「信じてる」 後編
幻は疲れたのか、少しの間だけ休憩を取ることにしました。
少年は心身共に疲労困憊でしたが、意識をわずかに外へ向けることができました。
少年の目に留まったのは、ケータイでした。ケータイには一通のメールが届いてました。
「最近学校に来ないけど、どうしたの? 私、とても心配してるの。返事だけでもください。ずっと待ってます」
それは、別れてしまった彼女からのメールでした。
なんで彼女は別れた恋人である僕に心配するのか。僕に良いところなんてないのに、彼女にしてやれたことなんてないのに。
少年はそう思いながら、緊張と恐怖で震える手を必死に抑えて電話をしました。彼女はすぐに電話に出ました。
そして、少年が今苦しんでいることやつらいことを一方的に話しました。疑問をたくさんぶつけました。答えをたくさん要求しました。内にたまったわだかまりが爆発し、感情的になりました。
幻は少年の声に気付き、少年を死なせるために容赦なく襲い掛かります。
再び幻を見せられた少年は、また孤独感に苛まれます。息苦しい水の中にいるように一人、少年は閉じこもっていました。
彼女は少年の暗さに驚きました。しかし、彼女の答えは幻を通り越して少年の耳へと伝わります。
「私はあなたの味方よ」
少年の心が揺れ動きました。幻の中から彼女が現れたのです。
「完璧じゃないあなたが好きだった。ただ優しかった。一緒にいて楽しかった。だから、死にたいなんて言わないで。私がそばにいるから。ずっとあなたの味方だよ」
少年の胸の苦しみが楽になり、澄みわたる空気が流れ込みました。
少年の頭の痛みがスーッと消え、楽しかった思い出が鮮明に浮かび上がります。
彼女からもらった幸せで、少年を満たしたのです。
受け止めきれない幸せの分は、少年の涙となって流れ続けました。
「私は本気よ。すべて正直に言った。孤独でもいい。信じなくてもいい。でも、また今度一緒に歩こう。一人より二人の方が、安心できるでしょ?」
彼女はそう言って、少年の手を引き、よどんだ水の中から出ました。
幻は悔しそうな顔で少年たちをにらみます。
少年のところまで追いつけない幻は、もやのようになって消え入りました。
同時に、彼女も消えました。しかし、ケータイから彼女の声が聞こえます。
少年は無事に現実へ戻ることができたのです。
彼女にお礼を言いながら電話を切った少年は、彼女の言葉を強く心に刻み込みました。
また奴らから襲われないように。強く生きられるように。