勝利の方程式と肉体の弱点
絶対不干渉領域の中で、ジーロとレンの戦いは限界に達していた。彼らの肉体は疲弊し、ゼッタイ元帥の鉄の拳を前に、防戦一方だった。
「動け…動けっ!力が、ない!」ジーロは、ただの重い金属と化した舵輪を振り上げようとするが、腕が震える。
「この領域では、素の力が全てだ!お前たちの偽りの力は、私の鍛え抜かれた肉体には敵わない!」ゼッタイ元帥はレンの剣の動きを容易く受け止め、彼女を吹き飛ばした。
ミンは、機関室の入り口でゼッタイ元帥の動きを分析し続けていた。彼は、海魂の設計図に記されていた高度な解剖学と運動力学のデータを、頭の中で再現していた。
「違う!彼の力は絶対的ではない!彼の強靭な筋肉と加速された勢いは、同時に構造的な脆弱性を生んでいる!彼の重心と関節の可動域を、完璧に把握すれば…!」
ミンは、エネルギーではなく、力学で勝利する方程式を導き出した。
F_{\text{impact}} \propto \frac{M \cdot V}{\Delta t}
(衝撃力は質量と速度に比例し、接触時間に反比例する。彼の力を利用する。)
「ジーロ船長!レン!私の指示通りに動いてくれ!海魂はいらない!物理とタイミングだけだ!」
ミンは、ゼッタイ元帥が次の最大の一撃を繰り出す瞬間を予測した。
「船長! 右から四十五度!船の時空蒸気機関のコアに体重をかけろ!機関を**物理的な支点**として使え!」
ジーロは、意味を理解せずとも、ミンの科学者としての絶対的な確信に従った。彼は機関コアに身を預け、ゼッタイ元帥が突進してきた瞬間、その反動を利用して自身の体重を反作用の力として利用した。
ゼッタイ元帥の最大の一撃は、ジーロの体を捉える寸前、機関コアの慣性によってわずかに軌道を逸らされた。
「な、なんだと!?」ゼッタイ元帥は、その予期せぬ反作用にバランスを崩した。
その一瞬の隙を、レンは見逃さなかった。彼女は、ミンの次の指示が頭の中で響くのを聞いた。「右膝の靱帯!最大伸展の瞬間だ!」
レンは、海魂も雷光も使わず、ただの鋭い短剣(彼女の蛇剣の柄に隠されていたもの)を、ゼッタイ元帥が最も体重をかけている右膝の関節へと、完璧な角度で突き入れた。
ブチッ!
構造的な弱点を狙われたゼッタイ元帥の膝関節は、彼の膨大な肉体的な力と勢いに耐えきれず、崩壊した。
「ぐわあああ!!!」ゼッタイ元帥は、痛みと自らの力が自分自身を裏切ったという事実に、叫び声を上げて地面に倒れ込んだ。
それは、エネルギーによる勝利ではない。ミンの知識が、ゼッタイ元帥の肉体を単なる構造物として扱い、その設計図の欠陥を突いたのだ。
「絶対的な力は、絶対的な弱点を持つ。これが、真の物理法則だ、ゼッタイ元帥」ミンは、疲労困憊しながらも、知識が持つ究極の力を証明した。
キラは、船の慣性を利用して、港の外へ脱出するための最終的な進路を計算した。「船長!脱出よ!この領域から最も早く抜けられる****潮の流れを見つけたわ!」
ブラッド・レイヴンは、絶対不干渉領域から離脱し、再び海魂エネルギーが満ちる海へと滑り出した。船のシステムが徐々に復活する中、彼らの科学の旅は、世界を変える最終段階へと進む。




