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世の役に立つ研究がしたくない

私の素直な気持ちだ。人の役に立つ、となった途端に何かが汚される気がするからだ。知や力がある者はそれを世に役立てなければならない、それはとても儒家らしい考え方だなと思う、隠者になって人の役に立たない自分だけが好きなものを研究していたいものだ。

ただ、そんなことは封土収入がある貴族でもない限りできない。研究には金がかかるし、生きるのにも金はかかる、そして酒は飲みたいし、遊びたい。そうすると必要になるのは給与と研究費を皆様の税金から払って頂く建前を作成する能力だ。私は温度や圧力に対して変な挙動をする物質群のことが好きだ、なぜそのような振る舞いをするのかを新たな数学的手法を提案しながらネチネチと調べることに喜びを感じる。しかしながら、その気持ちをそのまま他者に表現しても金銭を得ることはできないだろう。例えば日本学術振興会から科研費を得る際の申請書にはあまり科学的な内容が含まれず、しょうもない高尚な文言が並んでいるだけになりがちだ。もちろん、限られた枚数にギチギチに学術的内容を詰め込んだ自分を含めた分野の数人にしか理解できないような申請書を書いても良いが、分担で潤っていて使い切れないが体裁として代表者の申請書を出さないといけない状況でないかぎり避けたほうが良いだろう。知り合いの偉いおじさまが「NSに論文を乗せたいならバカでも読めるように書け」と言っていたのを覚えてる。私のお世話になった人のなかで研究できるしそのうえ科研費を獲得するのもうまい人がいるのだがその人は「科研費の書類を作成していると心が汚れる」と悩んでいた。

心のなかではいくらでも世のためになる研究をしたくないと思っていても良い、ただ自分の研究がどのようにして社会の役に立つのかを屁理屈で説明できるようにしておくべきだろう、また自分の研究と実際の社会に繋がる分厚い変換層を調べるのは意外と自身のためになるものだと思う。

私のせんせえは「一年一報、十年一報」と言っていた。彼もまた私と同じようにあまり社会貢献を考えるような性質の人ではなかった、しかしながら多くの企業から資金を得ていた。好きな研究をするにはどうしても研究費を得るためにつまらないことをする必要がある、そのなかで許容範囲となる、ある程度自分が楽しめる流行のもので人のためになる研究をして定期的に頻繁に論文を出しつつ、その影で自分の好きなことをやり十年に一度でいいからそれを纏めるといい、と言っていた。絵師が「仕事イラストの息抜きに趣味のお絵かきしよ❤」ってよく言ってるのに似ている。いづれにせよどうしても人世での物事であり研究活動を行うためには人として社会の中で生きることが好ましい。


おとなになるって

かなしいことなの……。


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