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小さな賢者の夢

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

――その夜、チュビは夢を見た。


それはただの夢ではなかった。

どこか懐かしく、そして胸の奥を静かに締めつける記憶の再演だった。


夢の中で、チュビは初めてテッセイカ・オサマッティと出会った夜へと戻っていた。


テッセイカ・オサマッティ。

外国人の漫画家。


彼女は、ただ物語を描く人間ではなかった。

彼女には「概念の魂を見る力」があった。そうすると、パラレルユニバスが見えました。

アイデアの奥底に潜む本質を視覚化し、それを紙の上に定着させることができた。


そして彼女は、チュビの父――圭介の冒険を視ていた。


圭介が歩んできた戦い、葛藤、絶望、そしてそれでも生き続ける姿。

それらすべてを彼女は観測し、自らの最高傑作へと昇華させた。


その作品の名は――

『The Tale of a Hero With No Will to Live』。


テッセイカは、圭介にとっての詩人だった。

まるで古代ギリシャの英雄にとってのホメロスのように。

圭介が戦場を駆けるたび、彼女はそれを見つめ、描き、記録した。


彼女が姿を現すとき、決まって青い瞳の女性の姿をしていた。

そして巨大な鉛筆にまたがり、空を滑るように現れるのだった。


彼女は幾度となく圭介に助言を与えた。

未来の断片を、物語という形で。


あの夜。


なぜか、チュビは眠れなかった。


屋敷の奥から、父の声が聞こえた。

誰かと話している。


こんな時間に?


小さな足音を忍ばせ、チュビは部屋を抜け出した。

そして応接間の扉の隙間から覗いた。


そこにいたのは、青い瞳の女性だった。

巨大な鉛筆は傍らに立てかけられている。


彼女はひどく痩せていた。

顔色は青白く、呼吸も浅い。


「チュビ、来なさい」


圭介が穏やかに呼ぶ。


「彼女がテッセイカ・オサマッティだ」


テッセイカは微笑んだ。

弱々しく、それでも優しい笑みだった。


「はじめまして、チャビ」


その声は、かすれていた。


やがて彼女は圭介に語った。


自分の病が、すでに末期であること。

残された時間は、そう長くないこと。


彼女にはまだ未発表の作品が数多くあった。

だが、どれも未完成だった。


出版社は迷っていた。

未完の原稿を出すべきかどうか。

売れる保証がない。


すべては次の一作の評価にかかっていた。


その作品は、まだ描き始めてもいなかった。

だがテッセイカは、すでに六人の主人公を“視て”いた。


千恵子。

千恵美。

桜。

陽向。

ミカミ。

そしてカナト。


「この六人を、私は観測する」


そう彼女は言った。


「彼らの物語が動き出せば……きっと、価値が証明される」


だが――


その作品は、描かれることなく終わった。


テッセイカ・オサマッティは、完成を見ることなくこの世を去った。


彼女の担当編集者は、ある決断を下した。


後任として白羽の矢が立ったのは、

名高い漫画家――野林・神護助。


数々の賞を受賞した実力者。


彼はテッセイカの遺したメモ、構想ノート、断片的なスケッチを読み解くことになる。


それを通して、

ミカミたち六人が存在する“あちらパラレルユニバス”を覗き見る。


その物語に、続編を描く価値があるか。

そして何より――出版に値するかどうか。


テッセイカはそれを予見していた。


だからこそ、圭介に頼んだのだ。


「お願い……この物語を、世に出して」


もしこの作品が成功すれば、

他の未完作品も日の目を見る可能性が高まる。


それが、彼女の最後の願いだった。


圭介は頷いた。


そして後日、チャビに告げた。


「お前が、あの六人を見守れ」


ミカミ。

カナト。

桜。

陽向。

千恵美。

千恵子。


「物語は観測されることで形になる。

あいつらの人生を、面白くしろ」


その物語が魅力的であればあるほど、

出版社は決断する。


野林は筆を取る。


テッセイカの魂は、再び紙の上で息をする。


だから――


チュビは彼らの前に現れた。


日常の些細な問題に首を突っ込み、

危機を回避し、

時に叱り、時に導きながら。


すべては、

六人の物語を輝かせるため。


それが父との約束であり、

テッセイカ・オサマッティの遺志だった。


夢の終わりに、チュビは気づく。


これは過去の記憶ではない。


今も続いている、

未完の物語なのだ。

このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。

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