第三話
それから数分が経った。猫の出産は一匹で終わりではないため、三人は急いで駆けつけることはせず、じっと待っていた。
その間、真白はずっと気もそぞろでいたが、先だってのやりとりで気が紛れ、少し不安は取り除かれていた。
ややあって、猫の声がすると、母猫が仔猫を咥えて中から出てきた。真白は思わず感嘆する。
「わあ、かわいい」
母猫は真白に近づくと、仔猫を置いて中に戻った。そして次々と他の子を運び出すと、最初の子と同様に何故か真白の前に置いていく。
やがて全ての子を運び終えた母猫が戻った。子どもたちが群がると、それを愛おしそうに舐めながら母猫は乳を与える。
真白と藤樹は笑みを湛えてその光景をじっと眺めていた。
「生命の神秘だね。あの子はお母さんになったんだ」
「そうだな」
二人が談笑していると少し離れたところで様子を見ていた閼伽が腕を組んで近づいてくる。
「ちょっと、何する気」
「別に何もしない」
真白の剣呑な態度に肩をすくめた化生は、少し冷めた表情で猫の親子を見た。
「――一匹足りないな」
「え?」
真白は閼伽の言葉の意味するところがわからず聞き返す。
すると化生は荒屋の戸口を指さした。
「まだ中に残ってる奴がいる」
途端に女は血相を変えて荒屋に駆け込んだ。中には胎盤がついたままの仔猫が力なく横たわっている。
真白はどうしていいかわからず取り乱す。後を追いかけてきた藤樹は真白を落ち着かせるため、その背を擦った。
「まだ息はある。助かるかもしれない」
「そいつはもう駄目だ。弱い奴は死ぬしかない。それがお前ら生き物の掟だろ」
戸口に寄りかかった閼伽は容赦なく言い放つ。藤樹はかっとなって言い返そうとしたが、真白がそれを制する。
涙を湛えつつも毅然とした表情で、彼女は言った。
「それでも、出来ることをしたい」
すると閼伽は、その言葉を待っていたとばかりに破顔し、真白に近づきその手を取って口づける。
「お前のそういうところが、俺は好きだぜ」
金色の光を宿した黄水晶の瞳が真っ直ぐに彼女を見た。
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