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コンタクト

 雨の多い季節だが、今日は快晴だ。この街の住人は避難行動に慣れている。二日前に警報を出すようになってからは、その傾向が加速した。これだけの好天、きっと人々は街の外へと出かけているはず。通りは閑散としていることだろう。

 バイク形態のVMAPに跨って出撃を待つ俺の横に、見慣れたツーサイドアップの女性が近寄った。

「リュージ。あたしら一班も、いつでも出られるようにスタンバってるから」

 こいつも不器用な女だな。「がんばれ」と「無理するな」のどちらを選ぶべきか迷っているのに違いない。

「なあ、リナ。訓練の成績はお前の方が上だ。これからもさらに伸びるだろう。そんなお前に、俺からかける言葉はない。だけどな、今日だけ格好をつけさせてくれ」

 個人的な恨みも、今では誤解とわかった父親の行動への反発も。街の人間を守るという安っぽいヒロイズムさえも、今の俺には全部二の次だ。

「今回の出撃は、ただお前を守るために戦う。きっちりぶちのめしてくるぜ」

「そーゆーセリフ、我にも言って欲しいのう」

 俺が掲げた拳に自分の拳を当てたリナは、クソガキにも声をかけた。

「ニャルルもがんばってね。カヤがなんか過激な本を用意して待ってるらしいから」

「わほーっ。お陰様で闘志が湧いたぞよ」

 わほーっじゃねえよ。


 サイレンを鳴らして街を疾走する俺たちの進路上には、予想に違わず他の車輌が見当たらない。

『ヒントは与えた。……自分で考え……、自分で決めろ』

 ちっ、空耳かよ。充分寝たはずだってのに。

『チーフ、今なんと』

 マキとハジメから同じ内容の通信が入り、俺は眉間に皺を寄せた。

「俺は喋ってねえ。——聞こえたか、クソガキ」

「うむ。リュージの声に似ておったが、別人の声じゃ」

 となると、能腆鬼からの通信か。何故奴らが親父の声を知っていやがる。

「まさか搦め手で来るとはな。これ以上惑わされるのはごめんだぜ。クソガキ、ジャミングだ。総員、これより通信不能。打ち合わせ通りに行くぜ」

『了解』

 ヘルメット内蔵スピーカーからノイズが聞こえる。完全に沈黙する直前、またしても親父の声が耳に届いた。ノイズの中、はっきりと聞こえるのが不気味だ。

『CNSTの中にいてはイシガミ・シゲトシに刃を向けるのは難しい。私のもとへ来い、リュージ』

 どういうことだ。野郎、俺が敵視している国防省の参謀の名前まで知っていやがるのか。だが、その手は食わねえ。

「アホか。俺らの敵はてめえら能腆鬼だ。それに」

 スパイの単語が脳裏をよぎる。こちらの情報が漏れているのか。だが、余計なことに気を回している余裕はねえ。それこそ奴らの思う壺だぜ。

「親父の声で気安く呼びかけんじゃねえよ、くそ能腆鬼が」

 てめえらは母親の仇だ。もし通信相手が本物の親父だというのなら、妻を殺した相手に寝返ったということになる。なおさら許せねえ。いずれにしても。

「本気でぶちのめす」

『ふむ。わかり合うには殴り合うしかないか。私も本気で行くぞ』

 上等だ。親父を騙る能腆鬼め、俺たちの世界に来たことを後悔させてやるぜ。

「火気管制システム、オン。CN(対能腆鬼)モード!」

「リュージ、頭に血が上っておるぞ。ここは冷静にいくのじゃ」

「……ちっ。まさかクソガキに諭されるとはな。だが、ありがとな、ニャルル」

「どういたしまして、なのじゃ」

 クソガキの異能により各種センサーが機能しなくなるが、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)は装着している。肉眼よりははるかに性能の良い

カメラによる映像で、戦闘空域を見渡すことができるからだ。

「あれじゃ」

 上空を横切る三つの光点。散開し、こちらの出方を窺うようにゆっくりと飛んでいる。なめるなよ。目にもの見せてやる。

 解像度の高いカメラが敵の姿を捉える。姿形はこちらのVMAPとほぼ同じ。こちらのカラーリングは白を基調としたものだが、向こうは黒地に金のラインが施してある。下品な色だぜ。

「斥力の盾は見えるか」

「わからぬ。じゃが、あるとしても球状の斥力場ではなさそうじゃ」

 充分な情報だ。機体の全周を覆うバリアならば、クソガキの目を誤魔化すことはできない。

 きっとヒッポグリフと同じ理由によるものだろう。全周バリアを張ると機動力が犠牲になるのに違いない。

 仮説の真偽はともかくとして、俺たちがやることは一つだ。

 反重力システム起動。タイマー、オン。

 戦闘開始だ。最大速度で晴れ渡る大空へと翔け上がった。

 見てから避けていては間に合わない。直線的に上昇すると見せかけて不規則機動に切り換える。

「ぐえ」

 機体すれすれを敵の光線が奔り抜ける。

 ビームバルカンを乱射すると、 敵の一つに光弾が届いた。しかし、弾かれる。

「やはり、部分的なバリアじゃ」

 視界の隅で、マキとハジメもそれぞれ別の相手と一対一の戦闘機動を開始する様子を確認した。

 まずは予定通り。

 目の前の相手をビームバルカンで牽制しつつ、ヴァイブロブレードに代わる新武装へと手を伸ばした。

「うおっ」

 敵の動きに目が追いつかない。アキラとバーチャル機で対戦した時と同様な、コマ落ちのような挙動に肝が冷える。

 咄嗟に放った蹴りが敵の腹を打ち、反動で彼我の距離が開く。

 危なかった。新武装を取り出した後だったら、今の挙動で落としてしまっていたかもしれない。

 俺が追撃するよりも、敵の反撃の方が早い。逃げ場を奪う連射に舌打ちしつつ、新武装を手に持った。

「くらえ」

 投擲用の武器だ。くの字形のシルエットを持つそれは、投げつけた瞬間に回転しながら飛んで行く。

 VMAPは慣性を無視した挙動が売りだ。特性を活かし、俺は投げつけた武器を追いかけるように飛ぶ。

 敵は真正面から射撃を浴びせる。しかし、それらの光線は俺の武器が弾き飛ばす。

 ブーメランディバイダー。その名が示す形よりは、刃を限界まで広げたハサミに近いフォルムだ。全体をPPでコーティングし、刃の部分からは微量に反重力エネルギーを放射しているのだ。

「攻撃は最大の防御ってな」

 武器と俺は左右にわかれた。敵は刹那の逡巡を経てこちらへ銃口を向ける。

 だが今度は俺の方が早い。

 荷電粒子砲をお見舞いしてやる。

 避けた敵の身体を、ブーメランが切り裂いた。

 とどめの荷電粒子砲。

 まずは一体。

「ニャルル、無事か」

「問題ない。マキたちも善戦しておるようじゃ」

 能腆鬼め、口だけかよ。手応えがなさすぎるぜ。いや、油断禁物だな。

 緩みかけた口許を引き締め、部下たちの援護に向かう。

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