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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
第二章:少年の探索者編

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第126話:暴食の爪痕、姉が遺したバグ

第三層・紫煙の腐海。

本来ならば探索者の肺を焼き爛れさせる猛毒の瘴気も、拓也の『深層言語・限定解析』による環境ハッキングと、神宮寺、瀬戸の完璧な魔力展開によって完全に無効化されていた。

「オラァッ!!」

風間蓮の長槍が閃光となって泥沼を薙ぎ払い、アンデッドの群れを一瞬にして光の粒子へと変える。

「これで第五波、完全に沈黙しました。……拓也殿の予測通り、敵の出現位置も数も、すべて計算の範疇です」

瀬戸玲奈が杖を下ろし、小さく息をつく。

彼らの足取りは、極めて順調だった。

未知の環境、未知の生態系。過去のデータが一切通用しないはずの周期変動シフト後の迷宮であっても、拓也という絶対的な『調律者』の頭脳があれば、すべては後出しジャンケンのように容易く蹂躙できた。

「だが、どうにも引っかかるな」

先頭を歩く神宮寺蒼太が、大盾を構えたまま周囲の腐海を鋭く見回した。

「第二層のボスがマッド・トレントからルイン・センチネルへと再構築されていたように、迷宮は環境を変える際、必ず『理路整然とした新しい生態系』を構築する。……だが、この階層はどうだ。ただ猛毒を垂れ流し、腐り果てた死骸が湧き出ているだけ。まるで、迷宮そのものが病を患っているかのようだ」

「俺もそう思っていました」

拓也は短剣の柄を握り締め、腐海の最も奥深く――瘴気が渦を巻いて極端に濃くなっている中心部を見据えた。

「この腐海、システムとしての『美しさ』が全くないんです。第二層までの魔獣やギミックは、人を殺すための悪意に満ちてはいましたが、そこには確かな法則コードがありました。でも、ここは違う。ただ無秩序に、エラーを吐き出し続けているような……」

拓也の脳内で常時起動している解析スキルが、空間の魔力波形を読み解き続ける。

そのノイズ混じりの不快なコードの束を追って、四人はついに第三層の最奥――本来ならば『階層のボス』が鎮座しているはずの広間へと到達した。

しかし。

広間に足を踏み入れた彼らの前に現れたのは、巨大な魔獣でも、強大なボスでもなかった。

「……なんだ、ありゃあ」

風間が、眉をひそめて呻いた。

広間の中央。

空間そのものがガラスのようにひび割れ、巨大な『黒い亀裂』が虚空に口を開けていたのだ。

その亀裂の奥から、ドス黒い紫色の瘴気が滝のようにとめどなく溢れ出し、第三層全体を腐海へと変える毒の供給源となっている。

そして、亀裂の周囲には、形すら保てていないスライム状の腐肉のバグが、無数に蠢いていた。

「ボスが存在しない……? いや、空間そのものが崩壊しているのか?」

神宮寺が盾を構え、警戒レベルを最大に引き上げる。

拓也は、その異常な光景を前にして、目を細めた。

自らの魂に刻まれた天稟、『深層言語・限定解析』の深度を極限まで引き下げる。

脳髄が焼き切れるような熱を帯びるが、構わず迷宮のシステムの最深部(深層言語の海)へと潜り込んだ。

(どうして空間が割れている? 迷宮の周期変動なら、古い環境を消去して、新しいボスと環境を上書きするはずだ。なのに、ここは上書きの途中でプロセスが強制終了している。……なぜ、再構築のシステムが機能していない?)

青い光のコードが、滝のように拓也の視界を流れていく。

そして、空間の亀裂の奥底に隠された、システム崩壊の『原因』となるログに触れた瞬間。

拓也は、息を呑んで硬直した。

「……嘘、だろ」

「どうした、拓也殿! 何が見えた!」

神宮寺の鋭い声が飛ぶ。

「……この階層が、水晶の迷宮からこんな腐海に変貌した理由。それは、迷宮の自然な周期変動なんかじゃありませんでした」

拓也は、震える指先で、虚空に開いた黒い亀裂を指差した。

「あの亀裂の形。……迷宮のシステムを司る根幹のコードが、ごっそりと『欠落』しているんです。だから、迷宮は新しい環境を再構築できず、エラーとして猛毒を垂れ流し続けるバグ空間を生み出してしまった」

「コードが欠落しているだと? 誰がそんな真似を……」

神宮寺の問いに、拓也はギリッと奥歯を噛み締めた。

視界に映るシステムの欠損。その形は、まるで巨大な獣がコードを噛み千切ったかのような、暴力的な『歯型』の形をしていた。

そして、その欠落部分に微かにこびりついている、見覚えのある魔力の波長。

昨日、ポータルを解析した際に見たものと全く同じ、姉・三月の魔力残滓だった。

「……姉ちゃん、です」

「なっ……!?」

風間と瀬戸が同時に声を上げた。

「姉ちゃんが、過去にこの階層を訪れた時……おそらく、この階層の環境を管理・浄化していた本来のシステム(あるいは当時のボス)を、魔石ごと……文字通り『喰い尽くして』しまったんです」

静寂が、毒の渦巻く広間を支配した。

『魂喰い(ソウルイーター)』。三月が持つ、魔獣の命を魂ごと喰らい尽くすという理外の能力。

「バカな……。魔獣を討伐するのとは次元が違う。迷宮のシステムそのものを捕食したというのか!? だから、迷宮は修復に必要な部品を失い、こんなバグのような空間を形成するしかなかったと……!」

神宮寺が、信じられないというように顔を歪めた。

三十五層という人類未踏の絶望で戦っていた事実だけでも狂気的だった。

だが、それだけではない。彼女が歩んだ道は、迷宮にとってすら修復不可能な『消えない傷跡』として刻み込まれているのだ。

迷宮が理不尽に凶悪化し、環境が崩壊している一因。それは、天才である姉のデタラメすぎる暴食の果てだった。

「……ハハッ、マジでバケモノじゃねえか、お前の姉貴は。ダンジョンのルールを無視するどころか、システムごと食い散らかしてバグらせるとはな」

風間が、引き攣った笑いを漏らす。

拓也は俯き、激しい眩暈を覚えていた。

姉の背中を追うと決めた。だが、その姉が残した足跡は、世界の理すらも破壊し尽くす、あまりにも身勝手で、あまりにも強大すぎる爪痕だった。

(姉ちゃんは、俺なんかがいくら理屈を捏ねたところで届かない、本当の『怪物』だったんだ……)

圧倒的な事実を前に、凡人である拓也の心が一瞬だけ折れかける。

だが、その時。

ギィジャァァァァァァァッ!!!

空間の亀裂から溢れ出たバグの塊――スライム状の腐肉たちが、侵入者を排除しようと一斉に触手を伸ばして襲いかかってきた。

「ッ! 来るぞ、構えろ!」

神宮寺が大盾を前に出し、防壁を展開する。

風間が槍を振るい、瀬戸が浄化の光を放つ。プロたちの高度な技術が、バグの群れを次々と粉砕していく。

「坊主! 姉貴がどれほどのバケモノだろうが、今この瞬間、俺たちに指示を出せるのはお前だけだ! 立ち止まってんじゃねえ!!」

風間の怒号が、拓也の鼓膜を打った。

その声で、拓也はハッと顔を上げた。

そうだ。姉がどれほどデタラメな破壊を世界にもたらしていたとしても、自分がここで立ち止まる理由にはならない。

(姉ちゃんがシステムを壊して、迷宮をバグらせたんなら……弟である俺が、その『後始末』をして進むだけだ!)

拓也の瞳に、再び冷徹な『解析』の青い光が灯る。

絶望を執念へと変換し、少年の脳髄はフル回転を始めた。

「風間さん、神宮寺さん! あの腐肉の塊はただの防衛プログラムです、いくら倒しても亀裂がある限り無限に湧き続けます!」

拓也は短剣を抜き放ち、声を張り上げた。

「俺が直接、あの亀裂エラーコードの根幹に触れて、迷宮のシステムを一時的に繋ぎ直し、正常な『再起動』を強制的に促します! それまでの数十秒間、俺を亀裂の前まで連れて行って、死守してください!」

「迷宮のシステムを、自力でデバッグする気か!? 正気の沙汰じゃないぞ!」

神宮寺が驚愕する。

「やれます! 姉ちゃんが壊したんなら、俺が直す! ……道を開けてください!!」

「……ハッ、上等だ! 最高の盾と矛で、お前のそのイカれた頭脳を特等席まで運んでやるよ!」

風間が猛然と地を蹴り、無数の腐肉の触手を螺旋の突きで粉砕しながら突破口を開く。

「『プロテクション・マキシマム』! 拓也殿、私の背中から離れるな!」

神宮寺が絶対の防壁を展開し、風間がこじ開けた道を戦車のように突き進む。

瀬戸の支援魔法が拓也の身体を極限まで軽くし、彼を亀裂の眼の真ん前へと送り届けた。

「行けぇっ、拓也殿!!」

神宮寺たちが左右から迫るバグの群れを全力で押し留める中、拓也は黒く渦巻く空間の亀裂へと真っ直ぐに手を伸ばした。

(読める……! 姉ちゃんが喰いちぎったコードの断面。迷宮が必死に繋ごうとして、足りなくてエラーを吐いている部分。……なら、俺の魔力でその『架け橋』を作って、システムの自己修復機能を騙してやる!)

拓也の右手が亀裂に触れた瞬間、脳内に莫大な情報量が流れ込み、意識が白濁しそうになる。

だが、凡人の執念がそれをねじ伏せる。

自身の魔力を『深層言語』のコードへと変換し、欠落した部分をパズルのように高速で補っていく。

強制再起動リブート……ッ!!」

拓也の叫びとともに、亀裂の奥から眩いほどの浄化の光が溢れ出した。

システムが『修復された』と誤認した迷宮が、バグ空間である腐海を一気に消去し始めたのだ。

紫色の瘴気が晴れ、無限に湧き出ていた腐肉の塊が、光に焼かれてボロボロと崩れ落ちていく。

空間の亀裂がシュルシュルと縮小し、やがて完全に閉じて消滅した。

広間に残されたのは、浄化された澄んだ空気と、エラーの核となっていた巨大な純白の魔石だけだった。

「……ハァ、ハァ……ッ」

拓也は膝をつき、荒い息を吐きながら床に倒れ込みそうになったところを、神宮寺の腕に支えられた。

「見事だ、拓也殿。……迷宮のシステムそのものを修復するとは。君もまた、お姉様とは違う意味で、規格外の怪物だよ」

神宮寺が、心からの賛辞を贈る。

風間も槍を収め、呆れたように笑いながら魔石を拾い上げた。

「破壊する姉に、直して進む弟か。……こりゃあ、三十五層に辿り着く頃には、このダンジョンがお前ら姉弟の手で完全に制圧されちまうかもしれねえな」

拓也は、瀬戸の回復魔法を受けながら、ゆっくりと立ち上がった。

三十五層の絶望。

そして、姉が世界に遺した狂気的な爪痕。

その全てを目の当たりにし、それでもなお、拓也の瞳は決して折れることなく、さらなる深淵へと向けられていた。

「……行きましょう。姉ちゃんが残したバグがまだあるなら、俺が全部直して、その先へ進みます」

天才の姉が暴食の果てに壊した世界を、凡人の弟が知恵と執念で修復しながら進む。

それは、最強のプロたちを率いる『深淵の調律者』としての、全く新しい迷宮攻略の幕開けだった。

第126話をお読みいただきありがとうございました!

第三層の理不尽な環境変化の正体。それは迷宮の自然現象などではなく、姉・三月が『魂喰い』でシステムごと喰い尽くしてしまったことによる「バグ」でした。

天才の姉が遺したデタラメな破壊の爪痕に戦慄しながらも、絶望するのではなく「弟として後始末をして進む」と覚悟を決めた拓也。

システムそのものをデバッグして突き進む少年の無双劇は、ここからさらに熱を帯びていきます!

もし「予想外だった!」「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部から**【評価やブックマーク】**での応援をよろしくお願いいたします!皆様の応援が、最高の執筆の原動力になります!

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