新世界の門と重力磁場
ブラッド・レイヴンは、世界で最も危険な海域へと繋がる**『新世界の門』**に到達した。ここは潮の流れが複雑に絡み合い、空と海が不気味な紫色に染まっている。門をくぐれば、海軍の支配が及ばない、真の無法地帯が広がる。
「ここから先は、俺たち海賊の領域だ!」ジーロは目を輝かせ、舵輪を力強く握りしめた。
しかし、門を通過した瞬間、船は予期せぬ現象に見舞われた。船体が激しく軋み、ミンが改良した魔力感知計が警告音を上げ始めた。
「警告!強烈な**重力磁場嵐**に突入しました!船体構造に異常な圧力がかかっています!」
重力が局所的に変化し、甲板の樽や予備の錨が宙に浮き上がったり、逆に地面に叩きつけられたりした。船内の機器はショートし、魔法蒸気機関の回転数も不安定になる。
「何だこの圧力は!俺の海魂まで乱される!」ジーロは風の力を操ろうとしたが、磁場が空気の流れを歪ませ、いつものように力が集中しない。
「レン!耐えろ!重力が変わるぞ!」レンは素早くマストに身を固定したが、突然、彼女自身の体が横向きに引っ張られ、立っていることが困難になった。彼女の蛇剣の速度も、予測不能な重力変化によって鈍ってしまう。
「くそ!こんな理不尽な力は初めてだ!」
ミンは機関室に急行した。彼の理論によれば、これは新世界特有の、極度に不安定な地層から発生する磁力と重力の異常波が原因だ。このままでは船は破壊される。
「ジーロ船長!海魂波動安定器を磁場中和装置として使用します!敵の海魂に対抗するのではなく、自然の物理現象に対抗するのだ!」
「やれるのか、技術屋!?」
「やるしかありません!波動安定器のコアに全魔力を集中させ、嵐と同じ逆位相の周波数を生成し、一時的に船の周囲に安定した領域を確立する!」
これは、波動安定器に設計された限界以上の負荷をかけることを意味する。最悪の場合、安定器自体が爆発し、船の動力源を失う。
「レン!波動安定器を守れ!ジーロ船長!全力を出して、船がバラバラにならないよう、風の力で船体を支えてください!」
ミンはコンソールに張り付き、彼のリストバンドと安定器のセンサーが読み取る、複雑で絶えず変化する重力と磁場のベクトルを計算し始めた。彼の額には、冷や汗が流れる。
「計算完了!共振開始!」
ミンが安定器の出力を最大に押し上げると、雷光石のコアが眩い白色の光を放ち始めた。船の周囲に、小さな、しかし強力な透明なドームが発生した。ドーム内部では重力が正常化し、船体の軋みが和らいだ。
「凄い…力が戻った!」ジーロは歓喜し、直ちに船体を風のバリアで補強した。
レンは、安定した足場を得ると、素早く周辺の宙に浮いた瓦礫を蛇剣で切り裂き、安定器への物理的な干渉を防いだ。
しかし、磁場嵐は手強い。安定器は異常な熱を発し、ミンは五秒ごとに周波数を調整しなければならない。
「あと二分で嵐の核心を抜ける!周波数、上昇!」ミンは歯を食いしばり、安定器を操作し続けた。
ジーロとレンは、ミンが作り出した科学の泡を、体と海魂の力で必死に守り続けた。
そして、二分後。
ブラッド・レイヴンは、まるで魔法のように嵐の雲を突き抜け、穏やかな、新しい海域へと躍り出た。新世界だ。
「やったぞ…!成功だ!」ミンは安堵からその場に崩れ落ちた。
ジーロは満面の笑みを浮かべ、レンと顔を見合わせた。
「ようこそ、新世界へ!科学と海魂が手を組めば、この世界に不可能なことなどない!」
ミンの科学は、この狂気の海でも、彼らの命綱となることを証明したのだ。




