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第二話

館山城の廊下を、士郎は早足で歩いていた。

胸の奥がざわついている。  

経丸が戦を決意したと聞き、居ても立ってもいられなかった。

経丸の部屋の前に立つと、士郎は深呼吸し、襖を開けた。

「経丸さん、本気で都賀勝敏と戦うおつもりですか?」

経丸は迷いのない瞳で答えた。

「はい。戦います」

「都賀家は天羽家より格上の相手じゃないですか!」

士郎の声は震えていた。  

経丸は淡々とした口調で頷く。

「そうですね」

士郎は片倉の方へ向き直り、声を荒げた。

「戦って勝てる相手じゃないじゃないですか‼  何で片倉さんは止めないんですか‼」

片倉は士郎とは対照的に、静かに答えた。

「俺も戦うべきだと思うから」

「片倉さん‼ 敵の兵力わかってますよね‼」

「もちろん、わかってるよ」

「戦えば絶対に負けます‼  負け戦は回避すべきですよ‼」

片倉は士郎を真剣な目で見つめた。

「負け戦なんかにしないよ。絶対に勝つ」

「勝つって……こっちは長経様が不在なんですよ‼  今の状況なら集められたって五百。 相手は五千以上……勝てるわけないでしょ‼」

士郎は必死だった。

「都賀勝敏の挑発に乗るべきではないです‼  長経様が帰って来るまでは戦を起こすべきではないです‼」

その言葉に、経丸の表情が変わった。

「父上が帰って来るまで…… 安房の皆さんが犠牲になるのを見過ごすって事ですか‼」

士郎は言葉を詰まらせた。

「いや……その……  戦って負けて多くの人が亡くなる事を考えたら……  犠牲を見過ごすのも仕方ないですよ……」

片倉が間に入り、静かに問いかけた。

「士郎君、それ……若が犠牲になるってなっても同じこと言える?」

「そんな事言えるわけないじゃないですか‼」

士郎は叫んだ。  

胸の奥が熱く、苦しかった。

「片倉さんのお役目は、経丸様が危険な目に遭わないよう守る事じゃないんですか‼」

怒鳴る士郎に、経丸は優しく、しかし強く言った。

「士郎さん、心配してくれてありがとうございます。でも私は戦います。  安房の方々を殺されて、そのまま何もしないなんて……私にはできません。  必ず仇を取り、安房の国を、皆が安心して暮らせる国にする。 それが私の使命ですから」

「その考えは立派ですが……現実的には無理です。 戦えば天羽家は必ず負ける!  それがしは……絶対に経丸さんに死んでほしくないんです‼ だから……ここは戦うべきじゃない……‼」

士郎の目から涙がこぼれた。

経丸はその涙を見つめ、力強く言った。

「絶対に勝つので大丈夫です‼」

「無理ですって‼ 相手は格上です‼」

「無理とかじゃないんです。やるしかないんです‼」

経丸の声は震えていたが、決意は揺らがなかった。

「しっかり現実を見てください‼  相手は五千!こちらは五百!  十倍の差があるんですよ‼ 勝つなんて夢のまた夢なんですよ‼ 理想の夢なんか見たって、厳しい現実にぶっ壊されるだけですよ‼」

経丸は静かに、しかし強く言い返した。

「厳しい現実なら……理想の夢でぶっ壊せばいいじゃないですか‼」

士郎は息を呑んだ。

「どうして……どうしてそう前向きでいられるんですか……  不安とか……恐怖とか……ないんですか……」

経丸は優しい声で答えた。

「士郎さん、私だって不安ですよ。恐いですよ。  でも、戦わなきゃいけない。  だったら強い気持ちを持って、覚悟を決めるしかないんです」

「人間、最後は“絶対に成し遂げる”という強い気持ちが物を言うと思うんです」

「気持ちが……ですか」

「そうです。だから私は“絶対に勝つ”という気持ちで戦に臨みます」

経丸の固い意志を感じ、士郎は悟った。  

これ以上何を言っても、経丸の決意は揺らがない。

「……わかりました。 ご武運をお祈りいたします」

士郎は深く頭を下げ、部屋を去った。

◆片倉の誘い

士郎が去っていく背中を見送り、片倉は経丸に向き直った。

「若、士郎君に渡すものがあったのを忘れていました。  渡してきてもよろしいでしょうか?」

「はい。気をつけて行ってください」

片倉は城を出て、士郎を追った。

「おーい、士郎君」

「片倉さん、どうされました?」

「ちょっと行きたい店があるんだ。付き合ってくれないか?」

「ぜひ! 行きましょう‼」

◆鹿の内臓肉の屋台にて

片倉に連れられ、士郎は小さな屋台に入った。

「ここは鹿の内臓肉が旨いらしいんだよ」

「えっ……それがし内臓肉なんか食べた事ないですけど……気持ち悪くないんですか?」

片倉は笑った。

「俺も食べた事なくて、一人じゃ恐いから士郎君を誘ったんじゃないか」

「何も、それがしを巻き込む事ないじゃないですか‼  もしお腹壊すような食べ物だったらどうするんですか‼」

片倉は楽しそうに笑った。

「小さい頃、田んぼの水飲んだ士郎君なら平気でしょ」

「一回だけね‼  あの時、下からも上からも出て大変だったんだから‼」

「汚いなぁ。ご飯前にする話じゃないよ」

「あなたが言わせたんだろ‼」

二人は笑い合った。

◆二人の酒

料理が運ばれてくると、片倉は少年のように目を輝かせた。

「士郎君、今日は思いっきり食べようぜ」

「はい! 食べましょう‼」

片倉は盃を掲げた。

「今宵は飲むぞ」

「はい!」

二人は肉を焼き始めた。

「士郎君、そっち焼けたぞ」

「じゃあ片倉さんどうぞ」

「いや、士郎君先食べていいよ」

(えっ……こんなわけのわからない物を食べたくはないなぁ……)

士郎の困惑を察し、片倉が提案した。

「わかった。二人で“せーの”で食べようぜ」

士郎は目をつぶり、内臓肉を口に入れた。

「あっ、美味しい‼  片倉さん、美味しくないですか‼」

片倉は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……ごめん、俺ダメみたい」

「あんたがダメなんかい‼」

二人は笑い合った。

◆士郎の本音

しばらくして、士郎は酒を飲みながら言った。

「片倉さん……ありがとうございます。 それがしに気を使って、話す場を作ってくださって」

「士郎君の気持ちもわかるからなぁ。 好きな人が危険な目に遭うってわかってたら、止めたいよな」

「いや、別に好きとかじゃなくてですね……」

片倉は士郎の肩を軽く叩き、真剣な表情で言った。

「本気で人を好きになる事は、カッコいい事だぜ」

「いや、その……まぁ……」

「俺は若の武術の腕も、人望も、考え方も一流だと思ってる」

「それはそれがしも思ってます‼」

「兵力差があっても、若が率いれば都賀に負けることはない。  だから俺は今回、戦うべきだと思う。 若と都賀じゃ、人としての器が違うからな」

「でも……戦は大将の器だけでやるわけじゃないですよ。  兵力差が違えば、いくら大将の差があっても……」

片倉は優しく言った。

「士郎君。好きな人を心配する気持ちはよくわかる。 でもね、本当に好きなら……信じる事も大事なんじゃないかな」

「経丸様なら勝てると信じて付いて行くのが、若は一番喜ぶと思う」

士郎はハッとした。

(……それがしは、心配ばかりして……  経丸様の事を信じ切れてなかった……  そっか……本当に好きなら……信じないと……)

「片倉さん……それがし、戦うよ‼」

片倉は嬉しそうに笑った。

「よし‼ 共に戦い、若に“俺らは頼りになる男だ”と証明しようぜ‼」

「はい‼」

「士郎君らしくないなぁ。真面目すぎる‼ ほら、一発ギャグ“お漏らし”どうぞ‼」

「犬じゃねぇんだ‼ 所かまわず漏らせるか‼」

片倉は爆笑した。

「台無しだな、あんた‼  せっかく心の底から感謝してたのに‼」

「真面目な話だけだと体調悪くなりそうだからな」

「まぁ……片倉さんらしいか」

二人は笑い合った。

◆別れ際

「戦が終わったら、今度は若も誘って三人で飲みに行こうか」

「はい! ぜひ‼」

「じゃあ行こうか」

「片倉さん、会計は?」

「大丈夫よ」

「いや、今日はそれがしに払わせてくださいよ! それがしの為に連れてきてくださったんですから!」

片倉は笑った。

「じゃあ、戦勝祝いの時に奢ってくれ」

「はい‼ 絶対に奢ります‼」

「楽しみにしてるわ」

士郎は深々と頭を下げた。

「今日もご馳走でした‼」



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