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殴り合いの空

 荷電粒子砲の一撃は挨拶がわりだ。斥力場に遮られて放射状に拡散するものとばかり思っていたが、違った。

 避けたのだ。

「ニャルル、空間の揺らぎは見えるか」

「見えぬ。飛ぶのに邪魔なのか、絶対避ける自信でもあるのか……」

 前者はあるまい。こちらは舐められているのだ。

 俺はヒッポグリフの正面、マキは背後へ。挟撃のポジションをおさえ、敵の頭越しにアイコンタクト。

 俺が放る反応弾の緩やかな軌道を尻目に、奴は無難に距離をとる。

「やれ」

 今回は予備の燃料タンクを携行している。頭上のお荷物が小さな手を正面に伸ばした。

 彼女の動作に応じ、反応弾は急加速して敵を追う。

 ヒッポグリフの嘴が光った。光線で迎撃するつもりだ。

 だが、マキの方が一瞬早い。

 荷電粒子砲の光条が反応弾に突き刺さる。

 反転、急上昇。

「ぐぇ」

 クソガキの呻き声など、すでに聞き慣れたBGMだ。

 しかし、すぐに聞こえなくなる。反応弾が炸裂する爆音に掻き消されたのだ。

「うおっ」

 爆炎も収まらぬうちに、敵の光線が鼻先を掠めた。

 せっかちな野郎だぜ、まだこちらのターンだっての。

 マキが反応弾を投擲して反転。

 敵を中心にして東西に展開する俺とマキ。一方、地上を移動する新人たちは南北に展開していた。

 地上からの荷電粒子による砲撃が交差する。

 その交点上にはマキの反応弾。

 輝く白光が命中し、空中に再び爆炎の花が咲く。

「空間に揺らぎ。斥力場じゃ」

『了解』

 ニャルルの報告。誰一人問いただすことをせず、敵が攻撃を凌いだ事実を理解する。

 それを受け、地上の二人も反重力システムを緊急起動。四者それぞれ不規則機動に移る。

「——————っ!」

 俺の鼻先に敵の嘴。

 反射的に蹴り上げた。俺の爪先が胴体のどこかに命中したが、もとよりダメージを期待しての攻撃ではない。反動を利用して急降下。

 どうやら、奴のメインターゲットはこの俺ということらしい。

 上等だ。

 来るなら来やがれ。

 地面が迫ってくるプレッシャーは、何度味わっても慣れることはない。願わくば、奴も同じプレッシャーを感じていてほしいものだ。

 まだだ。まだ急降下。

 限界。

 腹を擦るほど地面に近づいてから平行移動に移る。

 俺の進行方向を抑えるかのように光線が降り注いだ。

 破裂する地面が噴き上げる瓦礫に頭から突っ込む。

「ぶひょわ」

 耐えろクソガキ。

 その直後、ジグザグに移動しつつ上昇。少しは距離を稼げたか——いや。

「ちいっ」

 悔しさが舌打ちとなって漏れる。これほど完璧に背後に張り付かれたままだとは。

 くそ。VMAPをコピーするまでもなく、本気の能腆鬼はこれほど速いというのか。

 上空からマキが、地上からサツキが援護射撃をするものの、斥力場に難なく弾かれてしまう。

 ちらちらと振り返る。

 あれを試す。訓練でハジメが見せた技だ。後ろ手に撃つ。命中は期待しない。とにかく牽制しなければ。

 今だ。

 振り向くのはこれで何度目か。しかしその瞬間、不覚にも俺の思考は凍りついた。

 奴の嘴は既に光っている。

 俺の視界の隅を、白光が通り過ぎた。

 幾重にも重なる獣の咆哮。

 たぶんナオヤだ、よくやった。

 俺を攻撃すべく開けていた斥力場の穴から攻撃が飛び込んだのだろう。

 安心せず、反転して荷電粒子砲を構えた。

 後ろ手に撃って的に命中させるなど、ハジメだからこそなし得た技だ。折角のトドメのチャンス、ここは確実に。

「避けるのじゃ、リュージ」

 反射的に急上昇した。

 爪先に熱を感じるほどの至近距離を、奴の光線が通過していく。

「あやつ、斥力場の内側にもう一つ何らかの力場を巡らせておる」

 ……くそ。  


 ニャルル発案による反重力爆弾は既に完成している。本来なら実戦投入して効果を試験すべきところだが、敵の総攻撃までひと月以上という段階で手の内を見せてしまうのは危険だ。

 狂気の異世界生物が、知力まで失っているとは限らないのだ。

 現に、軍人が洗脳されVMAPを奪われている。その直後、それまでこちらの切り札であり続けた荷電粒子砲をある程度無効化する対策として、能腆鬼どもはどの個体も斥力場で身を守るようになりやがった。

 実際、目の前にいるこいつ、ヒッポグリフからは相当な知性が感じられる。

 新兵器について、隊長は厳重に箝口令を敷いた。例の空軍コンビにも教えていない。

 VMAP奪取事件以来、軍の対能腆鬼セキュリティは我々CNSTと同レベルまで引き上げられた。だがそれでも、隊長は軍を信用していない。

 信用できるわけがない。共同戦線を張るまでわずかひと月。当日展開する戦力の布陣について、書面での連絡は届いている。だが、未だに合同訓練の打診が来ないのだ。

 はっきりと書かれていないものの、軍としてはCNSTに人材を派遣したので、まずは手持ちの戦力で迎撃せよとでも言うかのようだ。そして、我々が撃ち漏らした場合に、ようやく軍が出動するという筋書きなのではあるまいか。

 疑いたくなる点は限りなく多い。しかし、今後どう動くにせよ、まずは目の前の敵を斃さねば何も始まらない。

 反重力エネルギー、残り四分を切った。

「リュージ、あれをやるか?」

「だめだ。あれはわざと記録に残していない」

 だが、軍人が派遣された今、戦闘記録に漏れがあってはまずい。俺たちが軍を疑っていることは、建前だけでも隠しておかねばならないのだ。

「最後の最後まで我慢しろ」

 どのみち、今の段階で切札を使わねば勝てないようでは、総攻撃を凌ぎ切るのは難しいだろう。

「お前ら、ハジメの分まで張り切りやがれ。殴り合うぞ」

『了解』

 さんざん後ろに張り付きやがって。もう背中は見せてやらねえ。

 歯を食いしばり、最大速度でVMAPを駆る。

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