理学部に入学する人におすすめするエッセイ
それは異常中年独身万年助教、と言いたいところだがこんなものを読んでも仕方ないだろう。入学の時期なので、二つほど推薦しよう。一つ目は「雪は天からの手紙・中谷宇吉郎エッセイ集」だ。中谷宇吉郎は東京帝国大学出身の物理学者で、寺田寅彦の弟子にあたる。北海道大学に長く勤め、その中で雪の結晶外形とそれが形成される条件の関係を実験的に明らかにした。彼のエッセイには当時の物理学者たちの日常生活が描かれている、寺田寅彦の周りの人々が漢詩のやり取りをしていたりと上流階級らしい風俗が見られて面白い。ちなみにこの頃の東大には津山の人が多くいた、津山藩医の箕作阮甫が前身となるいくつかの研究施設を幕末に設立したからだ。箕作家は長岡半太郎や坪井誠太郎らの外縁にあたる。そういえば、岡山大学にいた頃に、若手の研究者や博士課程の学生が県内の高校に訪問し、科学の面白さを伝えるという企画があった。その際に津山に行ったときに、そこの担当の教員から「教養のない田舎者の生徒たちですが……」と言っていたが、津山藩と東大の関係を知っていたのだろうか。余談だが、北海道大学は札幌駅に近く便利なところにある、まぁ帝大は辺境に移転した九州を除けばどこも良い立地にあるのだが。かつて中谷が使用していた実験棟は駅からも近いところにあり、記念館となっている。しかしながら彼が設立に関わった低温研は最も端にあり用事があるときに行こうとすると非常に不便だ。
二つ目はHenry Eyringによる「Reflection of a Scientist」だ。Henry Eyringは理論化学を専門とし、液体における熱活性化過程に関する理論で大きな業績がある。あの液体に関する論文は微妙に内容が被っている物が多く今やったらサラミだと叩かれるだろう、それを踏まえても彼は偉大な化学者だった。さて、彼はカルト教団の司祭だった。彼の両親はOldそしてNew Testamentに続くAnother Testamentを信奉していた、つまるところ宗教二世だ。彼が自身の家から継いだ信仰、科学というもう一つの信仰をどのように折り合わせているのかを読むことができる。




