知識の代償と時限の攻防
知識増幅チップの設計図が世界中に広まってから数週間、世界は沸騰していた。かつての海軍の権威は地に落ち、技術者や市民が自作の力学装置を持ち、自由のために立ち上がっていた。ブラッド・レイヴンは、革命の象徴として崇められていたが、同時に世界政府の最終的な憎悪の的となっていた。
「船長、この数週間で、新世界の力の均衡は完全に崩壊しました。誰もが力を持ったことで、混乱は増していますが、独裁は終わった」ミンは、安堵と疲労を滲ませながら言った。
「ああ、だが、奴らは黙っていない。世界政府は、必ず最終兵器を出してくる」ジーロは、位相ジャンプによる逃亡を続けているにも関わらず、警戒を緩めなかった。
その警告は現実となった。彼らが航行する静かな海域に、突然、時間の流れが歪むような異様な波動が空間を包み込んだ。
「何だ!?この感覚は…時空が軋んでいる!」キラが叫んだ。船の位相変換機が狂ったように警告音を上げ始めた。
ブラッド・レイヴンの船体全体が、急速に色褪せ始めた。船の木材は古び、金属は錆び、まるで数十年の時が一瞬で流れたかのようだった。
「これは…時間遡行兵器!世界政府が、世界のヘソの知識を盗み出し、私たちの存在そのものを歴史から消去しようとしている!」ミンは、その時限の力に戦慄した。
レンの肌が乾燥し、ジーロの筋肉が衰弱し始めた。ミンは、自らの増幅装置に手を伸ばすが、時間流の歪みにより、装置の電気回路が崩壊を始めていた。
「ミン!船のシステムが時間軸に耐えられない!このままでは、私たちは過去へと崩壊する!」キラは、時空蒸気機関の圧力ゲージが異常値を示すのを見て、絶望した。
「時間遡行兵器の波動は、時空蒸気機関のコア周波数を逆回転させている!私が位相変換機を使って、時空の歪みを手動で安定させるしかない!」
ミンは、絶対不干渉領域で学んだ、純粋な知識と反射神経を頼りに、崩壊寸前の位相変換機を操作した。彼の科学の最終目的は、秩序の創造ではなく、時間の安定となった。
彼は、キラに必死に指示を飛ばした。「キラ!私の知識増幅チップのコアデータを、全てあなたのナビゲーションシステムに移植しろ!私が失敗しても、真理は残す!」
「嫌よ!あなたを置いていかない!」
「これは命令だ!科学と自由の時代を続けるには、知識が必要だ!」
レンとジーロは、時間の衰弱に苦しみながらも、ミンを守るために、ゼッタイ元帥から奪い取った物理的な武器(ただの銃や斧)を構え、見えない時間流の圧と戦った。
ミンは、位相変換機のレバーを操作し、時間流の逆回転を食い止めようと、時空結晶に純粋な安定波を流し込んだ。
ズンッ…
激しい振動の後、時間流はミンの科学の力によって強制的に安定させられた。船の劣化は止まり、クルーの衰弱も止まった。
しかし、時間遡行兵器のエネルギーは、位相変換機のコアを破壊した。ミンの手に残されたのは、ただの溶けた金属だった。
「やったわ、ミン!私たちは今に留まった!」キラは涙を流した。
ブラッド・レイヴンは、時間をも味方につける世界政府の最後の猛攻を耐え抜いた。知識は守られた。ミンは増幅装置を失ったが、彼の頭の中には、世界を変える全ての法則が刻み込まれていた。
科学は、世界の真理を守り抜き、自由の時代は、今、確実に幕を開けたのだ。




