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気になる人々がいるんですよ

 門を抜けると、そこは学園でした。


 そんなよく分からない言葉を脳内で呟きながら、花音は大きな眼をこぼれ落ちそうなほどに見開いてその光景を凝視していた。


 桜宮学院の最大の特徴、それはこの現代日本において明らかに浮いた存在であろう西洋風の建物だ。豪奢にして繊細、華美にして素朴な校舎はとても目立つ。学院の広大な敷地に存在する建物は全て似たような趣向が凝らされている所為か、まるで別世界にやって来たかのような錯覚を起こすからだ。

 もちろんそれだけではない。校舎内は外観を見事に裏切って近代的で開放的な造りをしている。最新の設備を遠慮なく揃え手入れも万全、いかにも私立といった風情の学校なのだ。


 故に。


「おおっ!?凄い凄い!教室広い!!」

 花音は校舎内に一歩踏み込んでから、絶えず歓声を上げていた。最初は周りに考慮して小さかった声も、今はそんな遠慮も吹き飛んでいる。キョロキョロと周りを見回しては目を輝かせる花音は、まるで遊園地に連れて来てもらった子供だった。

「ほわぁ~…此処から中庭も見えるんだ…」

 オープンキャンパスの今日は既に授業が始まっているにも関わらず静かで、どうやら午前中しか授業が無かったらしい。校庭で運動部が活動している掛け声が僅かに聞こえてきて、廊下や中庭にちらほらと生徒も歩いている。そんな日常の風景が花音のテンションを勢い良く上げていた。


 廊下を歩くのは憧れの制服を着た少女。

 中庭に座っているのは知的な教師と生徒。

 教室で談笑するのは人の良さそうな男子達。


 見るもの聞くもの全てが新鮮で、花音は興奮したように大股で歩く。しかし生徒たちは花音が中学生だと理解しているらしく、微笑ましそうに見守るだけだ。もっとも、花音の他にもたくさんの生徒が同じような反応をしているので慣れただけかもしれないが。

「…お?」


 それは、本当に唐突に目に入った。


 長い金髪。髪色によく映える黒いリボン。有名女子私立中学の制服。

 中庭を挟んだ向こうの校舎内を見学する中学生たちの集団。没個性になり易いそこで、彼女は確かに花音の目を惹いた。

「……!!」

 目が合った。確実に認識できないはずの距離を超えて、確かに花音はそう確信していた。

「……綺麗…」

 思わず呟く花音。そんな少女の姿を見てギョッとしたように距離をとる桜宮生はきっと間違っていない。しかし今の花音はそんな彼らの視線も気にならないようで、ひたすらに少女の消えていった向こう側の校舎を見つめている。


 その時。


「ち、ちょっと!?今日はオープンキャンパスで他校生は入場禁止ですよ!?」

「さっきから煩いなぁ。僕は中学生ですって~」

「どこからどう見てもそう見えないから注意してるんですよ!?」


 ドタバタ、この学校にあまり似つかわしくないような荒々しい足音が聞こえ、次の瞬間なにかが花音の視界を掠めた。

「……?!」

 思わずそちらを目で追いかければ、バタバタと音を響かせて2人の学生が追いかけっこをしている。

 追いかけているのは、桜宮の制服を着た男子生徒。先程聞こえた切羽詰まった声は彼のものらしい。

 そして追いかけられているのは、正直一生関わりたくないような風貌の青年だ。赤く染められた髪が目に痛い。

 「えっと…」

 花音は暫く考えて…踵を返した。変なドタバタに巻き込まれるのは誰だって御免だ。そう思って一歩踏み出した、ら。


 地面が消えた。


 「え?………ひゃあぁぁぁぁぁ!?」





 長い悲鳴の尾を引きながら、花音は階段を滑り落ちていった。

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