、お前の作戦を採用だ。今度は気絶すんじゃねえぞ」

「…………」

 ちっ。なに黙ってやがんだこいつは。

「おおっ、リュージが。リュージがようやく名前で……っ」

 瞳をきらきらさせんじゃねえよ。以前呼んだ時は気付いてないか、気絶してただけだろうが。

 俺はハンドルを握り直し、命じた。

「行くぞ。火気管制システム、オン。CN(対能腆鬼)モード!」

「ラジャー!」

 肉声とイヤホンの両方から聞こえる部下たちの声が頼もしい。勢い良くエンジンをスタートさせた。

 一時的に反重力システムが起動し、浮き上がったVMAPがパワードスーツに変形して俺たちの身を包む。

 部下たちは肩にビームバルカン、俺は頭上にニャルルを乗せて戦闘用の高機動モードに突入する。

「はぅあ」

「耐えろクソガキ! まだ反重力システム使ってねえぞ、俺でも耐えられる機動だっ」

 間近に着弾する敵の光線をすれすれでかわし、さらなる接近を目指して踏み込んで行く。

「め、目が回るうぅ」

 この役立たずが! やっぱり、こいつの考えとやらを当てにしないで戦うのが正解だろうな。

 まもなく斥力の壁だ。俺は反重力エネルギーを脚部装甲へと集め、蹴り破るタイミングを測ってジグザグに走り続けた。

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