練金魔術師アキト
今回は短いです……すみません。
アキトは魔法薬作成の前に準備を行っていた。
これは錬金術師なら誰もが使う技法である。
銅板に真銀で魔方陣を刻むのだ。
アキトが行う錬金術は、魔力を行使して物体を変質させていく魔術と言って良い。
たとえば、銀に魔力を溜めると真銀に変わった。魔力には金属を変質させて特性をもたらす事が出来たからだ。
ミスリルと呼ばれるこの物質は魔術との相性が優れていて、アキトの作った触媒でも、もちろん使われていた。
普段魔術師が魔法を行使する場合、意味ある音や形で魔素を使って世界に干渉する。
どちらも同じ物で音は呪文、触媒は魔方陣を形にしたものだった。
だから真似た物でも魔素が存在すれば、多少の効果は現れた。研究者が後追い実験で、反応を確認出来たのもこれが理由であった。
なぜならこの世界には魔素が存在したのだから。
特にソールズベリー近郊は魔素に溢れていた。
「この地で助かった」
アキトが集められた素材を眺めながらつぶやく。すべてが揃ったわけでは無いが、とりあえずの作業は進められそうだ。
最初に手を付けたのは、魔素を集めるための器作りだった。
魔力とは、魔素を変質した物だったからである。世界にある魔素を集めて魔力に変える。
世界には魔力溜まりと言う場所が存在している。ミステリーサークルが良い例だろう。あれは魔素の吹き出しによって作られた。人為的な物とされていたが、無意味ないたずらなどでは無い。
実はストーンヘンジも同じ理屈で作られた器の一つ、魔力溜まりで魔術を使う目的で作られた。人為的か自然に出来たかの違いだが、濃い魔素が溜まる場所で間違い無い。
この事から魔術師が存在した事が分かるだろう。
過去歴史に埋もれていった中には、魔術を使える人たちが存在したのだ。
理解出来ない事を悪とされた時代、宗教的な事情で表の世界から消されたが魔術師は存在していた。
ソールズベリー近郊は魔素の多い地域だが、実は日本でも良く見かけられる場所に有ったりする。
多くは神域や古墳に使われている事から、誰かは理解していたことがよく分かるだろう。
前世で魔術師は、魔素の事を生命力の一つだと思っていた。世界を作る素とも考えていた。
アキトが魔法を使うときも、体内の魔力と世界に漂う魔素を合わせて使っている。豊富な魔素が漂う、魔力溜まりを使え無ければ今回は苦労しただろう。
体内魔力は手軽に使える反面限界があったからである。
水晶を手に取る。不純物の無い透明な物だ。
一つ一つ魔力を込めると、驚いた事に粘土の様に形を変えることが出来た。
体内の魔力を少しずつ流すと、アキトは何かを吸い取られるように感じて来た。
吹き出た汗を拭いながら、疲れては来たがクリスの事を思って、今夜は限界まで続けようと思った。
※
魔法薬の工程は数百にも上る。これは素材のせいであった。
まず使える素材に変える工程がいるのだ。
アキトはこれを簡略化するために、銅板に真銀で魔方陣を書く。工業化の理念を取り入れたのだ。
この上に水晶で出来た器を載せると、魔素を取り込み魔法を起動させた。後はそれを順番どうりに繰り返せば良い。
現在は手作業で載せているが、機械化すればアキトが居なくても作れる。
「うん、上手く行ってる」
アキトは満足そうにうなずくと、記憶の中のレシピが埋まるように素材を並べていく。青い光が輝く度にそれは揃って行った。
※
そのころ日本では……。
「排除は完了しました」
良くある町中の貸しビル。ごく有り触れた外資系の商社と言った所に見えるが、働く人員はすべてCIAに雇われていた。
「ご苦労。引き続き監視してくれ」
答えているのはアメリカ本国から送られてきた東洋系の男である。
「中国、ロシアに続いて今回は韓国ですね? もっとも企業の雇った産業スパイ辺りなのか、手間が掛からなくて助かりましたけど」
見た目は普通のどこにでも居るような中年のオヤジだが、会話は普通では無かった。
カウンターテロまで対処できる一級のエージェントは、何時ものように小さな町工場の監視に入る。
彼らはアキトの工場を監視していた。本国からの指令は刺激をしない監視と調査が最優先で、邪魔をする者の排除も許可されていた。
「しかし……日本の企業を俺達アメリカ人が守る必要が有るんですかね?」
モニターを覗きながら同僚にぼやく。
「さあ、本国が何を考えているか知らないが、命令には従うだけさ」
「まー、何でも良いんですけどね。そういえば、相手はアメリカ国籍も持ってるからおかしく無いんですよね?」
「そうだな、ステーツで生まれたって聞いたな」
「でも……。この間の連中はCIAの奴だったじゃ無いですか? なんで身内でドンパチやってるんです?」
「ははは! そりゃ、上に聞いてくれ。まー命令の出所が違えば任務も違うさ。おっと! また誰か来たな! ナンバーを照会しろ! 偽造だとは思うがな! がははは!」
こうしてアキトが守られているのを、もちろん本人達は知らなかった。
週末は待望のGWだ!