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黒い贈り物

「敵一体、視認。全機散開。火気管制システム、オン。CNモード!」

『ラジャー』

 高機動モードに移ったのとほぼ同時——

『サツキ!』

 ナオヤの叫びが耳朶を打つ。彼女の機体に寄り添わんばかりに接近しているのがナオヤの機体だ。やつは脚部装甲に欠損が見られるが、大したことはない。

『問題ありません』

 応えるサツキの声は落ち着いている。しかし彼女の機体は右手首から先が切断されていた。引き延ばされた時間の中、ヴァイブロブレードを握ったまま重力に引かれてゆっくりと落ちていく。

 ひとまず安心した。あの部位ならライダーに怪我はあるまい。それにしてもサツキの悪い癖だ。度胸があるのはいいのだが、動きに無駄がある。本番での大胆さが危なっかしい。

「こちらリュージ。サツキもナオヤも下がれ、交替だ」

『了解』

 敵を追い、こちらに背を見せているのはカヤの機体だ。リナの姿が見えない。どこだ。

 敵の身体が火花を散らす。動きが止まった。

『カタツムリ、PPウェブにかかった。カヤ、いける?』

『はい、チーフ』

 リナのやつ、敵の進行方向に回り込んでいたのか。しかし第一班は残り一分を切っている。全く、こいつらの度胸ときたら。

「マキ、リナの真下へ。ハジメはカヤを。俺は敵のアタマを押さえる。全機、荷電粒子砲用意」

 さすがは第一班。そこそこダメージを与えていたようで、PPウェブに引っかかったカタツムリはほぼ完全に動きを止めている。それにしても、ジャミングなしであの難敵を絡め取るとは畏れ入った。

「耐えろよ、クソガキ」

 最大速度で敵の真上へ飛び上がりつつ呼びかける。

「リナ! 俺たちもタイミングを合わせる。いつでもいいぜ、合図をくれ」

『了解、一斉攻撃用意。五秒前。四——』

 カタツムリが発光している。

 なんだ、この胸騒ぎは。クソガキも妙に静かだ。

「ぐぇ」

 おい。今日はまだそんなに動いてねえだろ。……ってか、少しは緊張感持ちやがれ。

『二、一、てえっ!』

 七筋の白光がカタツムリに突き刺さる。

「リュージ、まずい! あやつ——」

 胸騒ぎが確実な予感に変貌し、氷塊となって俺の背を伝い降りる。

「——自爆する気じゃ」

 膨れ上がる強烈な光芒。

 刹那の後に目の当たりにするであろうビジョンが、現実さながら目の前に広がる。

 自爆。その二文字に心臓を握り潰される。ただの爆散ではない。俺たちを巻き込むことを前提とした、ギガトン級の破壊。


 ——我らは滅びる。侵略が叶わぬのなら、今この場で道連れだ。


 たった今、俺は能腆鬼の意思を叩きつけられた、のだろうか。気のせいかもしれない。にもかかわらず、奥歯は小刻みに音を立てる。ぐっと噛み締めた。

 くそ、何かないのか。今からできることは。

 無意味と知りつつブーメランディバイダーを握り締める。

『ふりかぶれ。投げろ』

「————————っ!」

 考える前に腕を振り下ろしていた。

 飛び去る武器を絶望とともに見送る。

 なんてことだ。声真似野郎に乗せられるとは。

 なんであいつは。息遣いもトーンも親父そのものなんだよ。

 カタツムリが光の塊と化し、四方八方に光の筋を撒き散らす。

 先ほど見たビジョンと寸分違わず、巨大な光芒となって膨れ上がっていく。もう、食い止める方法はない。

「……。終わった」

『まだだ』

 苦り切った呟きを、親父の声が否定する。なんなんだ。これじゃ、まるで本物の——、いや、あり得ない。

 視界の彼方、光芒に向かって黒い塊が飛んでいく。一辺一メートル程度の立方体だ。

 その塊に俺のブーメランディバイダーが突き刺さった。

 途端、夜空を彩る花火よろしく、白一色を背景にして黒い塊が弾けた。花が開く様子を早回し再生するがごとく、大空に広がっていく。

 黒い塊は獲物に襲いかかる蛸さながら、伸ばした脚で白い光芒を包み込んだ。

 爆散するカタツムリは、自身を灼き尽くす光芒ごと黒い塊に呑み込まれた。そのまま亜空間に吸い込まれるようにして消え去っていく。

『いいウデだ、リュージ。お陰で間に合った』

「貴様、何のつもりだ。アキラたちはどうした」

 振り向きざま、荷電粒子砲を黒VMAPに向ける。

 一機の黒VMAPを庇うように、二機の黒い奴らが機体の腕を広げてこちらの射線を邪魔していた。

 奴らはいずれも武器を構えていない。

 真意を問い質すべきか。迷いと戸惑いが、引き金を引く指を鈍らせる。

『リュージチーフ!』

「まだ撃つな、ハジメ。アキラ——第三班の識別信号を確認するんだ」

 ハジメからの呼びかけに応えると、親父の声が割り込んできた。

『サイボーグくんたちにはちょいと寝てもらっているよ。ああ、だいじょうぶ。危害は加えてないから』

『第三班の識別信号、三機とも確認。南西、十四キロ地点』

 黒VMAPの言葉を裏付けるように、ハジメからの報告が俺の耳に届く。

 機体の大破もしくはライダーの生命停止の際、識別信号が停止する仕組みなのだ。ならば、アキラたちは無事だろう。黒い連中がこちらのシステムに割り込みをかけ、第三班の識別信号を偽装していなければの話だが。しかし、そんな回りくどいことをするような連中だろうか。

 狙いは不明だが、あのアキラたちを相手にして無傷のまま眠らせることができる連中だ。殺すつもりなら簡単にできただろうに、そうしなかった。

「貴様ら、能腆鬼ではないのか。何者だ。何が狙いだ」

『その疑問に答えたいのはやまやまだが、まずは君の仲間たちを気にかけてはどうかね』

「…………」

『カタツムリが今際(いまわ)の際に飛び散らせた光だ。致命傷ではない、と信じたいが——』

 サツキの声が耳に飛び込んできた。

『チーフ! リナさんっ! いやああっ!』

「貴様らあっ」

 頭に血が上った。こいつら、やはり。

「待つのじゃ、リュージ。こやつらに害意があるとは思えん。それよりリナじゃ」

『では、リュージよ。話をしている余裕はあるまい。土産を置いて行く。次も遊んでもらうよ』

「なに寝言ほざいてやがる。逃がすかよ。ハジメ、サツキ、ナオヤ! PPウェブだ」

 しかし、俺たちが投げつけたPPウェブは黒VMAPに届かなかった。連中は溶けて消えるかのようにして姿を隠してしまう。

「なんて連中だ。次元ホールは開いてないはずなのに……」

 カタツムリの自爆を封じ込めたのと同種の技術ということか。

「リュージ! リナのところに! 急ぐのじゃ!」

 そうだ、リナ。無事でいてくれ。

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