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錬金経営術  作者: 鉄JIN
第一章
6/30

商品化

「本当にこれで出来るの?」

 沙月の疑問は当然だろう。以前に目にした工場の機械に比べて、あまりにもチープな箱と言っても良い。

「もちろん、十分だよ」

 アキトの軽い返事を聞いても、まだ不審そうな顔をする。

 わずか二メートル程の長方形の箱にしか見えない。


 披露しているのは、会社の命綱と言っても良い触媒の製造機である。


「なんと言うか……あはは」

 夏希もあきれ顔だ。


「これ一台で日産五百は出来るよ」

 出て来た五センチ程のコアは塩水に漬けると発電する。繋げることで発電量を増大する事も可能な上、二酸化炭素なども出さない。


 効果は試験の結果から最大に発電するのは、三ヶ月でそこから徐々に下がって行き六ヶ月で二十%に落ちる。

 そうなる様に作ったのはアキトだった。


 コアの中には触媒と名付けた物が入っていた。ありふれた合金を使っているが、これは秘密がある。

 まず形は魔方陣を幾何学的に模してあった。

形自体が呪文の様な物で魔力はあらかじめ入れてある。

 発動のキーは設定された物で、この場合は塩水であった。浸かると発電を行い取り出すと止まる。もちろん変更も自由に出来た。


 魔術回路で効果を限定するなど仕掛けは様々だったが、ありふれた魔法具の一種と言える。



        ※


 生産を始めてから三ヶ月。

 広告も打たずに始めた事業にしては順調である。


 アキトは国内で主に漁船を作っていた会社の提携から始めた。

 沿岸で漁にいそしむ小型の漁船を選んだのだ。

 これが大当たりしたから笑いが止まらない。


「にいちゃん! 凄いぜ!」

 漁師の親父がわざわざ会社まで魚を持って訪ねて来た。


「正直言うと、もう年だし漁を諦めようかと思ってた」

 涙まじりでしわくちゃの顔は、真っ黒に焼けていた。

 アキトの手を握り締めて感謝を表していたのだ。


「これ! 喰ってくれ」

 アキトは財産を得た。燃料費の高騰で苦しむ漁師を救った事で信用を得たのだ。


 もっとも当の本人は、ただ美味しい魚を食べたい一心だったのだが……。



        ※





「アキトくん、自動車会社から注文が入ってる」

 自動車大手のトミタからの注文である。提携ではなく、いきなりの発注とは恐れ入った。

 断られる事など無いとばかりに、値段まで記入された発注書だった。もちろんトミタ自動車の書式である。


「ふーん……」

 アキトは眺めると丸めて捨てた。

「ちょっ! ちょー! 捨てるの? トミタだよ!」

 沙月が驚くのは無理もない。

 経団連の会長も務めた人物のいる会社である。

 日本の一流と言っても良い企業だ。


「あー……沙月ちゃん、あそこは駄目なの」

 若干あきれ顔で夏希が説明する。


「前にね、経団連のパーティーで色々とあったから」

 そう、大江商事をアキトが継いだまもなくの時期であった。

 経団連主催の会場で挨拶に行ったアキトに対して、当時の会長であったトミタの社長が言ったセリフ。





        ※





「ん? 誰だねこんな子供を連れて来たのは? 大江商事? ああ、あの成り上がりの会社か」

 確かにバブル期で業務を拡大したのは事実である。

 しかし……大人の対応とは思えなかった。

 名のある企業のトップとしても失格であろう。


「まあ……せいぜい頑張りなさい。もっとも会社としては諦めたのかもしれんが」

 当時はこれくらいの認識であった。米国で評判の科学者であっても、今ではつぶれかけの企業を継いだ若造。

 触媒理論も話題ではあるが商品化の先行きは不透明で、アキトの日本での評価は低かった。



        ※




「て、事があったわけ」

 苦笑いの夏希である。

「ひっどーい! 最低ね!」


 この件は結局黙殺する事にした。天下のトミタ自動車からの注文を、返事も無しで無視したのだ。


「もともと日本では、これ以上売る気はありませんから」とのアキトの一言で、最初の売り込み先に選んだのは英国に決定する。

 市場を考えると米国が一番見込めるのだが、アキトには考えがあったからである。


「何とかしてくれそうな人もいますから」


 企業の経営で考えるといろいろ間違っていそうだが、これがアキトであった。




        ※


「それで相手の反応はどうなっている?」

 ここは霞ヶ関の経済産業省の会議室である。


「芳しくありません」

 そうそうたる局長課長級が集まって議題にしているのは、アキトが開発した触媒の扱いである。


 経済大国日本の、唯一と言っても良い弱点は資源の少なさである。それが一気に世界最大の資源国に変わるチャンスなのである。

 官僚たちは、これを民間に預けるべきでは無いと考えていた。


「これほどの技術は国が管理するべきだ」

 次官が神経質そうな顔で発言すると、他の出席者も一応にうなずく。


「何か規制を掛けるべきでしょうな」

 課長の声でさらにうなずく。

 会議は盛り上がっていった。しかし……。








 当事者であるアキトの事など、誰も眼中に無いのだろうか?

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