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錬金経営術  作者: 鉄JIN
第一章
23/30

侵入者

ちょっと短くてごめんなさい。

 ソールズベリー郊外に建てられた工場は、四つの建物から出来ている。

 手前は厚生棟で食堂や更衣室があり、他に事務系の職場も集められていた。

 その奥は二つの工場が並んでいて、コアの生産から製品の組み立てまで行っている。


「一番奥は入ったこと無いけど」

 二人は普段立ち入ることの無い、建物の前で様子を伺っていた。

 工場内で働く社員はIDカードを所持している。マリベルたちは青色で、カードと同色の建物に出入りを許されていた。

 目の前の建物に示された色は赤。

 セキュリティーレベルは最高を示していた。

「看板の説明によると研究棟ですね」

 リリベルが言った通り案内板には研究実験棟と書いてあった。


「さて、気配がするのはここね」

 出入り口は、荒らされた様子は無いが施錠ロックを意味するランプは消えている。

「開いてるね」

 マリベルたちは、音も立てずに内部に入り込んだ。


 研究実験棟の内部は、地下に向かって重要施設が設けられていた。

「さて、データーを出して貰おうか?」

 どこと無く異形の存在。黒の葬儀でしか着用しないはずの祭服に身を包んでいる。二メートルを超えた長身に比べて異常に細い身体。

「ここで何かをやっているのは分かっているのだ。なに、おとなしく協力してくれれば、危害は加えないと約束しよう」

 言葉は丁寧だが約束など信用できないだろう。その顔を見れば。

 サディスティックな目は、残忍さを隠そうともしない。

(祭服を着ている。まさか聖職者? 教会が実力行使にでたの? いや……どう見てもあれは破綻している)

 マリベルたちは、小柄を生かして空調のダクトを通って来た。

 天井に空けられた通風孔からは中の様子が良く見えた。

 人質は一人。痛めつけられた様子は見えないが、足元には手足を縛られた研究者が倒れていた。


 侵入者は全部で五人だと通風孔から確認すると、マリベルは制圧の手段を考える。

 見たところ武器の存在は確認できなかった。まさか素手という事は無いだろうが、大型の自動小銃などは所持して無い様だ。

 確保するのは人質の安全と決め。出来るかどうか考える。

 ──いける!

 手話でリリベルに指示を出すと覚悟を決めた。


 マリベルは幼少の頃から特殊だった。それでも修道院マルタに引き取られる前は、家も家族もある生活をしていた。

 だが……。

 誰もが怯えていたのだ。

 家族だけでは無い。

 出会う人、小さな村のすべての人が怯えていた。

 何かをされた訳では無い。危害を加えられる前に怖かった。

 なぜなら。

 無意識に人を支配するからだ。


 通風孔を塞ぐ網を蹴り破った。

「ダレダッ!」

 先にリリベルが飛び出す。こういう場合身体の小さな彼女は素早い。錫杖を振り上げ室内を物色していた侵入者を打ちのめす。

「グハッ!」

 そしてマリベルは、長身の異形者の前に出た。他はリリベルに任せておけば良い。

「何者だ!」

 言葉の影にラテン語のなまりを感じる。日常的にラテン語を使っているのか。

「それはこっちのセリフよ! 勝手に他人のひとんちに入り込んで悪さをしないで頂戴!」

 いつの間にか工場は、マリベルの家になったらしい。

「ふんっ! われわれの邪魔をするものは悪。正義を行使するのも権利なのだよ」

 どうもいまいち会話が噛み合っていない。

「残念ね。古今東西、侵入者は悪と決まっているのよ! 正義なんてちゃんちゃら可笑しいわ。もっともアタシが言うセリフでも無いけどね」

「そうですね。お姉さまは悪の美学がお似合いですから」

 横からリリベルの突込みが入る。

「誰が悪の美学よ!」

 言い返すが顔は嬉しそうである。この場合の悪とは、マリベルに取ってほめ言葉であった。

「おお! 神よ! 救われぬ悪魔に鉄槌を! そして……」

 手を胸の前で合わせ歌劇の様に歌うと、一息吸って「そして血と懺悔の苦しみを」舌なめずりした。

「うはーっ、飛び切りの狂信者ね。いや、変質者の間違えかしら」

 銀の短剣を構えてマリベルのおちょくりは続いた。

 さすがに勘に触れたのか「おのれ悪魔の小娘! 神に変わって成敗してやろう」顔色を変えて反応してきた。

「あれあれ? 怒っちゃうんだ?」

「黙れっ!」

 相変わらずのマリベルに襲い掛かってきた。

「ふんっ! 遅い!」

 つかみ掛かる手を避わすと、後ろ向きにお尻をフリフリ。

「あちゃーっ! 遊んでないで真面目にやって下さいよ」

 リリベルはそう言うが、この状態のマリベルは強い。

「ウガァアアア!!!」

 叫び声を上げ襲い掛かる相手を翻弄しながら短剣をぶつけた。もっとも刃が付いて無い短剣では致命傷を与えられないのだが。

「ぎゃっ!」

 当てた場所から煙が上がる。

「くくくっ、やっぱり悪ね。聖剣が仕事してるわ」

 空間はマリベルが支配し始めた。

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