オープンキャンパスで出会うのは…?
「うわぁ…此処が桜宮学院…!?」
八月半ば。夏真っ盛りの空の下、1人の少女が門の前に立ち尽くして唖然としていた。
それといって特徴のない、普通の少女だ。髪も目も日本人らしい漆黒で、強いて言うなら長いまつげに縁取られた大きな双眸と、一般よりも少し整った容貌くらいだろうか。着ているのは白いブラウスと灰色のスカート。彼女が今いる学校から、3駅ほど離れた所にある極々普通の公立中学校の夏服で、周りにも同じ制服の者がちらほら見られた。
「すごい…」
少女……殿吹花音は、未だ門の前に立ち尽くしたまま呟く。
私立桜宮学院。
小学校から大学まで網羅する県内でもトップクラスの私立校で、偏差値は70~66。駅から近く実績も上々、施設も充実してさらに制服も可愛らしいとなれば、志願者が殺到するのも無理はない。
そして特別進学科、普通科、さらに何故か特殊科という学科があるが、花音の志望学科は普通科だ。
「……ん?」
これ以上立ち尽くしていれば不審者に見えるかもしれない。
そう思った花音がもう一度だけ門をぐるりと見回した時、ふと視界の隅に視線を感じた。
大半の生徒はもうとっくに門をくぐっており、今此処にいるのは花音の他には数人しかいない。しかも皆パンフレットを見ていたり話し込んでいるため、花音が視線を感じることは無い筈なのに、だ。
違和感の正体を探るためにもう一度、花音は周りを見渡して、
…ばちっ
目が合った。それはもう、一瞬ではなくしっかりと。
「…へ?」
思わず花音は声を漏らす。馬鹿みたいに呆けていた。
それもその筈。花音と目が合ったのは、今まで見たことが無いほどに優れた容姿の少年だったからだ。
色素が薄いのかただのインドア少年なのか日焼けしていない白い肌に、茶色の目立つ髪。しかし何よりも人目を引いているのは、遠目からでも分かる程に可愛らしく整ったその顔。
そしてその顔をこちらに向けて、少年は花音を凝視していた。
「…ええと…」
見つめあって約2秒。花音にとっては数時間にも感じられるその空白の後、先に動いたのは少年の方だった。見つめあっていたことが嘘のようにあっさりと目をそらし、スタスタと門をくぐって行ったのだ。
「なに、今の……」
少年の行動に首を傾げる花音。しかし残念ながら、今の彼女に熟考を許す時間は無かった。
「…あれ?」
気がつけば周りに人がいない。時計を確認すれば、もうこの門の前に立ってから30分が経っていた。いくらこのオープンキャンパスに時間制限が無いとはいえ、これでは楽しむ時間が無くなってしまう。
「ま、いいか」
花音は小さく呟いて、門の中に…巨大な学び舎に足を踏み入れた。
『…№1…殿吹花音……発見…作戦始動…』