提案
『取材を拒否して雲隠れの社長ですが……』
連日ワイドショーでは、アキトの話題で一杯だ。内容を見ればまるで犯罪者の様な扱いである。
だが日本の騒ぎとは他所に、欧州各国の反応は違っていた。
BBC(英国放送協会)の取材を受け入れたからである。
元々中立性をうたっているが対外国的には、英国の国益を代表してプロパガンダ的な放送を行っている。英国に設立された企業それも世界をリードする可能性があれば、好意的な内容に収まるのは当然だった。
特に世界に押されている分野。英国が失ったとされる自動車工業の再興は受け入れられた。外国資本に多数買収され、小規模な会社が現存する状況を変えようと(そう見せた)するアキトの姿勢は、不可能に挑戦する若者の情熱として受け入れられた。
「プロデュース成功ね!」
復帰したクリスと並び出演した画像は、実に微笑ましかった。またクリス自身が闘病の情報を「どうせばれるなら」と視聴者に見せた事も良かった。
「国民車ですか?」
アキトの提案にマクラレン・フィルが眉を上げた。
「ええ、エンジン型の車と違って、電気自動車は構造が簡単ですから」
話の内容は英国での供給とは別に、自動車の生産を行う地域の話だ。
「ギリシャですか……」
英国での核製造の前に、日本からの輸入で始めた自動車産業は、少しずつ進んでいた。
モーターを提供することによって、低コストで作れるために新規の参入希望も多い。だが英国資本に限定したことから、批判も出始めていた。
「最初は英国と同じ車体でも構いません。こちらでも、もともと小型車の開発が主体ですから」
現在優れた燃料コストを生かした小型車の開発が進んでいた。それをノックダウン生産で始めようと提案しているのである。
ノックダウン生産とは現地での組み立て・販売方式の事だ。
組み立て技術を学ばせて将来は独自に開発まで見越しているが、現状では大部分は英国に依存させる。バイバックなどの、単なる海外拠点を目指さない所がアキトらしい。
「ふむ、経済危機を飲み込もうと言うのですか?」
マクラレンの危惧する所は当然だろう。
「そこまで考えていませんよ」
「おや? てっきりアキト君なら、そう考えるかと思いましたが?」
「ついでに発電も行って、コストを下げれば十分な勝算はあります」
英国では触媒方式で発電所の建設が進んでいる。もっともアキト以外はコストで圧倒的とは言えないために|(現状の販売価格から)小規模な物だが。
いずれ大量生産|(ソールズベリー近郊の魔素を使った)が進めば、大規模になる可能性も在る。
「一考の価値はありますね。EUに対する我が国の姿勢を見せるチャンスかもしれません」
「政治の事は勘弁してください!」
アキトが釘を刺すがすでに手遅れだろう。
「ふふふ、遅いですよ」
だがアキトのこの提案は、後に大きく欧州に影響を及ぼす。
※
「お義父様? これで良かったかしら?」
「ちょっ! なにさりげなく呼んでるの」
賑やかなのはクリスと夏希だ。アキトの父親と現在は魔法薬の研究を行っている。
秘密を知る者が限られて居るために、手伝いとよばれたのだ。
「ははは! 何でも良いさ」
助手とは違って、華やかな雰囲気で自然と笑顔になる。その辺りはアキトの父親らしい。
研究が進む魔法薬は現在、材料に既存の漢方素材のみで進められている。強すぎる効果を恐れたためと、やはり奇抜な━━薬の原料に思えない物━━原料を省いた事からそうなった。
もちろん魔方陣を使うのは間違い無いが……。
「やはり効果は伸び無いか……」
いま取り組んでいたのは薬の効果時間についてである。
魔法薬の宿命か? 既存の薬と違って不思議な事が多かった。
まず作成から消費期限が決まっていた事。
アキトの話では異世界でも決まっていたらしい。魔法で作っていたために、魔法が切れると効果が失われるのだ。
その期限が、一二時間で半減し二四時間経つと効果が失われた。
また体の持つ生命力━━アキトはそう言った━━に依存するため、使用量が年齢で違ってくる。
具体的には若いほど効果が出る。
一五歳までを一とすると、年齢が上がる程使用量が増えるのだ。これは異世界でも力の強い人や高齢者などに共通する事で、その際は魔法を併用していたらしい。
現在は魔法など使える医者はいないために、薬剤の分量を増やすしか手は無いのだ。
そこでいろいろ試しているのだが改善はされていない。
「漢方材料で再現は出来たが、効果は落ちるな」
改良を進めるうちに万能薬の効果は薄れ、現状ガンの治療薬に収まったのは不幸中の幸いか? 強すぎる薬は毒━━アキトを苦しめる━━にしかならないからだ。
こうして世に出る事に成った薬の使用量に触れると。
一五歳を一として見ると、二〇歳で約二倍。
そこから一〇歳ごとに増え続けるが、驚くことに五〇歳を越えると使用量が激増した。
五〇歳で一六倍が、一歳増えることに倍になるのだ。臨床治療で判明したこの事により、魔法薬は若年性のガン治療薬として世に出される。
もちろんこれも問題となっていくのだが、アキトたちはまだ知らない。