約束は果たされた
これはこの物語の最終回です。皆さんが楽しんでいただければ幸いです。
――静かな午後だった。
チュビは窓辺に腰かけ、
湯気の立つ紅茶を手にしていた。
世界は珍しく穏やかだった。
亀裂もなく、悲鳴もなく、
誰かが宇宙を爆破しようとしている気配もない。
そのとき、電話が鳴った。
屋敷の奥に置かれた、少し古風な受話器。
チャビはゆっくりと立ち上がり、受話器を取った。
「……はい」
回線の向こうから聞こえてきたのは、
落ち着いた男性の声だった。
テッセイカ・オサマッティの遺稿を預かり、
精査していた編集者。
「ご報告があります」
わずかな間。
「編集委員会の承認が下りました」
チュビは何も言わず、耳を澄ませる。
「未完だった作品群は、正式に完結編を制作します。
そして――出版が決定しました」
静寂。
電話口の向こうでは、
事務的な説明が続いている。
制作体制。
後任作家の最終確認。
刊行スケジュール。
だがチュビの胸に届いたのは、
ただ一つの事実だけだった。
――テッセイカの物語は、終わらない。
彼女が遺した断片は、
紙の上で再び呼吸を始める。
未発表の原稿たちも、
日の光を見る可能性を得た。
それは約束だった。
あの夜、
青い瞳の彼女が、
かすれた声で託した願い。
チュビは静かに目を閉じた。
「……ありがとうございます」
短く、それだけ告げて、
受話器を置く。
部屋は再び静寂に包まれた。
だがその静寂は、
どこか満ちていた。
チュビは窓の外を見た。
無数の世界線が、
光の糸のように広がっている。
物語は、観測されることで形になる。
そして今、
確かに観測は続いている。
チュビは、
小さく、穏やかに微笑んだ。
それは満足でも、誇りでもない。
ただ――
安堵だった。
約束は果たされた。
物語は生き続ける。
――終わり。
最後までこの物語を読んでくださった読者の皆様に感謝します。皆さんのおかげで、作家になるという私の夢を信じることができました。本当に感謝しています。




