「信じてる」 前編
この小説を開きてくださってありがとうございます。
「あの人に近づきたくて」はショートショート集です。
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その日は憂鬱でした。
少年が孤独だったところを襲われました。
生きている心地がありません。
ただ、幻を見ています。
恥をかいたこと、失敗したこと、悔やんだこと、悲しんだこと。
幻は嘲笑い、叱って責めて、少年を追い込みます。
その幻は、地獄ではありません。あの世でもありません。
少年が自分を死滅に追いやろうとしている幻です。
幻は身の内にある幸せを空っぽにするために呼吸を激しくさせます。
すると、胸が苦しくなり、頭が痛くなります。苦しみに耐え切れず涙が流れます。
少年は自分に自信を持つことができませんでした。
好きだったスポーツでは負け続け、勉強も低い点数をとり続け、付き合っていた彼女と別れ、いじめを強いられました。
見た目も中身も、次第に醜くなりました。
僕は駄目なヤツだ。貧弱、醜悪、不潔。
独りになりたい。
死にたい、死にたい。
でも、本当は身体は幸せを欲しがってます。
だから、もがき苦しむのです。
幸せを吸い込みたいと、胸の呼吸が激しくなります。幸せを思い出したいと、頭が暴れます。幸せになりたいと心が強く思うあまりに、涙がこぼれます。
少年はそのことにまだ気付いていません。むしろ、幸せになることを恐れるようになりました。
これも、幻が現実と見境のないところまで追い立てていたからです。
少年は、肩身の狭いところで縮み上がって、ひっそりと、身を隠しました。
もう外へ出られるような状態ではありません。
人という人が怖くて仕方がないのです。
四六時中、寝ても覚めても、幻は消えません。少年を抜け殻にするまで苦しめます。あるいは死なせるまで苦しめます。
少年の目にはわずかな光明さえとどきません。
少年の耳には小さな物音さえとどきません。
少年はただ死に絶えたいと願うばかりです。