第十話
「ねぇ、不審者と思っている人間を縛り付ける時でさえ、痛くないように気を使ってくれるんだよ」
凛の言葉に、経丸は深く頷いた。
「やっぱり優しいお方ですね」
「待て待て、おかしいって! まず凛、お前なんで素直に縛られてるんだ‼」
士郎が叫ぶと、凛は当然のように答えた。
「だって、下手に逃げたり抵抗したりしたら攻撃されるかもしれないじゃん。 それに経丸さんが来れば兄貴も来て、誤解が解けると思って素直に従ったの」
「凄いな……めちゃくちゃ意味わからない状況でも冷静に対処するんだな」
「まぁ、慌てふためいたら解決策を見失うからね」
士郎は思わず感心した。
「おぉ〜……」
◆凛が来た理由
「ところで凛、それがしに何の用で来たの?」
「兄貴、この前の戦で怪我しなかったか様子を見に来たの」
「そのためだけに来たのか?」
「そうだよ。こっちは凄く心配してるんだから」
経丸が微笑む。
「凛ちゃんって、本当に優しい方ですね」
凛は照れ隠しのように言った。
「いや、違うんですよ。私のお年玉が減るから心配してあげてるんですよ」
士郎はニヤニヤしながら凛を指さす。
「いや、照れ隠しです。それがしのことを大事に思ってくれてるんですよ」
「余計なこと言いながら、人を指さすな‼」
凛は顔を真っ赤にした。
皆が笑った。
◆凛、天羽家で働きたいと言い出す
「凛ちゃんって、どこかで働いているんですか?」
「まだです。これから探そうと思ってまして」
「もしよかったら、天羽家で働きませんか?」
経丸の提案に凛は驚いた。
「えっ?」
士郎が即座に反対する。
「経丸さん、それはダメです! 凛を戦とか危険な場所に行かせることは出来ません‼」
「あっ、そうですよね」
しかし凛は強い声で言った。
「待ってください‼ 私、天羽家で働きたいです」
「おい凛!戦は危険なんだ。ここで働くのはやめときなさい」
「危険なのはわかってる。でも、ここにいる方々、皆いい人達だから働きたい」
「何言ってんだ‼ 仕事内容が危険すぎる。別の安全な場所で働きなさい」
凛は真剣な目で兄を見る。
「兄貴、仕事は仕事内容じゃないんだよ。 共に働く“人間関係”が大切なんだ。 私は人間関係のいい場所で働きたい」
「人間関係って……今日初めて会った人達の何がわかるんだ」
「兄貴、この方々、皆さん良い方々なんでしょ?」
「いい人達なのかなぁ? 皆してそれがしをイジってくるが……」
凛は兄を真っ直ぐ見つめた。
「兄貴、真剣に答えて」
士郎は少し照れながら言った。
「いい人達っていうより…… 最高の仲間だ」
自分で言って恥ずかしくなり、顔が真っ赤になる。
「いや、そのね……あの……なんて言うんだろうね……」
凛は優しく微笑んだ。
「兄貴が自信を持って言うんだから、最高の方々なんだよ。 兄貴の最高の仲間なら、私は最高の方々だと思う。
だからぜひ仲間に入れてもらいたい」
「凛……少し熱くなりすぎじゃないか、それがし達」
凛も顔を真っ赤にしながら言った。
「いないよ、こんな出来の悪い兄貴を仲間に入れてくれる方々」
「それがしの出来が悪いのは、凛が出来の良いところ全部持っていったからだろ‼」
「あんたが全部置いてったんだろ‼」
その返しに皆が拍手した。
◆凛、天羽家へ加入
「経丸さん、私を天羽家の仲間に入れてください」
経丸は嬉しそうに声を弾ませた。
「大歓迎です‼」
片倉も優しく言う。
「俺も大歓迎です」
河野は大声で、
「僕も大歓迎です‼」
経丸は士郎を見る。
「士郎さんは?」
「戦の時、絶対に最前線には行かせず、後方支援のみって条件なら」
「わかりました。その条件は絶対に守ります。 それでいいですよね、凛さん」
「はい、ありがとうございます」
士郎は手を差し出した。
「ようこそ、天羽家へ」
しかし凛はその手を払いのけた。
「違う、違う、それは兄貴じゃない! どう考えても経丸さんだろ‼」
「違う? それがしじゃないのか?」
「何で兄妹で握手するんよ‼ 皆の前で兄貴と握手は恥ずかしいって‼」
「恥ずかしいって何事だ‼ それがしは――」
士郎の言葉を遮るように、経丸がスッと手を差し出した。
「ようこそ、天羽家へ」
「これからお世話になります、経丸さん」
凛と経丸が固い握手を交わす。
士郎は嬉しそうに拍手し、片倉と河野も続いた。
◆士郎、またもや被せられる
「経丸さん、それがしが話してる途中だったんですよ」
「はい、そうでしたね」
「あっ! わかっててやったんだな‼」
経丸は思わず笑った。
凛も笑いながら言う。
「うるさいよ、兄貴」
「うるさいって‼そんな――」
経丸が落ち着いた声で被せる。
「少し声が大きいなぁと思います」
「だから何で被せるねん‼」
皆が笑い、士郎も一緒に笑った。
◆凛の歓迎会、開催決定
「今日は凛ちゃんの歓迎会しましょうよ‼」
経丸が提案すると、河野が大声で言った。
「いいですね‼ 僕、最近気になってる店見つけたんですよ‼」
「えっ!どこどこ?」
「なんとね、内臓肉を食べれる店なんですよ! 外岡士郎さん、内臓肉食べたことありますか?」
士郎と片倉は思わず笑った。
「何で笑うんですか?」
「この前、片倉さんがその店気になってるって言うから行って…… 片倉さんワクワクしてて」
「ワクワクしてて?」
「いざ食べたら『ごめん、ウェ〜嫌い』って言って吐き出したんよ」
皆が爆笑した。
河野は真顔で言った。
「片倉さんって、意外と食事の行儀悪いんですね。 人前で食べた物吐き出すなんて」
「吐いてないよ‼ 『苦手かも』って言っただけだよ‼」
凛が片倉に頭を下げる。
「すみません、うちの兄貴すぐ話盛るんですよ」
「いいんですよ、凛ちゃん。 話盛るのが彼の特技ですから」
「そんな特技いらんわ‼」
◆歓迎会スタート
経丸が提案する。
「お店に行くんじゃなくて、ここで食べませんか?」
士郎は親指を立てた。
「いいですね‼ ここなら海も見渡せるし最高です‼」
「凛ちゃんは何が食べたいですか?」
「いや、私はそんな特に……」
士郎が横から割り込む。
「凛は肉も刺身も好きだ! そうだ、肉焼いて刺身も食べよう‼」
「兄貴、贅沢が過ぎるって‼」
「最高ですね!そうしましょう‼」
経丸が笑顔で言うと、凛は慌てた。
「経丸さん、私のためにやりすぎですよ」
「凛ちゃん、私も食べたいんだ。一緒に食べよう‼」
◆ばぁやんの料理ショー
ばぁやんが魚や肉をテキパキ捌いていく。
「ばぁやん、凄いな……さすがだなぁ」
「何今さら驚いてんのよ!」
ばぁやんは笑顔で言った。
「さぁ皆さん、刺身どんどん食べて、肉もどんどん焼いて!」
「ありがとうございます‼」
◆凛、幸せそうに食べる
「凛、こっち焼けたぞ」
「兄貴、先に経丸さんや片倉さんに食べていただかないと」
「何気を使ってんの? これ凛の歓迎会だぜ!」
経丸が優しく言う。
「凛ちゃん、遠慮せずたくさん食べてよ」
「お言葉に甘えさせていただきます」
凛は肉を頬張り、笑顔になった。
「凄く美味しいです‼」
「喜んでもらえて嬉しいです」
◆肉の焼き加減問題
河野が肉を箸で持ち上げる。
「士郎さんの顔、この肉より赤いですが何かあったんですか?」
「お前ぶっ飛ばすぞ‼」
河野が肉を食べようとすると、士郎が慌てる。
「あっ待て‼ それまだ真っ赤だ!もっと焼け‼」
「赤いと食べちゃダメなんですか?」
「ダメだぞ!肉はちゃんと焼いてね」
「士郎さん、これは?」
「食べていいよ」
「じゃあこれは?」
「食べてよし」
そのやり取りが十回以上続いた。
「じゃあ士郎さんこれは?」
「いい加減自分で判断しろ‼ 毎回それがしに聞くな‼」
「すみません。士郎さん肉判断係だと思ってたので」
「そんな係になった覚えないわ‼」
片倉が煽る。
「じゃあ士郎さんこれは?」
「片倉‼ぶっ飛ばす‼」
皆が笑った。




