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錬金経営術  作者: 鉄JIN
第一章
10/30

ソールズベリーの眠り姫

 アキトは静かに寝息を立てる夏希を見て、帰った後が大変だなと思った。

 無事に英国に渡ることが出来たが、もちろんただで済ませてくれるような連中では無かったからだ。


「うぅううう……今日こそくじ運の無さを恨んだことは無いわ!」

 沙月が恨めしそうに口を開けば、美枝は「何で私はスペイン語なんて取ったのかしら?」などと意味不明の会話が続く。

 そう! 彼女たちは居残りに決まった。


「よっしゃぁああ!」

 甲高い叫び声を上げているのは早苗。普段の色気も無いものだが、勝ち取ったのは事実である。


 結局話し合いは付かず、全社員を巻き込んでの大じゃんけん大会が開催された。出入りの業者(マットのリースや清掃会社)も参加していたのは意味不明だが、アキトはそれに触れず静観を貫いていた。


 下手につつくとやぶ蛇で、どんな不幸が舞い込むか分からないからである。


 出発までの数日間は針のむしろだった。普段の「アキトくん」から「社長……」と美枝に呼ばれたことでアキトの苦労が偲ばれると言うものだ。


 とりあえずは土産を約束して出て来たが「ブランド以外認めないからね!」との声は無視出来る物では無いだろう。


 現在はロンドンから西に二百キロ離れた、ソールズベリーに移動している途中だ。同行している夏希も早苗も、旅の疲れかぐっすりと寝ていた。


 ソールズベリーは、かの有名なストーンヘンジの近くの町で観光で有名だ。


 もちろんアキトは観光が目的では無い。ここで有る人物に会うと共に、最大の問題点を解決するつもりがある。


 古い石畳を踏みながら、歴史を感じさせるホテルが見えてきた。

 ソールズベリーの郊外にあるホテルは、静かな環境を約束している。


「わあ! ステキなホテルね」

 夏希と早苗の目が輝く。

 もっとも観光に来たのでは無いが……。





        ※




 夜のとばりが更ける頃。


「まあ! 久しぶりね」

 宿を訪ねてきたのは、古い家柄で現在も爵位を持つアイラだった。

 代々を女性が受け継ぐウインストーン家は、現在でも経済界にさまざまな影響を持つ。


「うわっ! でかっ!」

 夏希が驚くのも無理は無い。大きいのだ! 上品に仕立て上げられたドレスの胸元を押し上げていたのは「Gいや……Iカップ?!」夏希が絶句する。


「いやん! 大きくなったのね? もうっ! 全然顔を見せないんだから」

 嬉しそうにアキトを抱き寄せ頬にキスすると、九〇センチは軽く越えた頂で挟み込む。



「ごめんなさい……。それと、そろそろ離して……」

 アキトが苦しげに声を出した。心なしか耳まで赤い。

 美しい金髪を持つアイラは名残惜しそうに「あら? ごめんなさい。でもまだ足りないわ! 後でもっと甘えてね」気品ある女当主だが、ちょっと天然であるようだ。


 実は幼い頃のアキトだが、彼女の元で暮らしていた時期があった。

 父親がアイラの出資していた財団で勤めていた時期に、ほぼ毎日をアイラとその娘と過ごしていたのだ。


「きっと来ると思っていたわ。と言うか、遅すぎよ! 絶対に頼って来ると思ってたのに!」

 笑いながら離すアイラだった。

 石油事業にも多大な投資を行う彼女は、確かに接点は多い。


「ところで? 姉さんは来なかったんですか?」

 幼い記憶でも鮮明に残る少女を思い出してアキトは尋ねた。

 何かと言えばアキトの世話を焼きたがる年上の少女。

 美しい姉がこの場にいないのはおかしい。何が有っても飛んで来そうだったが……。


「それは……」

 アイラの表情が曇る。

「会って貰えるかしら?」

 唇を噛みしめ、何かを決断した様なアイラだった。





        ※





 ベッドに横たわるクリスティアナは眠っている。静かな寝息は束の間の幸せだろう。

 驚くほど痩せてやつれているのに美しい。


「こんなことって……」

 幼い頃に遊び回った部屋は、病室に変わっていた。

 目を瞑れば鮮明に思い出せる記憶。クリスと毎日の様に誰かにいたずらを仕掛け、それがばれる度に自分が被害を被ったのだ。


「クリス姉さん……」

 思いでの中の少女は、昔の面影を残したまま綺麗になっていた。

 眠っているクリスの手を握り締めて呼びかける。



 末期ガンと診断されたのは最近だと言う。手の施しようが無いのだと……。


「知らせないでと……。」

 そういう人だったとアキトは思った。何時も自分を気に掛けて、大切にしてくれていたのだ。きっと心配を掛けたく無かったのだろう。


「痛みが酷くて……薬で眠っているのよ」

 アイラの言葉に胸を突き刺される。英国から離れて今まで、忘れていたわけでは無いが会いにも来なかった。


「遅くなってゴメン……」


 昔約束をした。何時か必ず戻って来ると。アキトが英国の地に事業を開くのも、それが理由の一つだった。


 アキトは思う。何か手は無いのか? 練金術師の自分は神官では無い。病気を治す治癒魔法は使えなかった。 でも……。


「僕が……」

 転生の記憶を探る。何か手は有るはずだと……。


「絶対に助ける」



 アキトは誓った。

次回予告! アキトは決断する。

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