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第六話

都賀軍が総崩れとなり、戦場は勝利の空気に包まれ始めていた。

だが―― その中で、ただ一人だけ状況を理解していない男がいた。

「死ぬー‼ 死ぬってばー‼  もうやめてくれー‼ 頼むからやめてくれぇぇ‼」

士郎はわけもわからず、無我夢中で槍を振り回していた。  敵影はもうどこにもないのに、彼の中ではまだ戦が続いているらしい。

その様子を見て、経丸と片倉は思わず笑ってしまった。

「若、どうします? このままほっときますか?」

「やめてくれー‼ 死ぬー‼ 死んじゃうってばー‼」

経丸は苦笑しながら言った。

「いや、流石に可哀想です。でも……凄い体力ですよね」

「死ぬよー‼ もうやめてくれー‼  気持ちー‼ 気持ちー‼」

片倉も感心したように頷く。

「そうですね。ホントに凄い体力だと思います」

「もう! 勘弁してくれー‼  負けを認めてくれー‼ 死ぬー‼」

経丸は淡々とした口調で呟いた。

「……士郎さんは今、誰と戦っているんでしょうか?」

「死ぬよー‼ 辛いよー‼」

片倉は吹き出した。

「若、それ淡々と言うのズルいですよ!  笑っちゃいますよ!」

二人は大笑いした。

「そろそろ止めてあげましょう」

「死ぬー‼ 助けてくれー‼」

「そうですね」

片倉は士郎に近づき、大声で呼びかけた。

「士郎君! 戦は終わったよ‼ 勝ったよ‼」

しかし士郎には届かない。

「死んじゃうー‼ もう辛いって‼」

片倉は士郎の顔を見て、原因に気づいた。

「あぁ……汗や血が目に流れ込んでて、目が開けられないんだ」

片倉は長槍を振りかぶり、ゴンッ‼  と士郎の頭に軽く叩きつけた。

士郎はその場で倒れた。

「片倉さん‼……」

経丸が驚くが、片倉は士郎をおんぶしながら言った。

「大丈夫です。軽く気絶させただけなので」

「そっ、そうですよね」

三人はそのまま館山城へ帰っていった。

◆館山城――勝利の報告

畳の上で寝かされていた士郎は、突然ガバッと起き上がった。

「戦は‼ 戦は‼」

経丸が優しい声で問いかける。

「士郎さん、体調は大丈夫ですか?」

「戦は‼ 戦は‼」

経丸は笑顔で答えた。

「おかげさまで勝ちましたよ」

士郎はぽかんとした。

「えっ……勝った……?」

「はい、勝ちました」

士郎は目をまん丸くし、次の瞬間――

「勝った‼ 勝った‼ 勝ったぁぁ‼」

片倉が笑いながら言う。

「若が都賀を討ち取ったんだよ‼」

「すげぇ‼ めっちゃすげぇ‼  さすが経丸様‼」

「ありがとうございます」

士郎は突然泣き出した。

「よかったぁぁ……ホントによかったぁ……  経丸さん……ホントによかったぁ……」

経丸は優しく微笑む。

「そんな、泣かないでくださいよ。士郎さんが泣くと、こっちまで泣いちゃいます」

片倉も涙をこぼし始めた。

「ダメだ……俺も泣いちゃうわ……」

三人は大泣きしながら抱き合った。

◆士郎の疑問と、三人の大笑い

士郎は涙を拭いながら聞いた。

「それがし……ちゃんと戦えてましたか?」

経丸は優しく頷いた。

「戦ってくださってましたよ。しっかり戦ってました」

片倉は泣きながら言った。

「誰と戦っていたのかは不明だが」

経丸は吹き出し、片倉の脇腹を肘で小突いた。

片倉も笑い出し、士郎は理由がわからないまま釣られて笑った。

三人の笑い声は、館山城中に響き渡った。

◆祝勝会――高じぃと片倉の飲み比べ

皆でばぁやんの炊き出しを食べていると、高じぃが上機嫌で士郎の隣に座った。

「おい、しろちゃん。飲もうぜ」

「はい、飲みましょう」

「高じぃ、今日はありがとうございました。  高じぃの強さには本当に驚きました」

高じぃは士郎の肩に腕を回し、得意げに言った。

「ちょっと本気出せばあんなもんよ」

「もう三十年若ければ、片倉さんと同じくらい強かったんだけどなぁ」

士郎は笑った。

「それは盛りすぎ。せいぜいそれがしくらい」

「おい、しろちゃん。だいぶ酔ってるな。水飲め! 水!」

「まだ一滴も飲んでないわ‼」

二人は笑い合った。

そこへ経丸が来て、丁寧に頭を下げた。

「おかげさまで勝てました。ありがとうございました」

高じぃは顔を赤くしながら言った。

「こんなべっぴんさんに礼言われるなんて、命張ったかいがあったわ‼  今日は最高の夜だ‼一緒に飲もうよ、経丸さん」

「はい、ぜひ」

士郎が慌てて言う。

「経丸さん、この人底なしだから、まともに相手しちゃダメですよ」

「士郎さん、お気遣いありがとう。ゆっくり飲みますよ」

「そうだ、ゆっくり無理せず飲もうぜ。今日は二十五時間あるんだからな」

「高じぃは飲む量を減らしなさい。もう七十超えてるんだから」

「量を減らす? バカ言っちゃいかんよ。  酒が飲めなくなったら俺は終わりよ。  片倉さん、あんた強そうだから飲み比べしよ」

片倉はニコニコしながら茶碗を持ち上げた。

「いいですよ。僕は手加減しませんよ」

そして二人は飲み比べを始め――  片倉はケロッとしていたが、高じぃは酔い潰れて寝てしまった。

士郎は、戦に勝って皆で飲む酒が最高に楽しかった。

◆翌朝――士郎の誓い

翌日。  

士郎は経丸の部屋を訪れた。

「失礼します」

経丸は机から離れ、士郎の前で正座した。

「どうしたんですか? 士郎さん。真剣な顔して」

士郎も正座し、深く頭を下げた。

「経丸さん」

「はい」

「これからは外岡士郎、臆病風に吹かれることなく、誠心誠意、経丸様と共に戦い、 経丸様と共に安房の国を守っていきとうございます」

経丸は優しい笑顔で頷いた。

「ありがとうございます。凄く、頼りにしてますよ」

「経丸さん……」

士郎は思わず涙を流した。

経丸は手拭いを差し出し、優しく言った。

「泣かないでください。これからが大変なんですからね」

「そうですね……それがし、頑張ります‼」

こうして――  戦乱の渦を生き抜く天羽家の物語は、ここから本格的に始まった。



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