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捕獲という名の出会い

 地面と平行に飛び去る光弾が夜の道路を照らす。

 二射——三射。

 複数の光弾が道の彼方を覆う夜闇より濃い暗がりへと吸い込まれた。

 刹那の間を置き、光芒が膨れ上がる。それは次の瞬間、赤い火柱と化して夜空に噴き上がった。

 雑音のひどいヘッドホンを通して爆音が耳に届く。

『本部より通達。目標……マップB5へ……、プラン……移行』

 ちっ。事前に八つ用意したプランのうちどれなんだよ。

「リュージだ。聞き取れねえぞ、どのプランだっ」

 だが、ヘッドホンから伝わる音はさっきよりもっとひどい雑音のみ。

「本部、本部。ディスイズ・リュージ。ユアボイス・カッティング・オーバー」

『……が……で判断……』

 てめーで判断しろってことか。それで目標を捕獲しそこなったら現場に責任押し付けるんだろ、くそが。

 こちらのセンサーや通信はジャミングの影響でほぼ使い物にならない。逃走中の目標がもつ異能によるものだが、逃がしはしない。なぜなら、その異能こそ俺たちが求めているものだから。

 マップB5は袋小路だ。俺の部下、マキとハジメは頼りになる。今回の捕物、失敗する要素は一つも見当たらない。

 だが、気を引き締めていこう。事前の情報は入念に調べ上げたものではあるが、絶対ではない。捕獲目標がジャミング以外の異能を持っている可能性は否定できないのだ。ハンドガンを握りしめる手に力を込める。

 その時、前方の路地から夜空に向けて信号弾が上がった。

 青い光。目標を予定の袋小路に追い込んだようだ。

『チーフ、ハジメです』

 やや低いが、張りのある男の声が耳に届く。どうやら通信が回復したようだ。各種センサーは——、正常に稼働している。

「こちらリュージ。通信感度、良好だ。捕まえたのか、ハジメ」

『はい、マキが保護しました』

 保護? 保護と言ったのか、ハジメは。思わず聞き返しそうになったが、まもなく肉声が届く距離だ。「でかした」とだけ返し、マキとハジメが待つ袋小路へと走って行った。


 何の冗談だ。

 マキが、文字通り『保護』しているのは女の子。正真正銘、人間の……幼女だ。百二十センチほどの身長、肩にかかる癖のない黒髪。小さな顔の中心で大きな瞳が揺れ、柔らかそうな頬は丸みを帯びていて、身長から受ける印象よりも幼く感じる。

 傍に立つハジメに目で問うた。左耳だけピアスをした長身の金髪男は、実にサマになる仕草で手を広げてから告げた。

「なんで女の子の姿してんのか謎ですが、間違いなく(サイキック)(モンスター)です。我々が追っていた個体ですよ」

 しゃがみ込み、幼女PMと目線を合わせていたマキが立ち上がった。

「おい、マキ何してるっ」

 見たところ、彼女は幼女PMに対し、手錠型サイキックバインドを嵌めていない。

「大丈夫です、チーフ。銃口を下げてください。この子、私たちについてくるって言ってますから」

 明るいブラウンのショートボブを風が揺らすに任せ、落ち着いた声でマキが言う。

「言ってる? 意思の疎通ができるのか?」

 疑問形ではあるが、部下を疑うつもりはない。俺は銃をホルスターに収め、PMに近寄った。

「我が名はニャルル。貴様らは我の力を欲しておるのじゃな」

 容姿と口調のミスマッチはともかく、発音も発話速度も申し分なく会話できるレベルであることにまず驚いた。

「よかろう、貸してやる」

 いや、まだ何も意思表示してないぞ。

「そのかわり、食事を用意しろ。……ふっ、安心しろ、見た目通りの食事量でこと足りる。寝床は——、そうだな、このおなごと同居で構わんぞ」

 俺は幼女から目を逸らし、マキと目を合わせた。彼女は薄く微笑むだけ。

 ハジメと目を合わせた。奴は手を広げるだけ。

「あー、本部。こちらリュージ。作戦失敗、目標ロスト」

「我の言葉がわからんのか、人間。連れて行けと言うとろうが。役に立つぞ、我は」

 俺は溜息を吐くと、通信機のスイッチを入れた。

 今思えば、本当の通信でも同じ言葉を繰り返せばよかったのだ。

 後悔先に立たず、である。

 俺たちは不幸にも、ニャルルと名乗る幼女PMを連れ帰ることになった。


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