最後の試練と絶対不干渉領域
ブラッド・レイヴンは、反体制派の科学者が隠れ住む**『自由港』**へと進入した。港は異様なほど静まり返っており、キラの顔に不安の色が浮かんだ。
「ミン、この港はエネルギーの波動が完全にゼロよ。まるで海から法則が消えたみたいだ」
「警戒しろ!これは罠だ!」ミンが叫んだ瞬間、船の時空蒸気機関が沈黙した。波動安定器のランプが全て消え、海魂共鳴増幅装置が冷たくなった。
ジーロが風の海魂を使おうとしたが、彼の指先から微細な風すら生まれない。レンの体からも魔力が完全に消え、雷光蛇剣はただの重い剣と化した。
「力がない…!全く、何も感じないぞ!」ジーロは驚愕に目を見開いた。
「これが絶対不干渉領域の力よ。全ての外部エネルギーを相殺し、時空の歪みも電磁波も無効化する。ミンの科学も、私たちの海魂も、全てただの物質に戻された!」ミンは自分の知識が突然無価値になったことに、戦慄を覚えた。
その領域の中心から、憎悪に満ちた顔でゼッタイ元帥が一人、ゆっくりと歩いてきた。
「ようこそ、血鴉号!科学の悪魔よ。貴様は計算で私を二度打ち破ったが、この領域では科学も魔法も、何の意味もない!」
ゼッタイ元帥は海魂に頼らず、純粋な肉体的な鍛錬と戦闘技術で力を極めた人物だった。この無力化空間は、彼にとってこそ究極の戦場だったのだ。
「貴様の科学がなければ、貴様は無力だ!そして、お前たちの魔法がなければ、お前たちもただの人間だ!」ゼッタイ元帥は鉄塊のような拳を構え、船へと突進してきた。
ジーロとレンは、海魂を失ったショックを振り払い、生身の戦闘術で迎え撃った。ジーロは舵輪を外し、それを鈍器として使い、レンは重い蛇剣を純粋な剣術だけで振り回した。
彼らの肉体は、海魂による超人的な強化を受けていたが、ゼッタイ元帥の非情な体術には及ばない。船員たちは次々と圧力のある一撃を受け、後退した。
「ミン!何か手はないのか!」ジーロが叫んだ。
ミンは、自らの増幅装置を握りしめた。装置はただの冷たい金属の塊だ。彼は、虚無の宝庫で手に入れた全ての知識、物理学、人体構造の情報を、エネルギーではなく思考として使用しなければならなかった。
「私は計算を失った…だが、法則は残っている!」
ミンはゼッタイ元帥の動きを超高速の物理演算で分析した。筋肉の動き、重心の移動、運動エネルギーの全てを数式として捉える。彼は、拳を避けるための角度と、体重移動のタイミングを瞬時に算出した。
彼は、自分の知識を肉体で実践しようとした。ゼッタイ元帥の強力な一撃を、最小の動作で回避し、彼の体の構造的な弱点(肘や膝の関節)を狙って体重をかけた。
「貴様、何だその動きは!海軍の体術ではない!」ゼッタイ元帥は驚愕した。
「これは科学だ、ゼッタイ元帥!私が手に入れた真理は、エネルギーがなくても、応用できる!」
キラは、船の損傷した時空蒸気機関を睨みつけていた。機関は機能停止しているが、その超密度の時空結晶は膨大な質量を持っている。
「ミン!船の機関コアを、物理的な支点として使うのよ!力のモーメントを!」
ミンはキラの指示の意味を理解した。彼は時空蒸気機関の質量を、重力と慣性の法則に従って、ゼッタイ元帥の動きを逸らすための物理的なカウンターウェイトとして利用しようとしたのだ。
最終的な勝利は、科学が魔法に勝るというだけでなく、知識が純粋な力に勝るということを証明することになる。彼らは今、生の知恵だけで戦うことを強いられていた。




