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丸太小屋構文の美しさ

"私は同性愛者ではありませんが、大谷翔平さんと一緒に森の中の丸太小屋に住みたいです"という文章が日本で人気が出た。もともとはGame of Thrones (G. R. R. Martin, A Song of Ice and Fireを原作としたテレビドラマシリーズ)に登場するJon Snowという人物に宛てられたものだった。Steamで外人たちがアップしているゲームのスクリーンショットを眺めていると、時折画像をJon Snowに差し替えたものを見かけるため、あまり海外のホモ事情は知らないが人気がある人物なのだろうと推測される。Jon Snow構文が生まれた後、様々なホモ受けのいい人物に対するコピペがredditなどに貼られ、そしてそれが大谷翔平に対しても転用された。日本語訳で投稿されたそれは直訳気味な機械的な部分と、何故か混ざるV. NabokovのLolitaの若島正訳からの引用、そして"喜びを見出す暇もなく蓋をして"という妙に詩的な意訳が混ざりあった独特の香りがあるもので人気を博した。

さて、そもそもJon Snow構文が日本に届けられるには、その構文が生き残り人口に膾炙する必要がある。私見だが、そもそものJon Snow構文が詩として美しいのだ。

"We won't ever have sex, but there will be a simmering erotic undercurrent as I stand in the kitchen window watching him chopping wood, shirtless, sweat pouring off his body."という文に注目してほしい。"shirtless"と一単語だけ挟んでいる部分が一見に妙に思えないだろうか。"exposing naked body"でもいいし、文語調な前半部に合わせるならば"as naked Greek sculpture"とか大仰にしてもいいはずなのだが、ただshirtlessと妙に俗っぽく言っている。私はこれが没入感を高めていると思う、本当にただ彼が"shirtless"で居るところを見てしまったのだ、と感じさせる。決して物語的な仮想世界ではないし、エロティックな文学の世界にもいない、同棲しているときにただ偶然彼が汗を流しながら木を切る姿をキッチンから見てしまっただけなのだ、裸体を晒し汗を垂らすその蠱惑的な姿にふつふつと欲情が滾るのを感じてしまったのだ、現実から突然官能的な世界に引き摺り込まれてしまったのだ。魏の陳思王の洛神賦にある「爾乃稅駕乎蘅皋、秣駟乎芝田、容與乎陽林、流眄乎洛川。於是精移神駭、忽焉思散。俯則末察、仰以殊觀、睹一麗人、於巖之畔」のような神性がありながらも、手触りは三島由紀夫の仮面の告白にある聖セバスティアヌスの絵で精通する場面に似ている。

このような妙な没入感はその次の文でもある、" I won't be able to climax and I'll eventually go back downstairs, angry."だ。"go back downstairs with anger"だとか"angrily go back downstairs"とかでいいはずだが、何らかの余韻を残したangry。彼が裸体を晒しながら木を切る姿を見て勃起し、丸太小屋の二階に駆け上がる。彼の姿を頭から消し去ろうと女体を思い浮かべるが結局は射精することはできず階段を降る、その時の感情こそが溜息が混じりに発する"angry"なのだ、何をやっているのだという虚無感を表すように"angry"とだけ続ける、それがあまりにも読者にその時の感情を追体験させる力を持つ。

なんとなくこの文章が滑稽だからというある種の同性愛者への嘲笑を交えて流行っただけなのかもしれないが、少なくとも私はこの文章が魅力的なものに思える。


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