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第十一話

雨上がりの空は澄み渡り、太陽の光が河川敷の水面に反射してキラキラと輝いていた。

「あぁ〜気持ちのいい天気だ‼」

士郎は両腕を伸ばし、全身で朝の空気を吸い込む。

「外岡士郎は天才だ〜♪  ついでに安房の英雄だぁ〜♪  歴史に名を刻む超偉人〜♪  外岡〜外岡〜それがしらの士郎〜♪  あぁ〜明るい天才男〜♪」

自作の謎ソングを歌いながら、木の棒を指揮棒のように振り回して歩く士郎。

その時、前方で数人の男が誰かを囲んでいるのが見えた。

「なんだ?女の人が囲まれてるのか?」

◆士郎の妄想劇場

士郎の脳内では、すでに英雄劇が始まっていた。

(中略:妄想の英雄劇。経丸が抱きついてくるところまで)

◆現実

「おい‼」

「ひゃあああああああああ‼」

現実に引き戻された士郎は、木の棒を他人の尻に突き刺していた。

「お前、ニヤニヤしながら人の尻に棒突き刺すな‼」

「あっ!すみません‼悪気はありません‼」

「変態野郎‼あっち行け‼」

士郎は土下座寸前で謝り倒す。

◆チビルとの再会

倒れている人物を見て士郎は叫んだ。

「おい!チビルじゃないか‼大丈夫か‼」

士郎の親友・チビル(稲荷)が、いじめられていたのだ。

「こいつは俺達の下僕だからな。文句あんのか?」

主犯格の男が胸を張る。

士郎は震えながらも言った。

「こんな大人数で一人をいじめるのは卑怯ですよ‼」

「お前、まさか俺達に逆らう気か?」

士郎は敵の数を数える。

「1、2、3、4、5……  5人は多いです。  それがし強くないんで、ハンデとして5人帰ってもらえませんか?」

「全員じゃねぇか‼」

男達が笑う中、主犯格が言い放つ。

「こいつはゴミなんだよ」

その瞬間、士郎の目が変わった。

「……ゴミだと?」

◆士郎、覚醒

「外岡士郎ならできる‼  外岡士郎ならできる‼  気持ちー‼気持ちー‼」

士郎は自分を奮い立たせる。

「勝てる、勝てないなんてどうでもいい‼  それがしの親友をゴミ呼ばわりしたんだ‼  お前らまとめてぶっ潰す‼」

飛びかかろうとした瞬間――

「やめろ士郎‼」

チビルの叫びで士郎は止まる。

◆チビルの心の闇

「俺みたいな何もできないゴミは、こうされても仕方ないんだよ……」

男達は笑う。

「ほら見ろ、ゴミは自分の立場わかってるぞ」

「英雄気取りのバカ坊主がよ」

士郎はチビルの胸倉を掴む。

「何もできないからって何だ‼  理不尽を受け入れる理由になんねぇだろ‼」

そして――

バチン‼

士郎はチビルを殴った。

「殴り返せ‼」

「無理だよ……」

士郎はさらに殴る。

「目覚ませよ‼  いつまで甘えてんだ‼  戦えよ‼」

その姿に男達はドン引きした。

「やべぇ、あいつらより怖いわ」

「関わるのやめよ」

男達は逃げていった。

◆チビル、初めての反撃

士郎はさらに殴る。

「殴り返せ‼」

「士郎、なんで殴るんだよ‼」

「お前が殴り返すまで殴り続けるぞ‼」

そして――

バチン‼

チビルは人生で初めて人を殴った。

「いいじゃねぇか‼  腹の中のくすぶってるもん全部出せ‼」

チビルは馬乗りになって殴り始める。

「いやいや‼馬乗りはやりすぎ‼死ぬ‼死ぬって‼」

「俺は才能も何もない‼  母親を支えるために耐えるしかないんだよ‼」

「ちょっとたんま‼」

◆士郎の言葉

「お前、今の生活幸せか?」

チビルは殴りながら呟く。

「わからない……」

「お前には楽しみはあるのか?」

「あるよ……月一回、お前と遊ぶこと」

士郎は涙をこぼした。

◆天羽家へ誘う

「お前、天羽家に仕えろよ」

「待遇は?」

「お前がそれ聞く⁉」

チビルの労働条件は地獄だった。

•一日十六時間

•週六

•緊急出勤あり

•手取り一貫(約十二万円)

「奴隷契約じゃねぇか‼」

天羽家は

•週五

•一日八時間

•手取り二貫(約二十四万円)+戦手当

「悪くない条件だな」

「上から目線やめろ‼」

士郎はチビルを強引に館山城へ連れて行った。

士郎はパンパンに腫れた顔で、ボロボロのチビル(稲荷)を引きずるように連れて館山城へ戻ってきた。

「おっ、ただいま帰ったよ!」

その姿を見た経丸は、目を見開いて駆け寄る。

「えっ⁉ 二人とも大怪我してるじゃないですか‼  どうしたんですか‼」

「二人で殴り合ったらこうなった」

凛も慌てて駆け寄る。

「えっ‼大丈夫?いや、大丈夫じゃないよね‼ すぐ手当てしないと‼ 片倉さん、救急箱どこですか‼」

「今持ってくるよ!」

片倉は走って救急箱を取りに行った。

◆経丸の手当てと、士郎の意味不明な説明

経丸はチビルの傷を丁寧に手当てしながら尋ねる。

「なんで殴り合ったんですか?」

「男の友情だよな!チビル‼」

経丸は呆れた顔で、

「はい?何言ってるんですか?」

チビルも困惑して、

「僕もよくわかりません」

「おいチビル‼ 裏切んなよ‼」

士郎がチビルの首を絞めると、凛が士郎の頭を叩いた。

「やめなさい兄貴!稲荷さん怪我してるんだから!」

稲荷は士郎に嫌味っぽく言う。

「士郎、妹の方が随分と大人じゃん」

「当たり前だろ‼ それがしと違って優秀なんだから‼」

「違いますよ。兄貴がいつまでも子供なだけですよ」

「ふざけんなよ!皆、それがしは子供じゃないよなぁ!」

……誰も反応しなかった。

「ただいまー!」

河野が帰ってくると、士郎は嬉しそうに声をかけた。

「おっ、河野いいところに帰ってきた!」

「おっ、士郎さん。今日お祭りでもあったんですか?」

「お祭り?なんで?」

「だって士郎さん、お面被ってるから」

「お面?」

「珍しいお面ですよね。よく見つけてきましたね。そんなブサイクなお面」

皆、爆笑。

士郎は自分の顔を指さしながら叫ぶ。

「お面じゃねぇ‼ これがそれがしの顔だ‼」

「えっ!? あぁ……よく見たら士郎さんの顔だ‼」

河野は慌てて取り繕う。

「かっ、カッコイイですよ‼」

皆、さらに爆笑。

「お前ぶっ飛ばすぞ‼」

「ごめんなさい‼ 士郎さんその顔どうしたんですか?」

「説明したばかりだから後で片倉さんに聞け‼」

河野は真剣な顔で片倉に聞く。

「片倉さん、士郎さんどうして饅頭みたいな顔になったんですか?」

また爆笑。

「おい‼ 人の顔を饅頭って言うな‼」

「思ったことを言っただけです‼」

「ぶっ飛ばす‼」

士郎は河野にヘッドロック。

「ギャァァァ‼ すみません‼  士郎さんの顔はカッコいいです‼」

皆、笑い転げた。

◆稲荷、天羽家へ加入

「兄貴、稲荷さんのこと紹介しなよ」

「皆、こいつはチビル。それがしの親友だ」

「本名は稲荷です……」

「今日から天羽家に仕えることになったんでよろしく!」

凛が慌てて止める。

「ちょっと待って兄貴!勝手に決めちゃダメでしょ!」

「何で?こいついい奴だよ。凛、反対なのか?」

「違う、そういうことじゃなくて……」

経丸が凛の肩に手を置く。

「凛ちゃん、いいんだよ。仲間が増えるのは嬉しいことだから」

「本当にうちの兄貴が勝手ですみません……」

「気にしないで」

稲荷はバツが悪そうに頭を下げる。

「僕が勝手に仕えることになってすみません」

経丸は優しく微笑んだ。

「稲荷さん、これからよろしくお願いします」

「こちらこそ……よろしくお願いします」

経丸と稲荷は固い握手を交わした。

「稲荷さん、頼りにしてますからね」

「いや……俺なんて武術できないし、役に立たないと思います」

「お前、自己肯定感低すぎだって‼  真面目だし、性格いいし、足速いし、痛みに強いし、いいところいっぱいあるんだからもっと自信持て‼」

「お、おう……」

河野が拍手する。

「士郎さん、めっちゃいいこと言いますね‼」

士郎はドヤ顔。

「そうだろ」

「めっちゃカッコイイです‼」

経丸は吹き出した。

「どうしました経丸さん」

「すみません、思い出し笑いしました」

「まさかそれがしのこと饅頭野郎って思ってませんよね?」

経丸は必死に真顔を作る。

「そんなこと思ってませんよ」

「ホントですか?」

士郎が顔を近づけると、経丸は吹き出した。

「すみません‼」

「謝るってことは思ってるってことだろ‼」

皆が笑い転げた。

◆稲荷、天羽家の一員に

こうして、士郎の親友・稲荷が天羽家の仲間に加わった。

士郎は満足げに言った。

「これでまた、最高の仲間が増えたな!」

経丸も笑顔で頷く。

「はい。とても心強いです」

天羽家の新たな日常が、また賑やかに始まった。



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