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錬金経営術  作者: 鉄JIN
第一章
17/30

計画

 アキトが出資を受けて設立したB・H社ブリティッシュ・ホムラは、ウインストーン家の投資財団から派遣された人員で構成される。


 アメリカのCEO(執行役員)に相当するMD(業務執行取締役)の地位にはクリスが座りアキトはシャドウ・ディレクター(影の取締役)の立場に収まる。


 これは取締役たちに命令権を持つことになる。尚チェアマン(取締役会長)にアイラが就いた事で、世間からは英国の囲い込みが成功したと見られていた。


 出資比率はアキトが全体の五十一%を持ち、ウインストーン家の投資財団とマクラレン・フィルが十%ずつ持った。


 残り三十%の内訳はこうなる。


 BPE(英国石油工業)が五%で、ここにはマクラレンとアイラも出資していた。

 対立する、石油メジャーを巻き込むことに成功したのだ。もっとも生き残りを賭けてすり寄って来たとも言えるが。


 アメリカからは、幾つかの投資銀行と流通にそれぞれ三%割り当てる。選択はマクラレンとアイラが行った。


 当面はEU内を中心に事業の拡大を図る予定だ。最大限に免税規定を利用しようと考え、また英国人を中心に━━アキトの考え━━雇用した事によって内需の拡大も目指している。今後一〇年で予定される事業の拡大で、約十万人の雇用を見越すなど最早英国の主要産業と考えても良いだろう。


 対外的には欧州危機で財政が逼迫している国を、ノックダウン生産の拠点とする事で雇用を確保し他の国からの批判をかわしている。特にドイツ、フランスやイタリアなど自動車産業の盛んな国からは、コアの供給や技術提携の圧力が強い。


 ギリシャで自動車工場の計画が進んだ事で危機感を感じているのだ。ドイツなどに取っては、自動車産業それも国民車などとんでも無いことである。


 ドル箱産業を独占したいドイツに対して、英国政府は「では、ギリシャの財政支援を行うのなら考えましょう」と国としてはまったく支援などせずに外交でカードを得た。


 アキト様様である。


 もっとも財政の健全化には英国の取る支援━━アキトの戦略━━は理にかなった物でギリシャ政府も一定の支援を約束した。

 数年後には公務員の多さも解消される見通しだ。



        ※



 ところで、順風満点に見える英国とは別にアメリカでは微妙な雲行きである。


 議会では南部を中心に、上院議員が法案を通そうとしていた。

 権益と自国の産業を守るための運動は、根強い支持を集めている。


「必死すぎて見ていて怖いな」

 良識有る少数の議員でもある人物が眉をひそめた。


「彼らの置かれている状況を考えれば必死にならざるを得ないでしょう? 何せすべてを失う事になりかねないのですから」

 軍需産業を支持基盤に持つ議員が同調する。


「まあ、そのうち我が国も飲まれるさ。もっともアキト・ホムラは同国人だ。それを考えれば悪い話でもあるまいに」

 彼の支持基盤でもある流通大手が、すでにアキトに投資していることからの余裕だったが……。


 ある程度の人物は新たな風を感じていたとは対称に、不満だけを残している者もいた。


 テクソンモービルのCEOである。テキサスを本拠とした国際石油資本の一社で、民間資本としては最大の企業を悩ましているのはアキトのコアだった。


 談合を裏切りBPE(英国石油工業)がアキトの側に回った事で、自分の足下が崩れかけているのを感じていた。


「どんな手を使っても良い。我々がアキトのコントロールを握るか、排除する手を見つけるのだ」

 長く世界を支配して石油王と呼ばれた男は、決して表沙汰に出来ない連中に頼ることも考えている。


 まだその時では無いが……。



        ※



「これは凄いですな」

 同行するジェームスが思わず息を飲む。

 現在ソールズベリー郊外に用意された広大な敷地に、巨大魔方陣を設置している最中である。


 基礎工事で掘られた場所には、鉄筋が張り巡らされてコンクリートを流し込むだけとなっている。

 その前に魔方陣を書こうと言うのであった。


「今回は規模が大きいので、水を使おうと思います」

 アキトは水を媒介に真銀を作るつもりである。

 流し込まれた水は淡く輝き、意志を持つかのように形を作る。これで工場全体に、魔素を集める器を作るのが目的であった。


 集まった魔素は、コアを作る機械に設置された魔方陣によって魔力を込める作業を行う。今後この場所では、魔方陣の用意さえ出来れば錬金術を誰でも行う事が出来る様になる。

 同時にこれで日本でのコアの終了を意味した。アキトの魔力を注がなければ生産できない施設は、新たな魔力溜まりが日本で見つかるまで━━工場を作れる場所━━二次加工が主となるだろう。


 工事の休みを利用して行われた錬金術は、視察を名目として夕方まで続けられた。


 翌日からの工事を見ることも無く、アキトの英国滞在はこれで終わりを告げる。

 半年後に稼働するまでは日本から輸出する必要が有るために、魔力切れを起こす前に帰る必要が有ったからである。



        ※





 帰国を前にして、ソールズベリーの別邸は作戦会議の様相を示している。


「クリス様、ドレスはこちらが宜しいかと」

 メイド達が忙しく動き回っているなか、クリスの頭はアキトの事で一杯だ。

 帰国を前に、アキトの仲を進展させようと考えているからだ。


 幼少からのアキトを知っている彼女は、アドバンテージを持っている。何せ幼い頃のトラウマをしたのはクリスなのだ。


 実際アキトはクリスには逆らえない。それをクリスは都合良くとらえていた。アキトに言わせれば恐怖政治そのもののトラウマなのだが……。


 確かに愛情は強く持っている。けれどそれは幾分姉に対する思いが強いのだ。

「下着は扇情的な、それでいて清楚さも併せ持つ物を選んで頂戴!」

 俗に言う勝負下着の事であるが……。


「今夜こそはアキトを捕まえなければ」

 決意を胸に固く決心するクリスだった。

 思いはアキトに届くのであろうか?

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