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敵は身内に?

 一秒も無駄にできない。

 荷電粒子砲を撃つと、続けてブーメランディバイダーを投げつけた。

 そのまま武器を追うが、敵はまだ撃ってこない。

 ブーメランは下へ、俺は上へ。

 攻撃パターンを読まれていた。敵の射撃。急制動。

 上体を逸らすと、鼻先を光線が通過した。

 ブーメランディバイダーに仕掛けておいたギミックが発動する。PPでコーティングした反重力エネルギーを弾き飛ばしたのだ。回転しながら飛ばすため、全周囲へと攻撃を撒き散らす。

 PPも反重力エネルギーも微量なので射程こそ短いが、斥力の盾を突破する威力はある。

 敵はコマ落ち機動でこれを避けるとともに、こちらへと肉薄する。近接格闘にもちこむつもりだ。

「待ってたぜ」

 俺は残りの反重力エネルギーを足裏に集めて膝を曲げていた。

「いけ、リュージ」

 推進力として利用できる反重力エネルギーはもうない。通常スラスターでは加速が間に合わない。

 それでも俺の機体は砲弾と化して飛んでいく。ニャルルのPPを推進力にして。

 思い切り伸ばした足が、敵の身体を弾き飛ばす。

 火花を散らして飛んでいく黒VMAPは、背中からブーメランディバイダーへと激突。とどめの荷電粒子砲をぶちかました。

 結果を見届ける前に、反転して地面を目指す。

 反重力エネルギーは使い切った。通常燃料による空中機動は燃料を大量に消費する。いつまでも空中に留まっている余裕はないのだ。

 轟音とともに、爆炎が大輪の花を開いた。

「ありがとな、ニャルル」

「にゅふふー」

 HMD内に警告表示。まさか。

「今のなし! ガス欠じゃねえか、クソガキ!」

 またしても本体の燃料タンクから使いやがった。

 接近する二機のVMAP。味方機だ。マキと、もう一機はリナか。

 両脇を抱えられて地上を見ると、ハジメ機の周囲に一班のメンバーが集結していた。

『ふむ。強くなったものだ、リュージ』

 親父の声。まだ健在なのか、能腆鬼の野郎。

『さすがに無人機ではあっさりやられてしまったな』

 無人機だと。リモートコントロールだとでも言うのか。まてよ。たしかこいつ、戦闘開始前に本気で行くとかなんとか抜かしてなかったか。やはり信用できねえな。

『だがその力、どこに向けるべきかよく考えておいてくれ』

「狂気に支配された能腆鬼に貸す耳などない」

 ヘルメット内蔵イヤホンを通じてくぐもった笑いが聞こえた。

 もしかしたら、明確な意思を持った能腆鬼との、これが初めての直接対話なのかも知れない。本来なら会話を通して向こうの情報なり要求なりを聞き出すべきところだ。だが、相手の声は親父のもの。冷静に会話をする余裕など、俺は持ち合わせていない。

『狂気は参謀殿と大差あるまい。寿命を大幅に制限された半機械人間を戦場に投入するような輩なのだぞ』

 こいつ。どこまで知っていやがる。

『このまま軍との協力を続けて、参謀殿に組織ごと掌握されるのがリュージの望みなのかね。充分に考えたまえ。だが結論は早目にな。なにせ、総攻撃まであとわずかなのだから。また会おう』

「黙れ。俺たちのことをどうやって調べ上げたか知らねえが、あいにく親父の遺体はこの目で確認してんだ」

 イヤホンを通じて耳に届く声は、肉体がなければ再現が難しいであろう息遣いを含んでいる。機械的に再生された音声ではなく、何者かによる声真似の疑いが強い。

「親父を騙るてめえはこの手でぶったおす。必ずだ」

『そうか。では次回も殴り合おう』

 くそったれが。なぜこうも親父そっくりなんだ、能腆鬼の野郎。


 燃料タンクを予備のものと交換する俺の横に、リナだけが残って待っている。他のライダーたちは先に帰したのだ。

「これでよし、と。いい加減学習しやがれ、クソガキ」

「すまんのう。本体タンクの方が使いやすいのでな」

「故意犯じゃねえかっ」

 言い争ってる場合じゃねえな。

 俺はリナに目配せすると、チーフ機だけに許された秘匿回線を使って隊長を呼び出す。

『ご苦労だった、リュージ。用件は五分以内に話せ。それ以上は隠しきれん』

 促されるまま、前置きを省略して話し出す。

「マキとハジメには黙ってるように言い含めておきました。能腆鬼と思しき野郎との通信内容なんですが、記録に残ってますか」

『うむ。私には君の父上の声のように聞こえた。オペレータたちも聞いているが、ニャルルがジャミングしてからは一切聞こえていない』

 思わず目を剥いた。

『戦闘終了後、リュージが何者かと会話しているかのように聞こえたが、相手の声は記録されていない』

 黒VMAPは三機とも撃墜した。あの通信はその後で聞こえてきたものだ。敵はどこから通信してきやがったんだ。

「記録に残ってる方の通信相手、発信先の特定はできますか」

『確率としては七十パーセントというところだが、敵VMAPだと思われる』

「敵は参謀の名前も、サイボーグ戦士のことも知っているようです」

『うむ。あまり疑いたくはないが、身内にスパイがいる可能性も否定できん』

「得体の知れない敵です。工作員など使わなくても、調査する手段を持っているかも知れない」

『そうだな。身内を疑い出すときりがない。それこそが奴らの狙いという可能性はきわめて高い。総攻撃の日まで、セキュリティレベルを最大にしよう』

 通信を切ると、一つ溜息を吐いた。

「お疲れ様、リュージ」

「メシ食ってから帰ろうぜ、リナ」

 はにかんで頷く彼女に、もとレディースの面影は微塵もない。

「わ、我はお邪魔かのう」

「約束しただろ、パフェおごってやるよ」

「にゅふふー」

「うふふ。リュージとニャルル、すっかり仲良しさんね」

 訂正。一瞬——ごく一瞬、リナの目に宿った光は、そのスジの人間に特有のものだ。

 なるべく怒らせないようにしよう、うん。

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