仲間を見つけましょうか
予想していた衝撃や痛みや轟音は、全く来なかった。
「…え……ねえ!!ちょっと!!大丈夫!?」
聞こえたのは、ひどく可愛らしく甲高い声。
「え……?」
「大丈夫なの!?今そっちに行くから!!」
熊か狼かと身構えていた花音は、その声に馬鹿みたいに呆けた声を出して目を開けた。大きな眼にはうっすらと涙の膜まで張っている。
茂みをかきわける音が続いた後に一際大きな音を立てて現れたのは、花音の記憶にうっすらと留まる…。
「あ……!!」
「ん?」
茂みから上半身だけを出した中途半端な体勢のまま、声の主は驚いたように声を漏らした。
痛いほどに目に焼きつくのは金色。
それは娘の細い肩を滑り落ち、胸元の隆起を流れて腰まで届いている。
否応無しに視線を集めるのは黒色。
鮮やかな金を拒否するように、それは圧倒的存在感を生み出している。
確実に人目を惹いているのは灰色。
全てを引き立てるように、全てを押しのけるようにそれは在る。
「…貴女……さっきの…」
「さっき?…何処かで会った?」
「あ…!い、いえ!ご、ごめんなさい!」
記憶に残るといっても、それは花音が一方的に見ただけに過ぎない。彼女が不審に思っても不思議ではないだろう。
「いいえ、特に謝ってもらうことじゃないわ。もしかしたら私が忘れているだけかもしれないでしょう?もしそうなら謝るのはむしろ私の方よ」
「え、いえ本当にそんなんじゃないんで!その」
「そういえば」
花音が言葉に詰まりかけた一瞬を見逃さず、娘は口を開く。そこには確固たる意志と自信が満ちていて、彼女の性格を感じさせた。
「貴女、名前は?」
「……へ?」
「見た限り私と同じ状況だと思うの。何かの拍子にいきなりこのよく分からない場所に倒れていて、携帯が繋がらない。違う?」
「え、と…違わない、です。私、殿吹花音っていいます。あの…」
「私は仙堂ベルテ。気軽にベルテと呼んで頂戴。花音って呼ばせて貰ってもいい?」
「あ、はい」
娘の…ベルテの勢いと自信に、花音は上手く言葉を紡げない。
何事も自信に満ち溢れているといった感じのベルテに、流され易い部分がある花音はあまり良い組み合わせといえないだろう。何故か敬語が取れないのが良い例である。
しかしそれでも現在、この状況において協力しないというのは愚かの極みだ。
だから。
「あの、ベルテ…さん。お願いが…あります」
花音の言葉に、少女は不敵に笑った。