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混戦の制空戦

 敵は黒VMAP三機と怪獣二匹。今度の怪獣は全長一〇メートル。右半身が巨大な蛾、左半身が巨大な蝉という容姿をしている。

「…………」

 もう何も言うまい。その冗談じみた容姿にいちいち反応するのも面倒だ。

 一班と三班はすでに戦闘機動に移っており、それぞれ怪獣と黒VMAPを相手に戦端を開いていた。通常モードで走行中の俺たちの知覚速度を超え、視認するのが難しくなっている。

 蛾と蝉のキメラが一体、俺たち二班をターゲットに定めたことを宣言するかのように頭上を悠然と飛ぶ。

 羽ばたくたび、蛾の羽から淡く光る粉が舞う。あれは鱗粉か。全長一〇メートルの半蛾半蝉。その容姿で真っ直ぐ飛べることを含め、気味の悪いことこの上ないぜ。


 ——早く上がって来い。


 挑発的な意思を叩きつけるかのような敵のたたずまいに、急速に戦意が沸騰してゆく。

 上等だ。

「全機集結。火気管制システム、オン。CNモード!」

 パワードスーツモードに変形する中、メンバーの返事が届く。

『了解』

 おや。小隊長の二人は声に緊張が混じっているな。

「俺たち二班はまず、十二時の敵一体を集中して叩く。その後は一班の援護、最後に三班の援護だ。戦力差を考えれば楽勝だぜ。……あてにしてるぞ、小隊長さんたち」

『はっ。お任せください』

 敵はその容姿によっては特殊な異能を秘めている場合もあり得るが、瞬殺にこだわらず慎重に臨めば問題なく対処可能だ。

「オレンジ、イエロー。訓練の成果を見せてもらうぜ。フォーメーションV」

『了解』

 反重力システム起動。HMD内にカウントダウンが表示された。

 俺を中心に、左右の外側をオレンジとイエローが飛び上がる。彼らが先行し、内側の左右を担うマキとハジメがやや遅れて飛び上がる。

 最後に俺が飛び上がると、V字のフォーメーションを保って敵へ肉薄する。

『喰らえ!』

 イエロー、焦りすぎだ。敵には斥力場があるんだぞ。

「まだ早い、引きつけろ!」

 くそ、遅かったか。イエローの慌て者め、PPウェブを投げつけやがった。

 案の定、敵は回避するそぶりさえ見せない。投げつけた不可視のPPウェブは、やはり不可視の壁である斥力場に弾かれた。スパークが弾けたと見るや、PPが無効化して姿を現した網が地上へと落ちてゆく。

『うわあっ』

 む、イエローにダメージか?

『も、問題ありません。少し計器が読み取りづらいですが、敵はしっかり視認できてます』

 計器が? 目を強化したサイボーグのイエローが、か。

「下がれイエロー」

『ですが』

 ちっ、軍人が戦闘中に口答えかよ。シンジョウやカツラギと違って、戦闘経験が悪い方に影響する場合もあるんだな。

「命令だ、下がれ。多分それは敵の異能だ。イエロー、お前は視覚をやられてる。下がって回復させるんだ」

『はっ。申し訳ありません』

 想像だが、あの鱗粉、俺たち普通の人間にとってはせいぜい目にゴミが入ったかどうか、という程度の違和感を覚える程度のものではなかろうか。恐らく、強化した視覚が徒になったのだろう。だからと言って、積極的にあの鱗粉を浴びる気にはならないが。

 敵との距離が開いたな。同じ手は使えそうにない。

「フォーメーションA」

 さっきとは逆に俺が先行し、続いてマキとハジメ、最後尾にオレンジというフォーメーションで敵を追う。

「各員、敵の鱗粉に気をつけろ。接近する時は背から回り込め」

『了解』

 こちらから逃げ続けていたキメラが一転、進路を変えると螺旋状に回転しながら迫ってきた。鱗粉を縦横無尽に撒き散らすその様子が、若干の恐怖を誘う。

「全機散開! 鱗粉を浴びるなよっ」

 俺たちは全員、奴の上をとるべく急上昇した。

 真下をキメラが通過する。——今だ。

 四人分の荷電粒子砲が敵の背中に突き刺さる。

 が、拡散。

 惜しいな。四人で一箇所を狙っていれば、あるいは斥力場をぶち破れたかもしれない。

「リュージ、耳を塞ぐのじゃ!」

 ニャルルの焦った声に衝き動かされ、俺は命令を発した。

「全機、防音モード!」

 間に合わなかった。強烈な爆音が鼓膜を叩く。

「やっかましーな、くそっ」

 蝉の鳴き声の強化版か。音源は例のキメラ。まあ、耐えきれないほどの音ではないが……。それにしてもニャルル、よく気付いたな。

『ぐあぁっ、み、耳が……』

 なんてことだ。オレンジは聴覚を強化したサイボーグだった。

 それにしても、基準値を超える音を拾ったら瞬時にボリュームを絞る機能ぐらいつけていないのかよ、軍のサイボーグは。

「下がれ、オレンジ」

『も、申し訳ありません』

 相手が能腆鬼である場合、視覚や聴覚の強化は逆効果になる可能性もあるってことか。まあいい。次回は頼むぜ、軍人さんたちよ。

 とは言え、今回このまま休んでてもらうつもりはないぜ。

「オレンジ、イエロー。敵は捕捉できてるか」

『はい、捕捉できてます』

「よし。合図する。全機、荷電粒子砲で奴の首を狙え」

 三分経過。一匹にかけられる時間の限界だ。一気にフィニッシュを決める。

 俺はブーメランディバイダー二本を構えた。

「三、二、一、ファイヤー」

 マキとハジメが上空から撃ち下ろす——弾かれた。

 オレンジとイエローが地上から撃ち上げる——通った!

 仰け反り、こちらに喉を晒すキメラ。

「行け!」

 出し惜しみはしない。ブーメランディバイダーを二本とも投げつける。

 一本目は奴の喉を左半分ほど抉る形で貫通し、二本目は中央付近に突き刺さった。

「押し込め、ハジメ」

 ビームバルカン。部下による精確な射撃が、敵の喉に突き立つブーメランディバイダーを狙撃する。

 仕込んでおいた炸薬が破裂し、PPが敵の体内を暴れ回る。

 キメラは粉々に砕け散ると、細かい破片となって地上に降り注いだ。


「……っしゃ。リナは?」

 破裂音が轟く。見ると、一班もキメラを仕留めたところだった。

 一班は脱落者なし、か。優秀だな。

『面目ない、変則的な機動のせいで反重力エネルギー使い切った。三班の援護までは手が回らない』

 一班が出てから俺たちが出るまでの時間差はほとんどなかった。だが、どうやら彼女らは今回、反重力エネルギーを浪費する戦法を選択したようだ。

「お疲れ。援護は遊撃の役目だ、一班は休んでてくれ」

 反転し、三班の戦闘空域を目指す。

 敵三機、脱落なし。三班は一機脱落。今のところは概ね拮抗しているようだ。

 だが、三班の連中の反重力エネルギーもそろそろ限界だろう。

「ニャルル、ジャミングの用意だ」

「お任せあれぇ」

 気の抜ける返事してんじゃねえよ。

「三機とも墜とす。行くぞ、みんな」

『了解!』

『リュージチーフ、こちらイエロー。回復しました、合流します』

『こちらオレンジ、同じく回復。合流します』

「よし、追ってこい」

 混戦模様の制空戦は、俺たちが主導権を握っている。

 黒VMAPは敵だ。俺に迷いはない。

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