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第一話

拙作『行く春の白藤へ』の子どもたちのお話です〜

本編をお読みいただくとよりお楽しみいただけます!

「聖夜だね」


「そうだな」


真白(ましろ)藤樹(とうじゅ)は広場に設置された(もみ)の木が、様々な色のついた豆電球や装飾に覆われている様を、仁王立ちで見ていた。


この街は最近、遠い西方の大陸の文化を多く取り入れつつある。


そして今夜はその国々で(まつ)られている神の愛し子の生誕を祝う日であった。


この夜に結ばれた二人は祝福される。そんな言い伝えも、遠く海を渡ってやって来ていた。


真白と藤樹はその聖なる夜に二人、その祭日の象徴でもある樅の木を観に来ていたのだった。


しかして二人の表情は険しい。これから決闘でも起こるかのように。


「藤樹」


「なんだ」


険しい顔のまま二人は向かい合う。真白は美しい長い白髪に覆われた可憐な顔貌(がんぼう)を一層厳しくして藤樹に詰め寄った。


「今日こそ返事を聞かせてもらうよ」


女の言葉に男の方もますますいかめしい顔になる。


「何度も言うが、俺はお前の兄で――」


「兄じゃなくて従兄(いとこ)だよ」


藤樹の言葉を真白はぴしゃりと(さえぎ)った。


師走(しわす)の冷たい風が広場を吹き抜ける。巻き上がる木の葉と砂塵(さじん)が、この決闘を物々しく彩っている。


藤樹は悩ましげに眉間をつまんで(うな)る。


彼はもう何年もこの議題に悩まされていた。


「私と結婚して」


真白はさらに距離を詰めて、藤樹に掴みかからん勢いで迫った。だが藤樹は勢いに気圧されることなく、黒瑪瑙(くろめのう)のような艷やかな瞳で彼女を正面から見据えて言った。


「真白、お前も俺も成人した。こういうことはもう、いい加減やめるべきだ」


「藤樹はこれがずっと子どもの戯言(ざれごと)だと思ってた?」


真白はその紫水晶の瞳で真っ直ぐに藤樹を見つめ返す。


「私は、今までもこれからも本気だよ」


その言葉に男はぐっ、と息を詰めると、徐ろに目を伏せて真白から離れようとした。


しかし真白は彼を逃すまいと、その腕をぎゅっと掴んだ。


「逃げないで」


昨年も、その前も、藤樹は真白からの求婚を彼女はまだ成人していないからといったように、何かと理由をつけてはぐらかしてきた。


しかし二人とも成人した今、もはやこのやりとりを子どもの(たわむ)れで済ますことはできない。


「藤樹、私も成人した。もう自分の人生を決めなくちゃいけない。だから貴方と結婚できないなら、きっぱり(あきら)めて旅に出るつもりなの」


「旅――?」


あまりにも突拍子(とっぴょうし)もない話に、藤樹は面食らった。


「そう。藤樹のお嫁さんになれないなら、占星術師(せんせいじゅつし)として一人前になるために各地を旅するの」


真白は両親の古い知己(ちき)である占星術師、織羽(おりば)の弟子である。幼い頃から修行を積んできたが、いよいよ師匠のもとを離れて独り立ちしようかという時期にさしかかっていた。


一人前の占星術師になることは真白の夢であった。しかし彼女は(かね)てから藤樹に懸想(けそう)している。そして彼の妻になるなら占星術師としてのすべてを諦めるつもりでいた。


だからこそ今日は、なんとしても返事が欲しいのである。


それは彼女の人生のすべてを運命づけることになるから――。


「なんだ(やぶ)から棒に、だいたい女人の一人旅なんて危ないじゃないか」


男は途端に慌てた様子を見せる。他にも気がかりな点をずっと並べていたが、真白の耳には入ってこなかった。


相変わらずすぐ話がそれるところは難点だが、なんだかんだ結局そうやって心配してくれるところがやっぱり好きだな、とぼんやり考えていたからである。


「聞いていないだろう」


「うん、聞いてないよ」


(いぶか)しむ藤樹に、きっぱり返答すると、真白は彼の手を握った。寒空の下、互いの体温が温かく身体に染み渡る。


真白は真剣な目で藤樹を見つめて口を開いた。


「――これで最後にするから。今回だめだったら、ちゃんと諦める」


戸惑う男の視線を逃すまいと、女は両の手で彼の頬を挟んだ。


「藤樹が好き。ずっと、大好き」


「真白――」


男は二の句が継げず押し黙った。いままでと異なる展開にどう対処してよいかわからない。


「俺は――」


「盛り上がってるとこ悪いけど、緊急事態だぜ」


藤樹が口を開きかけたその時、突如それを(さえぎ)る声があった。


閼伽(あか)!邪魔しないで!」


真白は声を荒らげた。


閼伽と呼ばれた人物は頭の後ろでゆるく束ねた長い赤毛を揺らしてにやりと笑った。


この男、閼伽は人間ではない。ある日、真白の目の前に突如として現れた桜の化生(けしょう)である。


化生は本来寿命の近づいている人間にしか見えないはずだが、真白と藤樹はなぜかその姿を見ることができた。


この化生いわく、「混ざっている」者と「憑かれている」者らしいが、それはまた別の物語である。


「いいのか? お前が気にかけてた母猫、産気づいてるけど」


閼伽の言葉を聞くと、真白はさっと顔色を変えた。そして悩ましげに顔を顰める。様子を(うかが)っていた藤樹はそっと真白の肩に手を置いた。


「真白、様子を見に行こう」


「でも」


泣きそうな顔で見上げる真白に藤樹は優しく微笑んだ。


「大丈夫だ。俺は何処にもいかない」


その言葉に目をみはると、真白は唇をきゅっと引き結んで、大きく頷いた。


閲覧ありがとうございます!

クリスマスの週の集中連載ですので短い間ですがよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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