平和の港と海魂の研究
ブラッド・レイヴンは、世界政府の管轄外にある自由貿易港**『パラダイス・ハーバー』**に無事に入港した。船体には、カイ司令官の攻撃による水圧の歪みが残っていたが、ジーロが港の職人たちと豪快に交渉し、修理の手配を進めていた。
「フン、技術屋のおかげで、船はすぐに直るさ!お前は休んでいろ!」ジーロは陽気な声でミンに言った。
しかし、ミンに休息は必要なかった。彼は機関室、すなわち彼の**『科学実験室』に閉じこもっていた。テーブルの上には、カイとの戦闘で採取した渦潮の海水サンプルと、雷光石のコアが置かれている。彼は新しい多機能リストバンド**のセンサーを使い、熱心にデータを収集していた。
「海魂は魔術ではない…」ミンは呟いた。「カイの潮流操作は、海水の温度と密度、そして伝導率という物理的な変数を完璧に安定させることで初めて成立する。私の超高温蒸気は、その安定性を破壊したのだ」
ミンはチャートを広げ、自身の論理をアゼオスの現象に当てはめようとした。彼の仮説はこうだ。海魂とは、個人の強い意志を触媒として、周囲の環境エネルギー(潮、風、雷など)を高次元に組織化された低周波生体エネルギーとして引き出す能力である。
「この残留エネルギーの波長は…予測可能だ。この世界の人間は、感覚で魔力を捉えるが、私は周波数として捉えられる」
ミンは、海魂という超常的な力が、全て物理法則の裏付けを持った現象であることを確信し始めた。
その時、レンが機関室に入ってきた。彼女の武装は整えられており、休憩中も警戒を怠らない。
「まだそんなものを見ているのか。あんた、船を離れてもおかしくないのに」レンは言った。
「あなたこそ、休むべきだ。昨日の戦闘で、あなたの筋肉には高周波振動による微細な損傷が残っている」ミンはリストバンドを彼女に向けた。
レンは少し驚いたように、自分の腕を見た。「…あんたは医者でもあったのか?」
「いいえ。私は予測できるだけです」ミンは微笑んだ。彼は真剣な眼差しでレンを見つめた。「昨日、もし君がいなければ、私たちは負けていた。君の剣は、私の理論を現実にする力だ。ありがとう、レン」
レンは顔を赤らめ、そっぽを向いた。感謝されることに慣れていないのだ。
「…借りを返しただけだ。だが、あんたの科学には驚いた。あのカイ司令官を、あんな風に打ち負かすなんて」
「しかし、常に熱湯を用意できるわけではない。次にカイのような敵が現れた時、私たちは事前に波動を検知し、その能力を無力化する手段を持たなければならない」
ミンは、雷光石のコアに、港で手に入れた希少な共鳴金属を埋め込み始めた。
「私は**『海魂波動安定器』を開発します。あらゆる海魂の周波数に対応し、その力を制御下に置く装置だ。そのためには、さらに特殊な鉱物、特に低周波に共鳴するレアアース**が必要になる」
彼の瞳には、冒険家としての好奇心と、科学者としての探求心が燃えていた。
レンは静かに、彼の隣に座り、整備を手伝い始めた。
「次に行くのは、そんな鉱物がある場所か?ジーロに言っておく必要があるな」
「ええ。私たちの次の目的地は、『沈黙の海底火山』です。そこには、私の探している安定器の核心となる物質があるはずです」
二人の間には、もはや疑念も警戒心もなかった。あったのは、互いの力を認め合う、静かな信頼だけだった。




