晴天の攻防
ハジメが撃つ。背中合わせの位置からマキも撃つ。
互いに逆方向へと高速移動し、敵の光線を躱す。
しかし、敵の方が攻撃の手数が多い。互いの背を庇う形で、常に敵から距離をとるように移動する彼らは、客観的に見て押され気味という印象だ。
「どうだ、ニャルル」
「うむ、予定通りじゃ。さすがはマキとハジメ、いい仕事をする」
「どこかの役立たずとは違うからな」
「リュージは一言多いんじゃ。……距離千二百」
「よし。もう一機の敵は……真後ろかよ」
真後ろの敵がこちらに銃口を向けた。こちらと同じスピードで追ってくる。
背中越しに牽制のビームバルカンを撃つが、うまく狙いをつけられない。多少練習した程度では、ハジメやアキラのようにはいかない。
「距離四百」
「仕掛けるぞ」
機体を反転させ、追ってくる敵に頭部を向ける。
しかしあえて慣性に逆らわず、そのまま真後ろへと飛び続けた。
敵が撃ってきた——今だ。
機体を大きく縦ロールさせる。
例のコマ落ちの挙動を見せたかと思った次の瞬間、目の前に敵の機体が迫る。
「————っ」
最初に撃墜した奴より速い。
パニック気味に最大速度で回避。
「ゼロじゃ!」
曲げた膝を伸ばす。
地面を蹴るかのような確かな手応えが足裏に伝わる。
砲弾の勢いで飛び去る俺を追うべく、敵がこちらを向く。
俺はわざと機体を静止させた。しかし、敵は追ってこない。
飛び散る火花に全身を包まれているのだ。
「かかった」
俺は右腕を真上に掲げ、振り下ろす。
それを合図に、マキとハジメが俺の目の前で機体を交差させつつ飛んで行く。
火花を撒き散らす敵の周囲を数度飛び回ると、俺の背後へ移動して背中合わせの戦闘陣形を組んだ。
PPウエブ。空間にワイヤーを蜘蛛の巣状に張り巡らせた単純な罠だ。PPを塗布して不可視にしてある。
クソガキのジャミングにより、センサーに引っかからないからこそ有効な罠として機能する。
これで三対一。
一切の躊躇なく荷電粒子砲を撃ち込む。
だが、敵に届く前に放射状に拡散してしまった。射線上に、最後の敵機が滑り込んだのだ。
弾き飛ばした光線を反射し、黒いVMAPが禍々しく輝く。
俺は両腕を振り回し、味方に散開を指示した。
先ほどまで静止していた空域を大量の光弾が通過した。
三対二。くそ、PPウエブを引き千切って救出しやがったか。
不意打ちだからこそ意味のあった攻撃だが、撃墜には至らなかった。
マキとハジメのコンビネーション射撃が敵を掠める。罠にかかっていた方の機体だ。
光弾を撃ちながら突進するもう一方の敵を、ハジメが迎え撃つ。
投げつけたヴァイブロブレードをあっさりと避けた敵だが、振り向くとコマ落ちしたような挙動とともに上昇した。勘のいい野郎だ。ハジメのブレードにはワイヤーがついていて、敵の背後を狙ったのだが読まれてしまった。
現在の俺の目標は手負いの敵。その進路上に、ハジメとやりあっていた敵からの光弾が通過する。
しかし、マキの援護射撃が効いて、それ以上は邪魔されずに進めた。
小細工なしだ。
ブーメランディバイダーを手にして突進すると、投げつけることなく剣のように振り回す。
動きが鈍っていた敵の腹を切り裂き、荷電粒子砲をぶち込むと上昇した。
広がる爆炎を振り向くことなく最後の敵へと突進する。
タイマーが示す残り時間は二分。
ぐずぐずしてたらリナが出てくる。
「リュージ、余計な考えは捨てるのじゃ。奴は強い。他の二機とは違う」
だからこそ、だ。
今この瞬間、俺がここにいる理由はただ一つ。
「惚れた女を守るんだっ!」
「しょうがないのう。付き合ってやるぞい」
ブーメランディバイダーが強く輝く。
「すまん、ニャルル。俺のわがままなのに力まで貸してもらって」
「こんな時だけ名前で呼ぶでない。パフェで手を打ってやる」
喉も裂けよと雄叫びをあげる。親父を騙る能腆鬼め、この世に存在した証さえ残らないように消し去ってやる。
渾身の力で振り下ろしたが、反重力の刃は敵の機体に届かない。
手首を掌底で止められていたのだ。
次の瞬間、敵が遠のく。
衝撃は後から来た。
一時的に視界が霞み、腹部に強烈な痛みと圧迫感——蹴られたのだ。
装甲は無事。衝撃の大部分を吸収したというのに、これほどのダメージを受けたというのか。
マキとハジメの援護射撃が、敵をこちらに近づけさせない。
突然、ハジメの機体がぐらついた。そのまま地面へと墜ちていく。
「ニャルル、ジャミングを切れ!」
センサーが機能しない状態では自動着陸プログラムが起動しない。
「どうしたハジメ、無事かっ」
『チーフ、自分は無事です。しかし機体が言うことを……、くそっ』
「マキ、ハジメをたのむ」
『いけませんチーフ、あの敵には二対一で挑まないと』
「命令だっ」
残り一分。
反重力ボムを使うわけにはいかないが、奴は必ず斃す。




