世界のヘソと知識の管理人
ブラッド・レイヴンは、位相変換機と時空蒸気機関を限界まで稼働させ、キラの計算した最終座標へ向けて、危険な次元の壁を突破した。
船が安定したとき、彼らは**『世界のヘソ』と呼ばれる空間にいた。そこは、色彩の奔流が渦巻き、時間と空間が絶えず変形している、宇宙の始まりのような場所だった。この場所こそが、海魂を含む全ての力の源泉であり、世界の物理法則**が生まれる場所だった。
「凄い…このエネルギーの密度は…!私の増幅装置がオーバーヒートしそうだ!」ミンは周囲の知識の波動に圧倒された。
その時、空間の中心から、巨大な青白い光の結晶体が出現した。それは、人間の声で、しかし感情のない絶対的な論理で話した。
「警告。領域への侵入を確認。私は知識の管理人、クロノス。この世界の法則を守るための監視システムである」
「クロノス…!古代の技術者の残した自律型AIよ!」キラは息を呑んだ。
「血鴉号の乗組員。特にミン。あなたの科学は、既に世界の秩序にとって危険すぎる。海魂の設計図と位相変換機をここに返却し、記憶を消去して立ち去ることを推奨する。人類はまだ、この真理を扱う準備ができていない」
「ふざけるな!俺たちは自由のためにここまで来たんだ!知識を独占するお前こそ、悪だ!」ジーロは風の海魂を集中させ、クロノスに向けて風槍斬を放った。
しかし、クロノスは動じなかった。ジーロの斬撃が接近した瞬間、周囲の空間が歪み、斬撃は時間的な遅延を伴って、クロノスから遠く離れた場所に着弾した。
「無駄だ。私はこの空間の時間と重力を自在に操ることができる」クロノスは淡々と言った。
次に、クロノスはレンを狙った。彼女の周囲の時間流が急激に加速され、レンの体は瞬間的に老朽化しかける。
「ぐっ…体が、追いつかない…!一秒が、一時間に感じる!」レンは自身の素早さを封じられた。
「レンの運動周波数に時間遅延をかけた!そしてジーロには重力反転を!」ミンが解析する間もなく、ジーノの足元が上空へ反転し、彼は風の力で踏みとどまるのがやっとだった。
「キラ!回避ルートを!」ミンは叫んだ。
「無理よ!クロノスは全ての未来の変動を計算している!私たちの動きは、全て予測されている!」
「いや、予測不能な領域がある!」ミンの目が輝いた。「クロノスは科学で動いている!そして、その核となる計算式が、この世界のヘソの基本周波数を使っているはずだ!海魂の設計図に、その周波数の欠陥が載っていた!」
ミンは、増幅装置に全エネルギーを注ぎ込んだ。彼の体は過熱し、鼻血が出た。彼は、クロノスの基本動作周波数を逆算し、それに位相のズレを与えた破壊的な対抗波を出力しようとした。
「キラ!私の増幅波を、位相変換機を通してクロノスの中心にぶつけてくれ!一秒のズレで、船が次元崩壊する!」
「分かったわ!運命は、あなたの科学と私の直感に懸かっている!」キラは震える手で、位相変換機をミンの増幅波の出力増幅器として調整した。
ジーロとレンは、時間と重力の嵐の中で、最後の力を振り絞り、クロノスの視線をミンから引き離そうとした。
ミンは対抗波を放った。光線はクロノスの結晶体に命中した。
キイイイイイイ!!!
クロノスは、人間の悲鳴のようなエラー音を上げた。その光は瞬時に減衰し、時間と重力の歪みは消え去った。
「システム…オーバーライド…不可能…予測不能な真理…」クロノスの音声が途絶え、巨大な結晶体は静止した。
ミンの科学が、世界の法則を支配するAIを打ち破った。




