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錬金経営術  作者: 鉄JIN
第一章
18/30

たくらみ

 アキトは気がつくとベッドの中だった。

 どうやらワインを飲み過ぎてしまったらしい。ここまでどうやって来たのか全く覚えが無い。きっとジェームズ辺りが、連れて来てくれたのだろうと思ったのだが……。


「なっ!!!」

 隣にはクリスが寝ていた。

 長い髪を幾分散らしながら、腕にしがみついている。

 その辺りでこの部屋が、自分の客室で無い事に気がついた。


「……クリスの部屋?」

 隣ですやすやと眠るクリスは幸せそうだ。視線を胸元に動かせば、はだけた毛布から見える胸元がアキトの目を釘付けにする。


 アイラ譲りの豊かな乳房が、今にもこぼれそうに寝間着から見えていたのだ。

 静かな寝息で上下する魔力の塊はアキトを捕らえて離さない。体から溢れ出す匂いもどことなく官能を刺激した。

 どうやらこの時点で、クリスの企みは成功したと言っても良いだろう。


 ごくりと咽を鳴らす。


 記憶の中の少女は、母性的な魅力に溢れる女に変わっていた。腕に当たる感触はどこまでも柔らかく、どうにかすると頭がおかしくなる。

 アキトは、幼い頃何処に行くのでも手を引いてくれた姉を女として意識しだした事で混乱していた。


 鼓動が激しく困る中。

「……」

 言葉にならない笑いの吐息が聞こえて、楽しそうに寝息を立てるクリス。


 そっと手を伸ばしてみた。頬を撫で髪をかき上げて、胸元に伸ばされた指先はためらっている。

 あと少しで届くためらいに、アキトはむしゃぶり付きたくなる心を抑えた。


 そして「ふふっ」と笑い、腕を背中にまわして軽く抱きしめる。


 額にキスして目をそっと閉じた。

 いま暫く二人の関係を崩したく無かったのだ。




        ※




 一方クリスはと言えば……。


「……失敗してしまいました」

 盛大にへこんでいた。

 昨夜は準備万端でアキト攻略に臨んだが、緊張からワインを飲み過ぎて━━と言うより、アキトを酔わせて凋落しようと考えていた━━途中で一緒に寝てしまったのだ。


 もっとも寝ているアキトに、いろいろエロエロな事を密かにしていたので、かなりの満足感はあるのだが……。


 枕に顔をうずめて時々ニヤニヤしながら「うふふ……いやん、どうしましょう!」などと……結構な姉である。


 くねくねと身をよがらせて独り言を呟く姿を見れば、若干汚された━━アキトは寝ていて気づいていない━━彼がどう思うかは保証できない。


 もっとも、お嬢様のクリスの出来る事など知れていたが……。


 こうしてアキトの英国滞在は一時終わる。




        ※




 帰国を待つ日本では、ウインストーン家を通じた融資が進んでいた。

 大英銀行からの融資である。

 江田島習作が予定していた設備投資の規模を超えた、大掛かりな計画に練り直らされたからだ。


「こんなに大事になって……大丈夫か?」

 習作が不安を隠しきれずに美枝に尋ねる。


「アキトくんが帰って来ないと、何とも言えないけど……大丈夫じゃ無い?」

 幾分頼りなげな美枝も英国に行っていきなり、王族や貴族をバックに付けて来るなどとは思ってもいなかった。


 ほぼ英国全面協力の体制に、顔が引きつっている。

 本社ビル━━古びた四階建ての建物でエレベーターさえ設置されていない━━に大使館の人間まで迎えたのだ、混乱は手に取るようだ。


 先に帰国した早苗によって二次加工品の計画は先行しているが、これもアキトが帰国しないと先に進めない。


 日本の株式会社HOMURAは、今後は白物家電に乗り出す。

 第一弾に冷蔵庫を送り出して、順次エアコンや空調機をリリースする予定だ。

 魔道具と家電は相性が良かった。コアを上手く使えば節電所では無く、現行の家電業界は大ダメージを受けるだろう。

 特にアメリカ向けを中心にするために、アジアの各企業の脅威はすさまじいだろう。


 円高や安い人件費などで胡座をかく商売の終わりの風は、急速に勢いを増していく。




        ※




 横浜でAPECを控えて民政党では対応に追われていた。


 汚沢訪中団のお土産の対応である。

 天皇特例会見で中国に異常な配慮を示した民政党政権であるが、訪中団でもやはりやらかしていたのだ。


 表向きは、温暖化対策のために協力を仰ぐとしていた。何の協力と言えば、簡単だ! アキトの持つ技術をよこせと言っているのだ。


 特にAPEC中に、アキトとの交渉を実現させる事を求められた。


「何とかしたまえ!」

 TVで見せる姿とは違って言葉を選ばず、いや……怒鳴りつけているだけだが……。


 汚沢は思うようにならない事態に苛立ちを隠さない。当初は簡単な事だと思っていた。

 たかが若輩の経営者だ、適当に影から圧力を掛ければ従うだろう。この日本で生きていくためには流されれば良い。自分はそう思って生きてきたのだから。


 だが、英国の邪魔が入り。

 このままでは自分には利益が得られないでは無いかと。


 中国からの圧力が高まる中、アキトとパイプ一つ作れない連中に当たり散らす。





        ※




 相変わらず出口の見えない大江商事を、買収の嵐が襲っていた。


 韓国国策企業のコムソン電子がその相手である。

 自社に有利な韓国での訴訟を画策するため、大江商事の持つアキトとの代理店契約が必要だったのだ。


 あくまで特許使用の権利は大江商事に与えた物で売買出来ない。借与貸与も認めないと言った事が結ばれていた事から、買収に踏み切る賭に出た。


 韓国と米国で裁判を有利に進め、コアを手に入れようと企んでいる。


「我が社の優位を守るために、使える手は全部使え!」




 中韓は時期を合わせるかのように動き出した。

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