表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/37

女猟師は捕まえにくいキツネが大好き

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。


 その夜、桜は一人で〈プロジェクト・クロウアイ〉の端末を起動していた。


 画面に映るのは、数式でも座標でもなく、自分自身の顔だった。


 いや――


 自分に似ているが、どこか違う。


 尖った耳を持つ桜。

 黄金の冠を戴く女神の桜。

 無機質な光沢を放つ機械仕掛けの桜。

 黒い翼を背負った桜。

 白衣姿の桜。


「こんばんは、わたしたち。」


 複数の声が、同時に、しかし調和して響いた。


 桜は息を呑む。


「……誰?」


「あなたは“桜”。わたしたちも“桜”。

 ただし、別の宇宙から来た。」


 画面が分割され、無数の“桜”が映る。


「わたしたちは、多元桜同盟。」


 その言葉は、妙に威厳があった。


「あなたは今、苦しんでいるでしょう?

 カナトは、あなたを拒んだ。」


 桜の指が震える。


 なぜ知っているのか。


「安心して。

 わたしたちはあなたを助けに来たの。」


「助ける……?」


「カナトを“正気”に戻す方法がある。

 そのためには、ワームホールを開いてほしい。」


 画面上に座標が表示される。


「クロウアイの演算機能を使えば可能。

 あなたならできる。」


 桜は迷った。


 だが、


 “カナトが戻ってくるかもしれない”


 その一文だけで十分だった。


「……わかった。」


 彼女は入力を始める。


 数式が空間を裂き、空気が震え、部屋の中央に黒い裂け目が生まれる。


 それは静かに、しかし確実に、開いた。


 


 次の瞬間。


 裂け目から次々と多くの“桜”が現れる。


 エルフ桜。

 女神桜。

 ロボット桜。

 悪魔桜。


 部屋が桜で埋まる。


 桜は一歩後ずさる。


「え……?」


「ありがとう、わたしたち。」


 女神桜が微笑む。


「これで狩れる。」


「……狩る?」


 沈黙。


 そして、エルフ桜がさらりと言った。


「もちろん、カナトを。」


 


 桜の顔が凍る。


「え?」


「わたしたちのカナトは、全員、裏切った。」


 ロボット桜が無機質に告げる。


「だから、殺した。」


「別れを告げられたの。」


「拒絶されたの。」


「だから消した。」


 しかし次の瞬間。


 全員の表情が一斉に歪む。


「でも……」


「わたしたちはまだ彼に愛している。」


「従順なカナトが欲しい。」


「わたしだけを見てくれるカナト。」


「命令を聞くカナト。」


「逃げないカナト。」


「永遠に一緒にいるカナト。」


 


 空気が重くなる。


 だが、なぜかどこかコミカルだ。


「心配しないで、カナト♡

 わたし、良い妻になるから♡」


「毎朝ちゃんと起こしてあげる♡」


「逃げたら殺すけどね♡」


「優しく監禁するから安心して♡」


 


 全員が同時に走り出す。


 


 


 一方その頃。


 


「なんで俺の周り、桜が二十人以上いるんだよ!?」


 カナトは青ざめていた。


「来なさい、カナト。」


「わたしと来るの。」


「一緒に幸せになろう♡」


「断ったら死ぬだけよ?」


 


 全員が笑顔。


 目だけが笑っていない。


 


「いや怖い怖い怖い怖い!!」


 


 次の瞬間。


 


「おいおいおいおいおいおいおいおい!!!」


 チュビの怒鳴り声が空間を震わせた。


 


 彼は額に青筋を立てていた。


 どこかボブ・ベルチャーのような、疲れきった父親の怒り。


「なんで俺の宇宙で“桜同士の奪い合い大会”やってんだよ!!

 ルールも倫理もねぇのか!?」


 


「邪魔しないで。」


「カナトはわたしの。」


「いや、わたしの。」


「撃つよ?」


 


「撃つな!!」


 


 チュビは端末を取り出し、強制座標固定を入力する。


「多元干渉封鎖、次元隔離モード、起動!」


 空間がねじれる。


 


「え?」


「ちょっと?」


「待って――」


 


 桜たちの足元に新たなワームホールが開く。


 


「君たち、まとめて別宇宙連れて行きだ!!」


 


 次々と桜たちが吸い込まれていく。


 


「カナトくんんんんん!!」


「絶対迎えに来るからねぇぇぇ!!」


「覚悟してて♡」


 


 最後の一人が消え、


 空間は静寂に戻った。

普通の桜だけが残ります。


 


 カナトは床に座り込む。


「……なんだったんだ今の。」


 


 チュビは深くため息をついた。


「多元恋愛はな、だいたい地獄になるんだよ。」


 


 桜は呆然と立ち尽くしていた。


 自分の“可能性”が、あんな形で存在しているとは思わなかった。


 


 遠くで、かすかに次元の波が揺れる。


 多元桜同盟は、閉じ込められた。


 だが――


 完全に消えたわけではない。

このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ