表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/37

読者はライトノベルの主人公から遠ざかる必要がある

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

第◯話 酸っぱい地球の裂け目


 それは、ミカミの“ある計画”の一環だった。


 トビを消す。


 トビの存在そのものを、あらゆる並行宇宙から。


 そのために、彼は回りくどい手段を取った。


「チュビ。新鮮なベリーを持ってきたぞ」


 つややかに光る赤い実。


 チュビは疑いもなくかじる。


 数分後。


 ふくよかなネズミの頬がほんのり赤くなる。


「へへ……量子……量子ってさ……丸いよな……」


 完全に酔っていた。


 ミカミは素早く動く。


 研究机の奥から、多元宇宙消去装置を取り出す。


「これでトビを――」


 だが、彼は知らなかった。


 それが未完成であることを。


 起動。


 一瞬の閃光。


 次の瞬間、空間が裂けた。


 縦に、世界が割れる。


 そこから吹き出すのは、光ではなく――鈍い灰色。


「……何だ、これ」


 チュビの酔いが一瞬で醒める。


 裂け目の向こうに見える世界。


 高層ビル。


 排気ガス。


 雑踏。


 だが、どこにも“光”がない。


「……まさか。。。これ。。。あの酸っぱい地球」


 チャビが呟く。


 その世界には、英雄がいない。


 不正と戦う理想主義者もいない。


 宇宙的な善の力もない。


 闇に抗う神話もない。


 もし神がいるとしても、ほとんど介入しない。


 祈りは届かず、奇跡は起きない。


 苦しみは構造化され、希望は商品化される。


 そこは、救済のない地球。


 そして――


 その世界こそが、読者と作者が存在する現実。


 物語の外側の地球。


 その地球は、特異な“放射”を放っていた。


 希望を削る波動。


 理想を鈍らせる振動。


 それが裂け目を通じて拡散し始める。


 他の宇宙に、感染できるだろう。


 勇者が疲れ始めるだろう。


 神々が沈黙し始めるだろう。


 理想が「現実的ではない」と囁かれ始める。


「まずい」


 チュビが歯を食いしばる。


「酸っぱい地球は……父上ですら救えなかった唯一の世界だ」


 カラス侍、勇者ケイスケ。


 兆を超える世界を解放した最大の勇者。


 独裁者を討ち、神を諭し、宇宙を浄化した存在。


 だが。


 唯一、解放できなかった。


 酸っぱい地球。


「そこで理想を信じる土壌が、最初から存在しなかった……」


 裂け目は広がる。


 空気が重くなる。


 サクラが膝をつく。


 ヒナタが胸を押さえる。


 「どうせ無理だ」という感情が、思想として流れ込んでくる。


「ミカミ……お前……!」


「俺はただトビを消そうと――」


「未完成だと言ったはずだ!!!」


「言ってない!!」


「言う前に盗んだだろうが!!!」


 チュビは装置へ飛びつく。


 小さな前足で高速にキーを叩く。


 数式を空中投影。


 因果律の縫合。


 存在確率の再固定。


「酸っぱい地球は隔離する!! 接続遮断!! 波動反転!!」


 裂け目が震える。


 灰色の光が吸い込まれる。


 最後に見えたのは、ただの曇り空。


 そして、閉じた。


 静寂。


 数秒後。


 チュビは振り返る。


 顔が引きつっている。


 耳がぴくぴく震え、尻尾が荒々しく床を叩く。


「もう知らん!!!」


 突然、爆発した。


「お前のせいで、俺はベリーで酔わされ、装置を盗まれ、未完成の多元消去装置を勝手に起動され、その挙げ句、我らの世界はあの“酸っぱい地球”と繋がりかけたんだ!!!

もう少しで大惨事に終わるところだった。だが、間一髪で亀裂を閉じることができた。!!!」


 小さな体で机を叩く。


「なんなんだお前らは!!! トラブル製造機か!!!」


 頬を膨らませ、目を潤ませながら怒鳴る。


「もう助けん!!! 絶対に助けん!!!」


「チャビ、落ち着け――」


「落ち着けるか!!! 父上でも救えなかった世界だぞ!? それを“うっかり”で繋ぐな!!!」


 ぷいっと背を向ける。


「今後、お前らの尻拭いは一切しない!!! 自力でなんとかしろ!!!」


 そう言い残し、ふくよかなネズミは研究室を出ていった。


 扉がばたんと閉まる。


 残された六人。


 誰も言葉を発しない。


 さっきまで感じていた、あの“酸っぱさ”が、まだ胸の奥にわずかに残っていた。

おそらくある日、彼らをあの恐ろしい酸性の地球に結びつけるもう一つの亀裂が開くかもしれない。

このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードもすぐにアップロードします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ