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全力の価値は

作者: 毛玉

昨日。

駅から徒歩で帰った。

それなりに遠い駅だ。じりじりと熱い夏の中、結構つらい。

5年間愛用した自転車を盗まれ、新しく買った自転車を車のひき逃げでお釈迦にされたという経緯のせい。

納得できるか、理不尽だ。

俺の内々に鬱憤が渦巻いていた。


そんな夏の昼下がり。


歩く歩く。


辺り一帯コンクリートジャングル。エアコンの廃棄熱が身体に吹きかかかる。

家にはエアコンがない。自分の意思で使った事もない。

なのに、周りは遠慮なくがんがん使い、辺り一帯の温度を上昇させる。

これも、理不尽だ。

地球温暖化とか、燃料枯渇とか正当化の建前は一杯ある。

が、この思考の根本はもっと単純、鬱憤を他人にぶつけて自身を正当化しているだけなのだ。

それが分かっているからこそ、・・・あぁ鬱々しい。そんな自分は嫌いだった。


歩く歩く。


ふと目の前にいる人影が目に留まる。

不思議な事に、その人影を見た途端、胸に渦巻いていた鬱憤が晴れていくのを感じた。


それは綺麗な白髪を湛えたおばあちゃんだった。

杖を突き、腰を曲げ、雑誌の入った手提げの袋を持つその歩みは・・・

骨折し、松葉杖を突いていた頃の自分の歩みより、なお遅かった。

この35度越えの暑さの中で、だ。

心配になった。


だが、手を貸そうにも名案がでない。

おばあちゃんの手荷物、袋推定200グラム。こんな物もっても仕方が無い。お節介だ。心苦しいと思ってしまわれたら本末転倒。

じゃあ背負う?すぐ不可能だと結論を出した。そんなに力は無い。


さらに、迷惑でなかろうか?

その懸念が足を止める。


結局、おばあちゃんの前方を遅く合わせてちょこちょこと歩き、時折振り向くだけに留まった。

熱射病とかになったら、すぐ助けられるように。

おばあちゃんの歩みは止まらない。

何事も無く、家に着く。


それを見て、思った。

「・・・凄いな」

と、今まで俺は何をぐずぐずしていたのだろうか、俺はもっと頑張れるはずだ。いや、頑張らなくては失礼だ。

『もっと、熱くなれよおおおお!!』

心の中で、炎の精霊がうるさい。コレだから修造は大好きだ。色々と元気をくれる。

とりあえず、今は帰ろう。全力で。

初めの心の鬱々さはもう、どこかに吹き飛んでいた。


今日思ったこと。

『全力には価値がある』

同じ距離を若い人が歩いたって、何も感じないだろう。ただ日々をすごすより、全力で生きたい。

それにはきっと大きな価値があるに違いない。


最後に。

自分がおばあちゃんに抱いた感情。

これを、同情といっていいのだろうか?

一言で言えば、自分よりつらい人を見つけただけの話。

酷く軽薄な気がした。

仕方ないか、俺だもの。

でも、人には正しく在りたいという心が備わっている。って、信じてる。

久々に沸いた純粋な善意。

だが、俺はそれを実行できずに終わり、それが残念だった。

・・・次、頑張ろう。

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