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第九話

朝九時頃。

 館山城の廊下を、河野がもの凄い勢いで駆けていた。

「ハァ、ハァ……経丸さん、経丸さん‼」

そのまま勢いよく襖を――

バッ‼

と開け放つ。

「ハァ、ハァ……経丸さん。不審者を捕まえました‼」

経丸は少し驚き、片倉も目を丸くする。  

士郎はビビり散らかし、数秒遅れて叫んだ。

「河野‼ 経丸さん女性だぞ! 女性の部屋を許可なくいきなり開けちゃダメだろ‼」

「すみません」

経丸は優しい声で微笑む。

「いいんですよ、士郎さん。河野さん、急ぎの用事だったんですから」

「急ぎでも、経丸さんが着替えてたらどうするんですか?」

経丸は河野に向き直る。

「その時はすぐ閉めてくれますよね?」

「はい、もちろん。その時はすぐ閉めますよ」

「いや、すぐ閉めるとかそういう問題じゃないんだよ‼」

経丸は士郎の肩をポンと叩いた。

「士郎さん、気にしすぎですよ」

「そうです、士郎さん気にしすぎ」

「お前が言うんじゃねぇ‼」

士郎は河野の首を絞めた。

◆不審者の正体

片倉が尋ねる。

「ところで河野君が捕まえた不審者は?」

河野は胸を張って言った。

「表の木に縛り付けております」

一同で外へ向かうと――  黒髪ショートの小顔の少女が木に縛られていた。

少女は士郎を見るなり、

「おっ、兄貴」

「凛‼」

士郎は慌てて駆け寄り、縄をほどいた。

「大丈夫か! 怪我はないか‼」

凛は少し笑いながら、

「大丈夫、怪我してないよ」

河野は困惑して言った。

「士郎さん、何で不審者の縄をほどいちゃうんですか?」

「河野‼ てめぇ‼」

士郎は河野に馬乗りになった。

「よくも、それがしの大事な妹を縛り付けやがって‼」

「えっ、えっ? 士郎さんの妹さんなんですか?」

「そうだよ‼ 外岡凛だよ‼」

凛は士郎を引きはがし、

「やめなさい」

「だってこいつ、お前を木に縛ったんだぞ‼」

「不審者と思っちゃったんだから仕方ないでしょ」

「仕方なくないだろ‼」

凛は河野に頭を下げた。

「兄がいきなりすみません」

河野も頭を下げる。

「不審者と間違えて縛り付けてすみません。お兄さんにはいつもやられてます」

「“いつもやられてます”じゃねぇ‼」

凛は兄を一瞥し、

「兄貴、うるさい」

士郎は黙った。

◆凛、初対面で河野を評価する

「お騒がせしてすみません。私、外岡士郎の妹、外岡凛です」

河野は驚きながら凛を見つめた。

「めちゃくちゃ可愛い……本当に士郎さんの妹?」

士郎は得意げに胸を張る。

「だろぉ〜可愛いだろ」

「士郎さんと違ってめちゃくちゃ可愛いですね」

「“違って”ってどういう意味だよ‼」

「さすがにめちゃくちゃ可愛いんで、士郎さんの妹ではないですね」

「お前……言葉選べ‼  “士郎さんはブサイク”って言われてる気分になるから‼」

「士郎さんはブサイクじゃないです。  “面白い顔”してますよ」

「それも嬉しくねぇよ‼」

片倉は腹を抱えて笑っていた。

◆士郎、さらに追い打ちを受ける

河野が真顔で言う。

「えっ? 士郎さん、何か自信あるものあったんですか?」

片倉は爆笑した。

「どういう意味だ‼ バカにしてんのか‼」

「違います‼ 純粋な疑問です」

「お前ぶっ飛ばす‼」

「なんで? ねぇ、なんで? ギャー‼」

◆凛の“恥ずかしい理由”

士郎は凛に尋ねた。

「凛はなんで名前名乗らなかったんだ?  それがしの妹って言わなかったんだ?」

片倉が笑いながら言う。

「そんなの恥ずかしくて言えないよね」

「何も恥ずかしくないわ‼」

士郎は片倉の頭を叩いた。

◆河野の“誤解”の理由

河野が真剣に説明する。

「凛ちゃんに“外岡士郎いますか”って聞かれて……  そんな奴この城にはいないと思って、怪しいから縛り付けたんです」

「それがしの名前は‼」

「士郎さん」

「それがし、外岡士郎って言うんだ‼」

「士郎さん、名字“外岡”だったんですね。皆“士郎さん”って呼ぶから名字わからなかったです」

「だとしても‼ “外岡士郎いますか”で“そんな奴いません”はおかしいだろ‼」

「だって士郎なんて日ノ本中うじゃうじゃいる名前じゃないですか」

「人の名前を“うじゃうじゃ”って言うな‼ 日ノ本中の士郎に謝れ‼」

河野は素直に頭を下げた。

「日ノ本中の士郎さん、すみません」

◆名札の存在

片倉が言う。

「名字と名前が書いてある名札を付けて歩かない士郎君が悪いね」

「片倉さん‼  これ見て‼」

士郎は自分の甲冑を指さした。

胸には――

『外岡士郎(安房国)』

とデカデカと縫い付けられていた。

片倉は吹き出した。

「あっ、ホントだ!  河野君、次からここ見ようね」

「はい! わかりました‼ 外岡士郎さんの名前、今覚えました‼」

士郎以外、全員が拍手した。

「なんで皆、河野に優しすぎだろ‼」

◆凛が語る“縛られた時の河野”

「待て、凛は今日会ったばかりで河野のことそんなわからないだろ」

「いや、わかるよ」

「へ?」

「だって私のこと縛る時――」

◆【回想】河野、優しすぎる縛り方

「すみません。  ちょっとあなたは今、不審者って扱いになってしまうんですけど……  木にお縛りしてよろしいでしょうか?」

「えっ? 私、縛られるんですか?」

「すみません。縛ります」

「縛るんでしたら、経丸さんとか呼んで来てもらえませんか?  誤解が解けると思うので」

「はい‼ わかりました‼  早急に呼んで参ります‼」

河野の大声に凛は少し驚いた。

河野は縄を巻きながら、

「痛くないですか?」

「大丈夫ですよ」

「痒いとこありますか?」

凛は思わず笑った。

「あったら掻いてくださるんですか?」

「はい、もちろん」

「まぁ、ないんですけど」

「よかったです。じゃあ僕は経丸さんを呼んで来ますね‼」

「はい」

河野は全力疾走で城へ走っていった。

◆【回想終わり】

凛は微笑んで言った。

「優しい子だよ、河野君」

士郎は頭を抱えた。

「優しい以前に……不審者の縛り方じゃねぇ‼」

片倉は笑い転げ、経丸はほっこり微笑んでいた。



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