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第五話

◆【回想】士郎、都賀領の闇へ

士郎は都賀領内の、治安の悪い町外れに足を踏み入れていた。  薄暗い路地の先、肩で風を切って歩く十数人の不良たちが見える。

(それがしは……どんな汚い手を使ってでも、経丸様をお守りすると決めたんだ‼) (気持ちー‼ 気持ちー‼)

鼓動が速くなる。  

士郎は覚悟を決め、不良たちの前へ飛び出した。

「それがし、安房の国の外岡士郎と申します!  あなた方にお聞きしたいことがありまして!」

「はぁ⁉ なんだてめぇ?」

男の一人が睨みつける。  

士郎は内心ガタガタに怯えながらも、必死に声を張った。

「す、すみません! すぐ終わりますので……ご協力をお願いしたく!」

次の瞬間、胸倉を掴まれた。

「俺たちに協力しろだと? 舐めてんのか、コラァ‼」

士郎は泣きそうな声で叫ぶ。

「もちろん、ただではとは言いません!  一人四百文(約四万八千円)、先にお渡ししますので……どうか……話だけでも……!」

「四百文⁉ はぁ、冗談抜かせよ!」

「いえ、四百文です。……どうぞ」

震える手で銭袋を差し出すと、男たちは目を見開いた。

「マジか……こいつ、本当に渡してきやがった……」

親分格の男が士郎を見据える。

「お前……何者だ?」

士郎は胸を張り、堂々と名乗った。

「安房の国が誇る英雄、人呼んで人気者の外岡士郎! ちなみに妹は天才・外岡凛です‼」

「てめぇ……ふざけんな!」

刃が首元に当てられた瞬間――  士郎は恐怖に支配され、勢いよく失禁した。

「うわっ、きたねえ!」

「漏らしやがったぞ!」

ざわつく中、親分はふっと笑った。

「……ごめん、俺が間違ってた。お前、おもろいわ」

「ほ、本当ですか……?」

親分は穏やかな声で訊いた。

「で、俺たちに何を聞きたい?」

士郎は突然叫んだ。

「気持ちー‼ 気持ちー‼」

「な、なんだこいつ……」

「す、すみません……自分を奮い立たせないと喋れないんです……」

「あー、そういう奴な。で?」

士郎は深呼吸し、落ち着いた声で話し始めた。

「あなた方は都賀に雇われていると聞きましたが……忠誠心は?」

「そんなもんあるわけねぇだろ。金だよ金。  安月給で命張ってんだ、こちとら」

「いくらもらってるんですか?」

「人の給料聞くとは無礼なッ!」

刀を抜いた男に驚き、士郎は親分の背に飛びついた。

「ひゃいっ、すみません……!」

親分は苦笑しながら言った。

「一戦八十文(約九千六百円)だよ」

「えっ……そんな安いんですか⁉」

「バカにしてんのか、こら!」

「ち、違います! 命に対する対価として……見合ってないと思っただけで……!」

静まり返る一同。  

親分が小さく息を吐いた。

「そういうもんさ。替えがきく仕事なんだよ、俺たちのは」

士郎は言った。

「では――都賀勝敏を裏切ってくだされば、一人につき一貫(約十二万円)差し上げます」

「い、一貫⁉一戦分の十倍以上かよ!」

「はい。……これです」

士郎は再び金を置いた。  

男たちは無言で金を手に取る。

「……で、俺たちは何をすればいい?」

「次の戦で、『都賀軍の中に裏切り者がいる』という噂を流してください」

「たったそれだけか? ……なんでそんな簡単なことに、こんな大金を?」

士郎の目は真剣だった。

「それがしは、どんな手を使ってでも経丸さんを守りたいんです。  そのために、命を賭けてでも、この布石を打つ価値があるんです」

親分は士郎の瞳を見つめ――にやりと笑った。

「俺、お前のこと、信じるわ」

「ありがとうございます」

「もし天羽家が勝敏を討ち取れたら……さらに一人三貫だと?」

「はい‼」

男たちは一斉に叫んだ。

「お前ら聞いたな‼ 全員、死ぬ気でやり遂げろ‼」

「おおっ‼」

士郎は涙を浮かべ、深く頭を下げた。

「ありがとうございます‼」

◆【回想終わり】戦場――荒井の最期

経丸と片倉は戦場を駆け、敵兵を蹴散らしていく。  やがて、しんがりを務めていた都賀軍の武将・荒井を取り囲んだ。

荒井は汗をにじませ、逃げる間もなく組み伏せられる。

片倉が静かに歩み寄った。  

その目には怒りも焦りもない。

あるのはただひとつ――冷たい覚悟。

「殺されたくなかったら……都賀勝敏の居場所を教えてくれませんか?」

抑えた声に、荒井は本能的に悟った。

(こいつ……やる気だ……!)

「さ、さっき……後ろに逃げました!  馬に乗って、一人だけ先に!」

片倉は頷き、経丸を見る。

「行きましょう、若」

「はい!」

二人は即座に走り出した。

◆都賀、逃走

「片倉さん! 都賀、発見しましたっ‼」

若い兵が叫ぶ。

 片倉が目を細めると、遠くを馬で駆ける都賀の姿が見えた。

「ちっ、馬に乗ってやがる……このままじゃ逃げられる!」

経丸が足元の弓矢を拾い、片倉に渡す。

「これで止められませんか?」

「弓は苦手でして……。若! 足元の槍、お願いします!」

「了解です!」

経丸が槍を拾い、片倉に手渡す。

片倉は肩に力を込め、大声を上げた。

「おりゃあああーッ‼」

槍は空を裂き、一直線に飛ぶ。

 そして五十メートル先――都賀の右肩に突き刺さった。

「ぐああああッ‼」

都賀は落馬し、地に転がった。

◆経丸、敵将を討つ

経丸と片倉が駆け寄ると、都賀は右肩を押さえ呻いていた。

「罪なき人々を斬っておきながら、いざ自分が劣勢になれば逃走とは……  本当に最低な人ですね」

「うるせぇ‼ お前らこそ槍を後ろから投げるなんざ卑怯じゃねえか‼」

片倉は呆れたように吐き捨てた。

「なんちゅう理屈や……」

経丸が一歩前へ出る。

「……一騎打ちで勝負といきましょう」

「お前、おなごの癖に舐めてんじゃねぇぞ‼」

都賀は逃げてきた部下に合図し、経丸を囲ませた。

「囲んじまえ‼ やっちまえ‼」

片倉が低く問う。

「殺っちゃいましょうか?」

経丸は首を振った。

「大丈夫です」

次の瞬間―― 悲鳴と金属音が響く。

経丸が弾けるように動き、敵を次々と斬り伏せた。

 まるで死神の舞。  誰一人、近づくことすら許されない。

都賀は腰を抜かし、震えた。

「お、お前……バケモノか……」

片倉は小さく笑った。

「終わったな、あいつ」

経丸が間合いを詰め、刃がひと閃。

都賀勝敏の首が宙を舞い、空気を裂いて落ちる。  経丸はそれを左手で受け止め、静かに掲げた。

「――敵将、討ち取りましたーっ‼」

その声が戦場を震わせ、天羽軍と都賀軍の戦いは、経丸の一太刀によって幕を閉じた。



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